08ペニシリンショック
今回は実際の抗菌剤や他の薬剤の効用をそのまま書いています。
薬の名前が列挙されて、どうしても難しい話になってしまいます。
ペニシリン系の副作用にアレルギー反応があります。ペニシリンショックです。
クームスの分類によればⅠ型からⅤ型まであります。
このうちアナフィラキシーはⅠ型にあたります。
IgGを介した免疫反応です。IgGがマスト(肥満)細胞や好塩基球を刺激するとヒスタ
ミンやヘバリン、セロトニン等の生理活性の強い物質を遊離して、心臓、血管、肺
の炎症を誘導します。
特に生命に関わるのは喉頭浮腫、気管支痙攣です。
呼吸が出来なくなります。
まず気管支けいれんの緩寛に効能のあるエピネフリンの投与です。
交感神経を刺激し、気管支筋を弛緩させてくれます。
次にリン酸エステル型ステロイドが比較的安全でしょう。
時間的余裕がない場合は外科的気道確保手技に訴えます。
下気管切開及び輪状甲状靭帯穿刺のどちらかで気道を確保します。
上甲状腺動脈と下甲状腺動脈の血管走行に注意してください。正中には血管が少な
いので正中をはずさない事が重要です。
アナフィラキシーは外来抗原に対する過剰な免疫応答が原因ですが、ペニシリンが
尿に排出されても感作が残っています。
感作:一度過剰な免疫応答を起こした抗原に敏感な状態になること。
二度目が非常に危険。
この場合は「脱感作」を試すことも手段の一つです。
脱感作:アレルギーの原因抗原を微量づつ投与して耐性を得る療法。除感作。
脱感作をすすめる理由は共感染への対策です。
梅毒に罹患した患者さんがいたとします。
第一候補はベンザシンペニシリンです。
筋肉注射を1週間おきに3回、3週間治療します。
ペニシリンアレルギーの場合は代替治療があります。
ドキシサイクリン100mg,1日2回経口,28日間治療します。
しかし考えてみれば罹患は梅毒だけでしょうか?
クラミジアは?淋病は?共感染しているのでは?
クラミジアと淋病にはキノロンが有効です。
(クラジミアにはペニシリンは効きません)
しかし最近はキノロン耐性の淋菌が増えてきています。
この場合淋菌にはセフトリアキソンが有効です。
クラジミアのほうはアジスロマイシンで治療します。
こういった共感染がある場合はアレルギー対策が追いつきません。
効くはずの抗菌剤にすでに耐性菌ができていて、他の抗菌剤を使おうという場合に
さらにそれの代替薬を捜さねばならないからです。
これが脱感作をすすめる理由です。
一応、ペニシリンアレルギーの代替薬を以下に示します。
■テトラサイクリン系抗菌薬
①ドキシサイクリン(経口)商品名:ビブラマイシン
梅毒
早期潜伏の場合 ビブラマイシン100mg,1日2回経口,14日間
晩期潜伏の場合 ビブラマイシン100mg,1日2回経口,28日間
②ミノサイクリン商品名:ミノマイシン
ドキシサイクリンよりさらに組織移行性を向上させた抗菌剤。
副作用として前庭障害があり、乗り物酔い感や嘔吐などがある。
■ST合剤
サルファ剤と抗菌剤の合剤です。
皮膚テストについて
ペニシリンショックの皮内テストには実は100%信頼がおけるものがありません。
疑陽性と疑陰性というのがあってペニシリンショックを起こした患者さんに皮内テ
ストを行った結果、2年後陽性率が20%に減少していたということがあったのです。
もちろん陽性100%の患者さんです。
これを信頼したらえらいことになります。
確実にペニシリンショックが起きます。
これが皮内テスト陰性でアナフィラキシー・ショックを起こす確率が高い理由です。
現在は皮内テストを行わず、ショック症状が出た場合に直ちに対応できる体制作り
が望まれています。
備考
IgG:免疫グロブリン。血中に含まれる抗体の事。毒物・微生物にひっつき無害化
する、胎盤を通過する事ができる。免疫グロブリン五種類のうちの一つ。
エピネフリン:合成副腎皮質ホルモン(合成ステロイドホルモン剤)。
置換ベンゼンで気管支拡張剤。仲間のエフェドリンは漢方の生薬“麻黄”。ツムラ
の漢方麻黄湯が気管支炎に効くのはこのため。
ベンザシンペニシリン:日本で消えたり現れたりする抗菌薬。
アジスロマイシン:マクロライド系抗生物質
マクロライド系抗生物質:フィリピンの土壌中から分離された放線菌の一種。
セフトリアキソン:第三世代セファロスポリンの一つ。
第三世代セファロスポリン:セフェム系抗生物質(β-ラクタム系抗生物質)。
テトラサイクリン系抗菌薬:土壌に棲む放線菌の一種から発見された抗生物質。落
ち葉の裏とか竹林に棲んでいる。
ドキシサイクリン:テトラサイクリン系抗菌薬メタサイクリンから化学的合成され
て出来た抗菌薬。
ミノサイクリン:天然テトラサイクリンから半合成された抗菌薬。
ST合剤:サルファ剤と抗菌剤の合剤。サルファ剤は完全合成化学物質による抗菌剤。
ペニシリンの効能には及ばないが第二次世界大戦末期までは第一線で活躍した。
これとトリメトプリムという抗菌剤を合わせたもの。
文中にクラジミアにβラクタム系抗菌薬が効くようなニュアンスがありますがペニシリン系やセフェム系の抗生物質は効きません。これは細胞壁が無いためです。「文中にアジスロマイシンで治療します。」とあり結果的には正しいのですがテトラサイクリン系、キノロン系、マクロライド系が有効であることを明記しておきます。誤解を招くような文章の書き方ですいませんでした。