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05大量生産

ここからペニシリンの物語は薬剤会社同士の対立や政府からの予算の奪い合いやら一気に生臭くなるので割愛します。


さて大量生産を引き受けたのはいいですが、実は方法が分かりません。

ペトリ皿で実験をやり臨床試験で一人分をやっと捻出するのが精一杯だったのです。


それならそれでいいじゃないか。

ペトリ皿を使って大量生産しようじゃないか!

米国のすごいところはこういうチャレンジ精神ですよね。

という訳で物凄い量のペトリ皿で量産が始まってしまいました。


しかしやはり生産量には限界があり、うまくいきませんでした。

考えあぐねた結果男性病人が病室で使う「しびん」がいいんじゃないかと思いついたのです。

「しびん」の口の部分にガーゼを詰め込み使ってみるとうまくいったのです。ペトリ皿が並んでいた研究室の棚には「しびん」が並び始めました。その後の培養槽もおおよそ似たかたちになったのです。


ペニシリンの大量生産を阻んだのはこの表面積に問題でした。迅速に増殖しない事も壁となりました。膨大な数の底の浅い発酵皿が必要でした。

表面積が大きいと不純物の入りこむ隙も多くなります。

八方ふさがりになってしまいました。


一方、同じ発酵を用いたビールや化学物質のクエン酸は好調でした。

高い需要があるクエン酸は,昔から柑橘類から抽出することで生産されていました。

1919年にクエン酸は発酵法を用いた量産が開始されました。

1939年には砂糖を基質に用いた発酵システムが確立されていたのです。

クロカビ(Aspergillus niger)を主な生産菌に用いて量産される工業生産体制が確立

されていました。


クロカビで出来るならアオカビでも出来るんじゃないだろうか?


これを使ってみようじゃないかという事になり、さっそくペニシリン用に作ってみました。ステンレス槽を温度調節するラジエーターを取り付け、溶液を攪拌する攪拌翼をモーターで回し、底の浅い発酵皿の時と同じようにする為の、空気を供給するスパージャ等が備え付けられました。

抗生物質の通気携挫培養(いわゆる深部培養)の幕開けでした。


挿絵(By みてみん)


注意:図解の名称は英語表記にしています。

これはネット検索する時に発酵装置で検索してもタンク培養にたどり着けませんがfermentorで検索するとヒットするからです。


ペニシリンも同じでpenicillin productionで検索するとヒットしますよ。


時をおなじくしてペニシリウム属菌に与える栄養分の研究も成果を得ていました。

それは、コーンスターチを生産する時の副産物のコーン・スティープでした。


コーン・スティープ(Corn Steep Liquor)はコーンを浸漬しその穀粒を取り除いた

あとの液体でした。この余剰副産物に中和剤を(亜硫酸水のため)添加|します。

ペニシリウム属菌の増殖に害がないようにしたのです。さらにこの培養液は効き目の強いペニシリンGの生産に向いている事が分かりました。配合は以下の通りです。


①グルコース(ブドウ糖)11~44g

②硝酸ナトリウム3g

③硫酸マグネシウム0.25g

④リン酸二水素カリウム0.5g

⑤濃縮コーン・スティープ液60ml

⑥1000mlの溶液を作るのに必要な水

⑦pH値6.5を保つ事。

⑧温度摂氏20から24℃に保つ事。


後日分かった事ですがコーン・スティープ液の特効成分はフェニル酢酸だったのです。これは純粋な科学的手法でもっとも安価につくる事が出来ます。


さらに幸運も味方します。

イリノイ州ピオリアに住んでいたある奥さんが、新聞に北部農業研究所が「アオカビを探しています」の広告が載っているのを見て、わざわざアオカビが生えて食べ

られなくなったメロンを研究所に届けてくれました。


これこそゴールデンスタンダード(優良)種Q176株だったのです。


X線を当てても死にません、紫外線を当てても死にません。

研究所は生き残った優良株をコーンスティープ培養液で深部培養にかけました。


ペニシリン15kgで300億ユニット!増殖速度は12倍に跳ね上がりました。


ただちに深部培養槽のもっと巨大なのが作られ大量生産が可能になったのです。


こうしてペニシリンが潤沢に手に入るようになって人々は思い当たったのです。

ペニシリンの分子構造はどうなっているのだろう?

人の細胞を破壊せず、細菌のみを破壊するのはなぜだろう?

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