Ending
【Endding】
日々、お客様を受け入れ、送り出す。ソレがホテルのお仕事です。
勿論、経理も欠かせません。
男は新たなお客様を向かい入れるチェックインまでの間に、テラスへ出ては十露盤を弾きます。
「上々だな」
お客様は専らドイツ人です。
日本政府と対談する為、引っ切り無しに訪れますから、だいぶ顔見知りも増えました。
ドイツ語も覚えました。
「マスター! お疲れサマです! 紅茶を持って来ました!」
「ああ。そこへ。こぼすなよ?」
「ぁい!」
カフカはとても不器用です。
力加減も下手なので、お掃除をしても色々な物を壊します。
カフカは丁寧に丁寧に紅茶をカップをテーブルに置き、零さなかった事にホッと肩を下ろします。
「カフカ、ちゃんと出来たよ!」
「ああ。そうだな」
男は、ぶっきら棒に言います。
当たり前だとも言うように聞こえますが、悪気はありません。
単に、上手に褒める事が出来ないのです。
「カフカ」
「ぁい!」
「はい。だ」
「ぁい!」
「……」
まだ、起動して3年目のカフカは『はい』が言えません。
男は呆れますが、カフカの入れた紅茶がとても美味しかったので、とても心が和みます。
男は一息をつき、傍らに きをつけをするカフカを見て問います。
「カフカ」
「ぁい!」
「お前は、どの季節が好きだ?」
「?」
カフカは首を傾げます。
何故ならカフカはソーラードールですから、人間ではありませんから、感覚や感情がありません。
夏は暑く無いし、冬は寒くありません。オナカも空きません。
悲しい事も無ければ、楽しい事もありません。
以前に男が教え込んだ笑顔はだいぶ上手になりましたが、まだまだ歪です。
それが男には虚しく感じます。
カフカはニッコリと笑います。
「マスターは?」
「俺は……秋、か」
「秋」
「ああ」
「ぢゃ、カフカも秋スキ!」
カフカは何でも男のマネをします。
この前は、男が吸っていた煙管を吸い、目を回して倒れてしまいました。
男は単純なカフカを笑うと、次には青空を見上げて、カフカを売った人形売りの言葉を思い出します。
『人形ですよ、心などあろう筈が無い。このドールは命令だけを聞きます』
余りにも精密な人の形をしているから、カフカは『実は人間なのではないか?』と錯覚してしまう事があります。然し、年もとらないし、やっぱり人形。
カフカに心が無いと思うと、時々どう接して良いのか分からなくなります。
「――ドイツの童話に、こんな話がある」
男は目を閉じ、滔々と、カフカに物語を聞かせます。
「ある日、妻も子もいない男のもとに1体の人形が贈られて来た。
孤独であった男は、いつしかその人形に話しかけるようになったそうだ。
人形は何も言わないが、男の孤独は癒された。
家族のように大事にしてやると、その内に人形は、その男の愛情に応えるように【心】を手に入れ、人になったのだ。と、」
何処か、男とカフカに似たシチュエーション。
男はそんな童話の世界が自分に訪れれば良いと、思っているのでしょう。然し、カフカには分かりません。
男はカフカの頭を優しく撫でます。
そして、カフカは嬉しそうに頬を赤らめて言うのです。
「カフカはね、マスターの手が、1番好きだよ」
コレが、カフカの心。心はちゃんんと、ココに在る。
END 2013/07/21 writing by Kimi Sakato