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カフカの森。  作者: 坂戸樹水
3/5


 カフカは日差しの力を蓄えると、お布団をベッドに広げます。


「よし! コレでマスターはいつでも休めるぞ!」


 カフカはふかふかのお布団を撫でると、少しだけ肩を落として俯きました。


「……どうして帰って来ないのかな?

マスターはカフカのコト、忘れちゃったのかな?」


 腰をつけ、ベッドに寄りかかれば、お布団からは太陽の匂いがします。

でも、男の匂いが無い事には心がしぼんでいくようです。



「早く、会いたいな……」



 男は帰りません。

戦争が始まった当初に出兵を余儀なくされ、ホテルの経営を親戚筋に任せました。

カフカも一緒に預けました。


そして、ある年のある日、男は戦場で名誉の死を遂げたのです。

男の親戚達が暫くはホテルを切り盛りしたのですが、時代の流れには逆らえず、廃業に至りました。

然し、男の残したホテルを売りに出すのは偲ばれたので、今もカフカのお屋敷としてココに在るのです。

この事の全てが、知能の低いカフカには分かりません。


 ただ、



『カフカ、屋敷を頼んだぞ』

『はい、マスター!』



 男の残した言葉に従順なのです。



『マスター、早く帰って来てね!』

『――ああ、必ず帰って来る』



 だから、今でも待ち続けるのです。


 心が無い筈のカフカに、どうして心があるのか、ソレは誰にも分かりません。

親戚達はカフカに『お屋敷を離れ、うちへおいで』と何度も言って聞かせたのですが、カフカは お屋敷を離れる事はしませんでした。

ただ、男との約束を守る為だけに、お屋敷に留まっているのです。

ただもう1度、男と会いたいのです。

もう1度、奇麗なお屋敷で一緒に過ごしたいのです。

そうしてまた頭を撫でてくれたら、それ以上の幸せはありません。



「マスター……カフカ、待ってるよ」



 コレからもずっと、カフカは男を待ち続けます。

この奇麗なお屋敷で待ち続けます。



*



 カフカは、今日も お掃除をします。

今日もピカピカです。今日も太陽は輝いています。

何だか今日のカフカはご機嫌です。

鼻歌を歌って、男の部屋をお掃除しています。



「今日はマスターが帰って来るような気がする!」



 そんな気がします。そんな予感がします。

だから余計にお部屋を奇麗にお掃除します。

雑巾で磨く窓はすっかり透き通り、まるで空気のようです。


「あ」


 ポトリ……と、雑巾はカフカの手から滑り、床に落ちました。

カフカは自分の手に目を落とし、首を傾げます。


「どうしたの?」


 どうしたのでしょう? 手に、力が入りません。

雑巾を拾おうと腰を折ると、そのままバランスを崩し、ドサ! と、男のベッドに倒れ込んでしまいました。


「……――」


 どうしたのでしょう? 体中から、力が抜けて行くようです。


「…う、ご、かな、い……ど、して、かな? カフカ、い、つも、元気な、の、にな……」


 声も、途切れてしまいます。頭も、ボーッとします。

すると、何処から足音が聞こえて来ます。


(誰だろ……お客様かな?)


 お客様が来たなら、一目散にお出迎えをするのもカフカのお仕事です。

でも、体が動きません。


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