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カフカの森。  作者: 坂戸樹水
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「さぁ、マスターのお部屋をキレイにしなくちゃ」


 カフカは兎に手を振り、男の部屋を目指します。



 男のお部屋だけは特別です。毎日毎日お掃除をします。

お布団をバルコニーに引っかけ、ホコリを叩くと、太陽の光がお布団に吸収されるまで、窓やテーブルを磨きます。

タイプライターの僅かな隙間も、ホコリが残らないように気を配ります。

そして、決まってカフカはお部屋の壁に掛けられた大きな絵を見つめるのです。


 豪華な額縁の中に描かれるのは、ホテルを創業した男のお祖父サンと、お祖母サン。

それを引き継いだ男のお父サンと、お母サン。そして、マスターである男。

ホテルは、この5人が一生懸命に支えて来た宝物です。

だから、カフカにとっても大事な大事な宝物です。


「マスター……」


 ココ10年余り、男には会っていません。

男はココ10年余り、このお屋敷には帰って来ていません。


「いつ帰って来るのかな……?」


 もう随分な年月が経ちますから、男の匂いはお屋敷からスッカリ消えてしまいました。

ソレがカフカには とても悲しく、寂しくてなりません。


 カフカは左右を見回し、本当に誰もいない事を確認すると、

小さな背をいっぱいに伸ばし、手を伸ばし、棚の上にある小さな写真立てを取ります。


「ふふふ。マスターとカフカ。仲良し」


 そこには、男とカフカの2人だけの写真が飾られています。


 確か15年程前、カメラと言う西洋奇術箱を持ち込んだ外国人が『記念に』と、2人を撮した時の物です。

小さなカフカの頭の上に男の大きな掌が乗せられた、まるで家族のような写真です。


「カフカの見えない所に置いてあるの、何でだろ?」


 コレを見つけたのは、男が戻らなくなって暫く経ってからの事になります。

毎日お掃除をしていなければ、見つけられなかった写真立ては、カフカの背では見えない高さに飾られていました。

きっと、カフカに知られては恥ずかしかったのでしょう。

それでも男は、カフカとの思い出を大事にしたかったのでしょう。


 カフカにはその理由が分からないままですが、

こうしてこっそり2人だけの写真を見るのが毎日の楽しみです。

写真に写る男の穏やかな顔を見る度に、寂しさが和らいでいくのです。


「あ。お布団!」


 揃々、太陽の光をいっぱいに浴びたお布団が出来上がった頃。

カフカは棚に写真を戻し、バルコニーに走ります。

太陽の日差しは元気です。カフカは両手を広げ、大きく深呼吸をします。


「モグモグ。美味しい」


 カフカのゴハンは日差しです。

カフカは太陽の日差しで動くソーラードールです。


 ある年のある日、

ホテルが大繁盛で猫の手も借りたいでいた男に、人形売りの外国人が訪れました。その外国人は、



『日本で言う所のカラクリ人形です。然し、それよりも もっと優れた人形です。

太陽の光をエネルギーにして動きますから、発条も要らないし、

エネルギーにお金もかかりません』



 そう言って、男にソーラードールを紹介したのです。

ソーラードールを目にした男は驚きました。



『コレが人形? まるで、人間の子供じゃないか!』

『ええ。人間の子供のように作りました。カフカと言うモデルです。

低いですが、知能も備わってます』

『言葉は話すのか?』

『ええ。然し、難しい日本語は覚えませんよ。何せ、西洋モデルですから。

それから、知能が付くには時間がかかります』

『心はあるのか?』

『人形ですよ、心などあろう筈が無い。このドールは命令だけを聞きます』



 男はすっかりソーラードールを気に入り、購入しました。

それはそれは高い買い物でしたが、知能まであると言うのが、何とも魅力的だったのです。


 そして、人形売りはこんな事も言いました。



『たまには手足に油を挿して上げてくださいよ。それは人形ですから』



 と。


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