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カフカの森。  作者: 坂戸樹水
1/5

初めて書いた小説をUPしてみました。

童話的な世界観で、淡々と。切々と。




 カフカはとても大きなお屋敷に住んでいます。


 どれくらい大きいかといえば、川のように長い廊下と、

蜂の巣のように沢山のお部屋のある、3階建てのお屋敷です。


 沢山のお部屋の1つ1つには、大きなベッドとクロゼット。

お風呂とトイレも付いていて、とても快適です。


 何故こんなに快適かというと、このお屋敷は、

もともと外国人の方が利用する、専用のホテルであったから。

ココは日本なのだけど、外国人が落ち着いて宿泊できるように、

見た目はスッカリ洋風なのです。



「さぁ。今日も お掃除だ」



 カフカは毎日お掃除をして過ごします。

お部屋が沢山ありますから、毎日1つ2つずつお掃除をしても、全てを奇麗にする頃には初めのお部屋にホコリが溜まってしまいます。

だからカフカは毎日お掃除をして過ごします。


「いつ、誰が来てもイイよぉに、お屋敷はキレイにしとかなきゃね」


 お屋敷には、カフカの他に誰もいません。

従業員も、外国人客も、お屋敷の主すらいません。


 何故かと云うと、10年程前、大きな戦争が終わった事で外国人は次第に訪れなくなり、ホテルは廃業せざる終えなくなりました。

だからカフカがどんなにお掃除をしても、このお屋敷が以前のような活気を取り戻す事はありません。それでもカフカは、今日もお掃除をするのです。


「マスターは、またココに人がイッパイになるの、楽しみにしてるから、

カフカはキレイにお掃除しとかなきゃね」


 マスターとは、このお屋敷がまだホテルであった頃の主です。

若くしてお屋敷の主となった男は、大変賢く優秀でした。

カフカに対しては言葉少なく、ぶっきら棒に接する男でしたが、心は優しく、

カフカがきちんと仕事をこなすと、それはそれは温かい手で頭を撫でます。

カフカはその手が大好きなのです。


「キレイ。キレイ。マスター、きっとホメてくれる」


 ポカポカな温かい日差しが差し込む中、

カフカは廊下を磨き上げ、お部屋のドアノブもピカピカにします。

何れ帰って来る男が褒めてくれるのが待ち遠しくてなりません。

カフカは男の顔を思い返しては幸せな気持ちになります。


「お庭もキレイにしなくちゃ」


 大きなお屋敷ですから、お庭も広いのです。

ホテルであった時分には薔薇が咲き誇っていましたが、カフカには植物の育て方が分かりません。だから今は、何も無い草と土の広場です。

それでも、カフカは奇麗に落ち葉を掻き集めます。


「あ」


 この庭には、時々お客様がやって来ます。

その客は、居ついたきり決して帰りません。


「今日はうさぎサンか」


 様々な動物がお客様です。

然し、動物達はこの庭に入ったきり、出ては行かないのです。

兎はピョンピョンと飛び跳ね、草むらのクッションを見つけると、

そこにクテン……と横たわります。そして、2度と起き上がりません。


「お墓、作らなくちゃ」


 何故だか分かりませんが、不思議な事に、死期を悟った動物達がこの庭に訪れるのです。

日に、一兎か、一羽か、一匹か、一頭か、

草むらのクッションを見つけては、そこで天命を終えるのです。


 カフカは物置小屋からスコップを取り出し、両手で躯を退けると、

草むらのクッションと同じ位置に穴を掘ります。

深く、深く掘ると、そこに緑のクッションを作ってやるのです。

寝心地良くふかふかにして、そこに兎の躯を預け、土を掛けます。

そして、枝を見つて枯れた薔薇のツルで括りつけ、十字架を作ります。

こうして今日は、兎のお墓を作って上げました。


「ど? 温かい? 今日からココがキミのおうちだよ」


 以前に、屋敷の主である男がこうしていた姿をカフカは良く覚えています。

庭には沢山の十字架が並び、落ち葉に埋もれる事なく、奇麗に並んでいます。

死の意味など、カフカには分かりません。

それでも、悲しい気持ちが溢れます。


「大丈夫だよ。カフカが一緒にいる。寂しくないよ」


 動物達は知っているのです。

この庭を訪れれば、カフカが優しく葬ってくれる事を。


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