研究所脱出編2
強化クローンの前に立ち、血喰を構える成実。右腕からは鋭牙が覗かせている。
成実が血喰を出した時、うまく言葉には出来ないが威圧感のようなものが全身を駆け巡った。これが実戦経験の差というやつだろうか・・・。
「紅夜(こうや、)下がってて」
素直に後ろで待機する。
「タイプ15は初めてだけど・・・殺る!」
成実がタイプ15の懐に飛び込み、素早い斬撃を繰り出す。・・・速い。辛うじて目では追えるが、とても俺ではついてけそうにない。四本の翼に片手だけの鋭牙で対向し、更に反撃まで加えている。エリートってのは嘘じゃないのか・・・。体術も織り混ぜながら、拮抗した戦いをしている。
タイプ15の翼も十分に速いのだが、それよりも成実の攻撃の方が速い。スピードが違いすぎる。
少しずつ本体にも攻撃が入り始め、タイプ15の血を血喰が吸収し始める。
戦況は成実が優勢、端に追い詰めていきどんどん血を吸収する。
・・・?なにか変だ。誘い込まれている感じが・・・。
その時、タイプ15と思われるクローンが上から床を突き破って出現し、成実の四方を囲む。
「成実!」
「くっ・・・」
成実は素早くしゃがみ一体の足を払う。その態勢から時計回りに回転しながら飛び上がり、回し蹴りを一体に食らわせる。だがその隙に他の二体から血喰で攻撃をうける。こちらに吹っ飛ばされる成実を受け止め、
「成実!」
「大丈夫・・・よ、この位じゃ、死なない・・・わ」
「嘘つけ!もう血喰も弱まってるじゃないか!」
「・・・紅夜。逃げて」
「・・・は?」
「もう少しだけ時間を稼ぐから、その間に速く逃げて」
見捨てて逃げろってか?
「出来るわけ無いだろ!成実はどうすんだよ!」
「分からないの?紅夜じゃタイプ15には勝てない」
確かに・・・そうかもしれない。いや、勝てない。
「無論、私もあんだけいたら無理。だから、せめて紅夜だけでも逃げて・・・」
「嫌だ」
「・・・え?」
「嫌だって言ったんだ」
「なんでよ!無駄だって言ってるのよ!?」
「俺には今戦う力がある。あの時は目の前で殺された親を見ているだけだった。でも今は違う。力が有るのに目の前の仲間を見捨てて逃げるなんて選択俺には出来ない」
「仲間・・・」
「ああ、仲間だ」
あったばかりとはいえ成実はもう仲間だ。見捨てられるか。
「・・・紅夜。戦うの?」
「ああ・・・勝つさ」
「じゃあ、これ使って?」
そういって自分の首をこちらに向ける成実。
「・・・?」
「吸血鬼は首の動脈から血を吸って、しかも自分の牙の方が方が多くのエネルギーが手に入るのよ。ほら、早く?」
そ、そうなのか・・・。それはやっていいことなのか?
俺がためらっていると、
「早く、タイプ15がもう来てる。それとも、私じゃダメ?」
正面を見るとすでにこちらに向かって歩いて来ている。
「わかった。行くぞ・・・。」
俺はゆっくりと口を成実の首に近づける。唇が肌に触れた瞬間、自分に生えた牙をその玉のような肌にかけていく。ゆっくりと、慎重に肌に牙をくいこませていく。
「あぁ・・・ん・・・んぁ」
成実の喘ぎ声・・・?も聞こえてくる。距離が近い分緊張がすさまじい。
・・・あった。動脈を破ると血が放出される。穴は小さいので、一度に出てくる量は控えめだ。その液体があふれ出した首の傷近くを舐める。
「あ・・・ん・・・ぁぁ」
正直とても理性を保てそうにない。ようやく十分な量の血液を吸収すると傷口は勝手に閉じていき、元のきれいな肌に戻っていった。成実は瞳孔が開き、顔を赤らめ、火照っている状態であったが、数秒でもとに戻った。
「これで・・・紅夜も戦えるはず」
・・・なんだ、これは。体の奥底から力があふれてくる。血喰も今まで以上に活性化しているようだ。今なら・・・殺れる!
俺は成実と並んで立ち、
「・・・行くぞ!成実!」
「・・・行くよ!紅夜!」
俺たちはクローンへ牙を向けた・・・。