プロローグ3
スライド式のドアのすぐ横に、壁に寄りかかるようにして成実は立っていた。
「うん、大分さっぱりしたね。・・・話せる、かい?」
「話すも何も・・・叫び声が聞こえて見に行ったら部屋は既にあの惨状だった」
「そうなのか・・・で?部屋に行ったら?」
「んー。いきなり押し倒されて、ていうか乗られて、キ、キス?されたんだが」
流石に健全な高校一年生。そんな経験あるわけない。え?ある?死ね!
「そっか、やっぱりそうなんだね」
「やっぱり?どういうことだ?」
「彼女・・・三代目レッド・ヴァンパイア。通称エクレは気に入った人間を吸血鬼にして自分のファミリーに加えることがあるんだ。エクレはよっぽどの理由がないと生かしたりはしない。だから、君はこれからエクレに狙われることになると・・・思う」
つまり、何らかの理由で俺はエクレという吸血鬼に気に入られ、その団体?に入らされようとしてるわけか。
「ファミリーとはなんだ?」
「ファミリーって言うのは、簡単に言うと吸血鬼の集まりかな。同士とか家族とかが集まって結成するんだ」
「じゃあ君もその、どこかのファミリーに?」
「うん、もちろん。ていうかここが私の所属するファミリーの本部だよ」
・・・道理で施設が充実されているわけだ。
「あ、そう言えば自己紹介してなかったね。はじめまして。対レッド・ヴァンパイアファミリー、通称ルビー所属、第五番隊隊長、超エリート霧雨成実です♪」
・・・なんか色々突っ込みたいけど我慢だ。きっとそういう性格なんだ。
「それじゃ、今から私のことは呼び捨てでいいよ。私は好きなように呼ぶし」
「・・・わかったよ、成実」
「よし、じゃああーちゃんは」
「誰だそいつ」
「えーじゃあこーちゃんは」
「ちゃんづけはどうにかなりませんかねえ!」
「むーならば普通に紅夜でいいや」
はじめっからそうして下さい・・・。
「よし、紅夜。今から君は事情聴取を受けることになる。はっきりと、あったことだけを喋るんだ」
「はい?え、誰に?」
「ルビーの幹部連中だよ。私が聞くんじゃ納得しないんだって」
まあ、中学生にしか見えないし・・・。
「それで、話を聞くから連れてこいってさ・・・着いてきて」
そういって歩いていく成実。俺は慌てて追いかける。
同じような廊下がどこまでも続いている気がして、すぐに迷いそうだ。
やがて、あるドアの前で止まる。
「ここだよ。・・・大丈夫。私も後ろについてるから」
そういって微笑む成実。ゆっくりとドアを開けると、そこは裁判所のようだった。
左右に席があり、前の席は特別高い。確実に偉い人が座っているのだろう。
「・・・真ん中に出よ」
前の席の誰かが発言する。恐らく真ん中の台に乗れということだろう。素直に従っておく。
「・・・ではこれより、暁紅夜の事情聴取を行う。まず現場の状況についてだが、質問のある者は?」
スッと手を挙げたのは右の男性。
「なぜ、血液が飛び散っていたのでしょうか。普通なら無駄にはしないと思います」
書記のような人がカタカタとキーボードを打つ音が響く。
「ふむ・・・確かに。しかし今は彼に関係有ることでの疑問を頼む。無論、その件は後々調査する。・・・他には?」
今度は左側の女性が手を挙げる。
「彼には弟がいるようですが、現場からは両親の死体しか見つけられませんでした。連れ去られたものと思われます」
え?嘘だろ?蒼夜が連れ去られた?
「ん・・・どうなのだ。紅夜君」
「・・・わかり、ません。両親の寝室にしか行ってなくて、そこで気を失ったので」
「なるほど・・・今すぐに捜索班を編成し調査を開始せよ」
数人がパタパタと走っていく。
「他は・・・居ないようじゃな。次に、被害者の状況についてじゃ。質問のある者は?」
その瞬間、大量の手が挙がる。
「では左端から」
「なぜ彼だけが生き残っているのですか?」
「ということだそうだが、紅夜君?」
「・・・わかりません。思い当たる節も無いです」
「連れ去ろうとしたが、何らかの理由で連れ去れなかった。というのが妥当な判断かの。次は」
「なぜ彼はすんなりと吸血鬼になれたのでしょうか」
「それについては調べが上がっている。非常に希なケースじゃが、彼の一族に吸血鬼が混じっているようなのだ。それならば、納得いくじゃろう?次は」
誰も手を挙げない。聞きたいのはその2つだけだったようだ。
「それでは、最後に紅夜君にいくつか質問じゃ。まず、これからどうしたい?」
「これから・・・?」
「知っての通り君はもう吸血鬼。世間から疎まれる存在じゃ。一人で普通に生活することは厳しいじゃろう」
これから・・・か。
「俺は・・・蒼夜を取り戻したいです。そして、出来ることならあの吸血鬼を殺したいです」
「・・・それは簡単なことじゃないぞ。死ぬかもしれない」
「承知の上です。それでも俺は刺し違えてでもあいつを殺したいです」
「いろんな物を失うかもしれん」
「もう失うものなんて無いですよ。全て奪われたんですから」
「本当に、その道を選ぶのか?復讐に生き、復讐に死ぬ。その覚悟はあるのか?」
「・・・はい。あります」
「ならばその覚悟、見せてみよ」
え?と思った時にはもう遅く、俺の下の足場が開き、落ちていく。
・・・痛ってえ。骨折れて・・・ない。普通に動く。
「吸血鬼はこんなことじゃ傷を負わないよ」
振り替えると成実の姿が。
「君はまだ力の使い方を知らないからね、アドバイスだよ。アドバイス」
「力・・・ってなんだ?」
「人間にはさ、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚ってあるじゃん?吸血鬼にはもうひとつ、血覚っていうのが有るんだ。それを感じとるのがこれ」
そういって手を見たことのない物で覆っていく。先端が鋭く尖っていて、手を槍にしたかのようだ。
「これが私の血喰。血喰にはいろいろタイプがあって、私みたいに形が尖っている鋭牙。鋭牙と似ているけど尖ってないのを平牙。腰の後ろから出てるものを尻尾とかね」
つまりそれぞれに血喰があってそれは個体で異なると。
「この血喰で血に触れば吸血が出来るの。半年に一回、一定量の吸血をしないと死んじゃうから気を付けて。・・・じゃあ紅夜も出してみようか。はい」
「いや、はいじゃ出せないから・・・コツとか無いの」
「全身に力を込める感じで」
む・・・ふん・・・ぐ・・・。無理だ出ない。
「じゃあしょうがない。奥の手を使おう」
奥の手・・・?
そう言って取り出したのは血液の入った袋。
「これを近づけていけば血喰が反応してくれるはず」
足からいろんな所に袋を近づけて行く。・・・ん、あ、なんだこれ。背中が・・・と思った時には、もう翼のような血喰が出現した後だった。
「やっぱり翼か。エクレの影響だね・・・」
「どういうことだ?」
「エクレに吸血鬼にされた人間は少ないんだけど、その全員が翼の血喰なんだ。そしてもうひとつ特徴があるの」
今度は前に袋を近づけて行く成実。ん?腕も・・・。今度は右腕から血喰が出現した。
「これがもうひとつの特徴。エクレに吸血鬼にされた人間には二つ血喰があるんだ」
血喰・・・見たことのない鮮やかな色をしている。でも吸血器官なんだよな・・・。
「二つ目はランダムなんだけど、紅夜は鋭牙みたいだね。・・・よし、じゃあ仕舞ってみよう」
「いや、出来ないから」
「納める感じでやってみて」
納める・・・ふん。あ、出来た。シュルシュルっと体の内側に吸い込まれて行く。
「じゃあもう一回出して」
今度は直ぐに出せる。
「・・・うん。出し入れは出来るね。後は使い方なんだけど、これは習うより慣れろかな。総督様もそのつもりでここに落としたんだろうし」
「あ、そうだよ。ここはどこなんだ?」
「ここはエクレのデータを元に作った弱体化クローンのいる研究所。ここから脱出してこいってことだね」
「え、それ勝てるのか・・・?」
「まあ、危なくなったら私もいるから。取り敢えず紅夜は血喰の使い方を覚えてね」
というわけで後ろにあった階段を昇る俺達だった・・・。