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三人目

日が暮れようとしている頃合い、天幕の外は喧騒に包まれている。

夜は亜人の領分だ。

亜人、それは主に動物の特徴を持った二足歩行の知的生命体を指す言葉なのだが、人の間では蔑称として使われる事がままある。

それは彼らの大半が夜の眷族であるからかもしれない。


「主様、報告いたします。各軍団長がいらっしゃいました」


天幕に入ってきた猫耳の少女が、俺の方へと敬礼した後そう報告してくる。


「分かりました、中に入るよう伝えなさい」


俺と共にその報告を受け、俺に代わりそれに凛々しい顔立ちをした美女、俺の信頼できる副官であり女型バンパイアロードたる『カラーファ』だ。


「主様、いよいよでございますね」


トリミを下がらせると、先ほどとは打って変わって柔和な表情で胸を押し付けつつ俺の額にある小さな角を撫でさすり、おもねる様に囁いてくる。


「そ、そうだな」


バンパイアロードであるカラーファは背中に小さな黒い羽があるが、それ以外は普通の人間と変わらない。

肌は透き通るほど白く、巨乳だ、いや『爆』が付いて更に『超』を付けても文句が出ないぐらいのレベルだ。

それが、しっとりねっとりと・・・・・・


「いかんいかん、少し離れてくれ、カラーファ」


俺は理性を総動員して霞がかかりそうになる頭を振ると、彼女を引き離す。

素晴らしい感触が無くなってしまうのは名残惜しいが、本当にそんな場合ではないのだ。


そして、そうこうしている内に、俺の僕である11の貴種が天幕へと入ってくる。


「主様、我ら軍団長、打ち揃いて参上つかまつりました」


俺達『大亜人帝国』にはそれぞれの特徴を生かした11の軍団がある。

今、やたらと堅苦しく古式ゆかしい挨拶したのはその筆頭格である第1軍団長デーモンロードだ。

これら、副官を合わせた12の僕は俺がこの世界へ来た時に召喚出来るようになっていた亜人モンスターである。

この世界へやってきて4年、周辺の亜人モンスターを束ねるのにそれだけの時間を要した。


そして俺達は人間達との戦いを始めたのである。



「待っておりました、皆様お座りください。御前会議を始めます」


天幕の中には長方形の長いテーブルがあり、俺は一番奥のボッチ席にある豪華な椅子に座っていて、傍らには副官カラーファが直立不動の体勢で控える。

テーブルの左右にはそれぞれ6の椅子があり、一番俺に近い右側の席から第1軍団長、左が第2軍団長で、最も出入り口に近い位置に第11軍団長が座る。


元ニート俺からすればイマイチピンとこないのだが、席順はとても重要らしい。


「まずは、主様からお言葉がございます。」


全員の着席を待ってカラーファが司会進行役を務める。


「皆、忙しい中よく集まってくれた」


俺は一度言葉を切ると11軍団長の顔を順番に見回す。


「俺達はようやくここまできた。『光と単一を司る神』におもねる人間どもと雌雄を決する聖戦だ。戦略はすでに通達しているが、細かい点を詰めなければならない。有意義な議論を期待する」


「「「っは」」」


俺がそういうと全員が一斉に頭を下げる。


「それでは、各軍団長より現状の報告をお願い致します」


カラーファがいうと各軍の配置状況、偵察の結果報告が第一軍団長から順になされる。


概ね予定通りに事が進んでいるようだ。


現在、大陸の西側地域でも有数の大平原『エヲート』には人間の帝国『モントリッド』の軍勢が約8万と亜人の軍勢約3万が対峙している。


今まさに行われようとしているのは亜人の国が滅ぶか、命脈が保たれるかという瀬戸際の戦いである。


元々、大陸の西側にいる亜人は小さな集団しか作らなかった。

それゆえ人間に虐げられて、奴隷にされて死ぬまでこき使われる、そんな立場にいたのだ。

俺達は各部族の集落を訪れ説得し、時には対決し併合した。

そして『モントリッド』の最西端に集まり勝手に独立したのである。

『モントリッド』側からすれば正に寝耳に水。

激怒するのもやむを得ないだろう。


そんな訳で夕方に着陣した両軍は『モントリッド』の西域で最も広い平原で睨み合っている訳だ。

より詳細に語ると、


ワレ コンヤ ヤシュウ ヲ ケッコウ セリ


こうなるだろうか。


まあ、相手にしても夜はこちらの領分だと分かっているだろうから夜襲に対する備えは万全だろう。

それでも昼間に『光と単一を司る神』の祝福を受けたゴミ共と決戦を行うよりはいくらかマシ、というか昼間に戦ってもこちらの被害が大きくなるだけで得がない。


日が完全に落ち次に朝日が昇り始めるまで約8時間、そのタイミングで仕掛けて勝負を決める事が出来なければ敗北する可能性が高くなる。

やるしかないのだ。


つらつら考えている間にも個々、報告を行っている。


やがて


「特に問題は無いようですね。それでは実際の動きについて説明します」


各軍団長の報告が終わり、次に戦術的な話になる。

とはいえ前もって俺の考える戦術はカラーファに伝えてあり、実際の説明は彼女が行う。


主は下々の者にベラベラ喋りかけない方が良い、とカラーファに散々釘を刺されているからだ。

怒ると怖いし、豊満な某所でムニムニしてくれなくなるのである程度は従う事にしている。


「第六から第十一までの各軍団は所定の位置から突撃、第三から第五は遊撃として敵の動きに合わせて自由に行動を。第一軍と第二軍は主の守り、それぞれ地と空の守りを固めなさい」


とはいえ、それほど凄い戦術を考えたわけでもない。

夜の利を生かしただけの極真っ当な力勝負を仕掛ける。


これは亜人の国を認めさせる戦いであり、あまり姑息な手段を使う事は出来ないのだし。

ちなみに第二軍のトップはキングドラゴニア(竜人王)、配下は飛行が可能な種族のみやく600人で構成されており、人数は全軍の中では最少である。


相手にもペガサスを駆る光の乙女ヴァルキュリアと呼ばれる約2000人で構成される部隊がある。

もちろんこの部隊を封じる手は打っているが、万が一空からの奇襲があった時には彼らが対応しなければならない。


「日の入りと同時に攻撃開始とする。皆の奮戦を期待する」



*****************************



各軍団長が一斉に動き出すと、俺はミニマップを起動させた。

これは俺自身から半径10㎞圏内の地形および敵と味方のユニットをすべて表示するレーダーの役割も果たす。

むろん約8kmほど離れた所で陣を強いている敵の動きもバッチリ表示されている。


その上、このミニマップは俺が起動している間、俺の僕たる12の貴種にも同じものが見えるらしい。

敵の動きが常にわかる、というのは戦争においてとてつもないアドバンテージで、この戦いを決断した理由の一つになっている。


ミニマップを見ていると青い点で構成されたいくつかの集団が一斉に敵を示す赤へ向かって進みだす。

しかし、天幕の外からは虫の鳴き声ぐらいしか聞こえてこない。。

いかに相手に悟られている可能性が高いからといっても、やはり夜襲なのだから騒音を出しながら突撃するのは本末転倒、というものだ。


イヌ系種族代表ハイケルベロスとネコ系種族代表ファルコンタイガーに率いられた速度重視の第十軍と第十一軍は一番大外を緩やかな弧を描きながら敵の側面へと回り込む。

中央はデスオーガ、グレーターゴーレム、デビルリザード、そしてミスティックバードの軍団長が率いる4軍が驀進してゆく。


まず、ミスティックバードが率いる第九軍が敵直上へ一気に突入する。

敵の弓、魔法攻撃によって少なくい数の犠牲が出るが、彼らの最大の目的はペガサスを駆る光の乙女ヴァルキュリアを味方に向かわせない事だ。

とにかくペガサスとそれに乗る乙女がいる場所へとしゃにむに向かった。


それと前後するように敵陣の最前衛へと突入したのはデスオーガ率いる第六軍だ。

パワーファイターが多い編成の彼らは当たるを幸いと敵陣を囲む柵を破壊する。


その後ろから敵陣へ飛び込んでゆくのがデビルリザードが率いる第八軍である。

爬虫類の特性を身に宿した者を集めている第七軍は速度・耐久性・パワーのバランスがよく知能も高いので部隊レベルの連携と継続戦闘能力に優れている。


敵が対応しようと陣形を整え始めるころにグレーターゴーレムが率いる第七軍、ゴーレム軍団が雪崩れ込む。

速度は他の部隊に劣るが有り余る耐久能力で味方が穿った穴を押し広げ維持する城壁の役目を担う。


当り、乱し、維持する。

この三軍の連携に敵中央は乱れに乱れた。


それを察知した敵の左右軍が中央の援軍へ向かうべく動き出す。

もし早期にこの両部隊が中央の戦いへ参戦すれば元々数で劣る我が軍は崩壊しただろう。

いざ中央へと動く、まさにその瞬間、両翼に第十一軍と第十二軍が同時に突っ込んだ。

この両軍は群れで狩りをするタイプの亜人で構成されていて数も多い。

両軍合わせると全軍の約半分、つまり15000にもなる。


つまり俺は全軍の半数をさらに半分に分けて横っ腹を急襲する部隊にしたのだ。

いくら闇夜の襲撃とはいえミニマップがなければ、こんな大胆な作戦を実行する事は出来なかっただろう。


ともかく敵軍の両翼は防御態勢を解除し移動隊形になった所を、速度重視の肉食獣軍団に横っ腹から食らいつかれる事になった。

結果どうなるか、もちろん混乱する。


両翼には個々2万の兵が配されているのだから、やがて混乱は収束し反撃に出てくるだろうが、中央へ向かうのは不可能だ。


いや、最も正しいのは一度全軍が合流して組織的に反撃する事なのだが、それをさせないためにこちらは軍を割って挑んでいるのであり、簡単に体勢を整えて貰っては困るのだが。


ミニマップでは中央の前線と左右は赤い点も襲撃によって乱れバラバラに動いている様が映し出されている。


が、中央の前線から少し下がった位置を見れば、早くも襲撃の報が届いたのだろう、軍勢が集結し整然とした隊列を組みつつある光景が映し出されている。


このままでは前線へ押し出してくるのは時間の問題である。

俺は決断を下した。


「第四と第五を出せ」


第三から第五の遊撃に当てている軍は昆虫を祖とした軍勢である。

体躯は小さいが跳躍力と食欲に優れ繁殖力が高い。

敵の死体に卵を産み増殖するようなスキルを持つ者が多数いる。


死体に産み付けた卵は成長促進の魔法と合わせて数分で羽化し爆発的に数を増やす事になる。

ただし、そのように生み出しされた物の寿命は短い、数十分で消えてしまう命である。

まあ使い捨てにはちょうどいいんだけどさ。


第四と第五の軍団が中央で死んだ人間の死体に群がって行く。

成功すれば中央を食い散らかす事が可能だろう。

戦況はこちらに有利に動きつつあった。



********************



突如現れた大量の虫人によって敵中央軍の前線が崩壊しつつある。

そろそろ後続が到着しそうだがもう間に合わないだろう。


「これで勝てそうだな」


その呟きがフラグになったのだろうか?

一瞬、ミニマップの中央、つまり俺自身がいるポイントに赤い点が表示され、すぐ消えた。


「なんだ!?」


俺は周囲を見回し、傍らにいるカラーファも同じく不審な目で周囲を見回す。

が、天幕の中に異常は見当たらない。


第一軍、第二軍からも何の報告もないし、慌てたりしている様子も無かった。


「気のせいか」


俺は再び呟いた、そしてこれが真のフラグだった。


再びミニマップ中央に表示される6つの赤い点。

しかしやはり周囲に変化はない、が今度はその点が消えない。

確実に自分と重なる位置に何かがいるはずだ。


バッ、っと天幕を大きくはためかせ、デーモンロードとキングドラゴニアが飛び込んできた。

彼らもミニマップの異変に気がついたようである。


「主殿、無事か?!」


声がでかい、が無事だ。

なぜミニマップに敵性の点が表示されたのか全く不明なほど平和の極みなのである。


「問題はない、というかマップ故障か?」


俺は考える。

今まで一度もこんな事が無かったことを考えれば、このタイミングで故障する事は考えづらい。

あるとすれば、何らかのスキルによる攪乱か・・・・・・


いや、もしかして直上!?


「上だ、上を確認しろ!」


直感的に思い浮かんだのは、FPSとかでよく見た超高高度からのパラシュートによる降下作戦だ。


ミニマップの表示半径は10km、つまり敵が10000mの上空を飛行していたとすれば自分の直上を通過した瞬間のみ表示されることになる。


一度直上を通過して俺の、つまり敵指揮官の天幕を確認した後、戻ってきて降下。

これなら今の状況が説明できるのだ。


第二軍は飛行出来る亜人で固めているといっても高度はせいぜい100mほどだ。

まあ飛ぼうと思えば2000mぐらいまでは上がれるだろうが、それ以上はムリだろう。


しかし、もし祝福などでそれを可能にした敵がいるとすれば、それを使わない理由はないだろう。


で、あれば今まさに個々へ向けて落下してきている事になる。

それも敵の精鋭部隊だ、まあ数は多くないだろうけど。


と、上を守っている第二軍がにわかに騒がしくなった。

どうやら正解か。


「戦闘準備!」


カラーファが自分を守るため覆いかぶさるように抱きしめて、二人に向かって叫ぶ。

おおう、素晴らしい! そんな場合じゃないな。


と、そうこうしているうちに、布で覆われた天井が大きくたわみ、そして突き破って中へ乱入してくる6つの影。


完璧な奇襲と素晴らしい降下精度、見事だわ。

6人にも敵はいるらしく以外は空で第二軍と戦っているようだ、外から派手な音が聞こえる。

どうやら飛行ユニットでギリギリまで降下して、討伐部隊を投下し、そのまま我が軍が天幕に入らないようにしているらしい。


まあそれはいい。

視線を乱入してきた奴に転じると全身黒い装備の男が5人、ボロボロの鎧を着たみすぼらしいおっさんが1人の姿が目に入ってくる。

5人は強そうだがおっさんは微妙だ、見たところレベルも低いし、なぜこの急襲部隊に混ざってるのか。


「やれやれ、なんて乱暴な降ろし方だよ。死ぬかと思った」


肩をコキコキと鳴らしながら誰と無く呟いたのはそのおっさんである。

緊張感ないな。


「カーリ殿、少しはまじめにお願いしますよ。ここは敵の本陣なのですから。さて、我ら『黒の裁』は予定通り取り巻きを何とかしますから、後は頼みます」


黒ずくめの騎士がおっさんを囲むように布陣してデーモンロードとキングドラゴニアと対峙する。


デーモンロードとキングドラゴニアはレベル9でもかなり上位に来るようなステータスだが、『黒の裁』と名乗った黒の一段にもレベル9が2人、後の3人はレベル8のようだ。

カラーファもレベル9だから戦力的にはこちらが有利だし、時間が立てば第一、第二軍からも援軍が来るだろう。


これなら最悪は考えにくいか。


俺は少し安堵する。

本当はすぐにこの場から脱出するべきだが、この軍の総司令たる俺が真っ先に逃げれば、それは前線にも伝わり戦況が変わってしまう可能性がある。

簡単にケツまくって逃げ出る、というわけにはいかないのだ。


「迎撃しろ、一人も生かして返すな」


俺はデーモンロードとキングドラゴニアに命ずる。


「お任せを!」


二人は声を揃えて答えると黒の一団へと攻撃を仕掛ける。

対する『黒の裁』はレベル9とレベル8がペアとして二組に分かれて迎え撃つ。


「ぜいやっ!」


たちまちお互いの掛け声と武器を撃ちあう金属音がさして広くない天幕内に響き渡る。


「やれやれ、騒がしくなってきやがった」


カーリと呼ばれたおっさんは、この場には似つかわしくないほどの低レベルだ。

なぜ今生き残ってるのかも不明なほどショボイステータス、なんなんだろう。


「そこのメンコイねぇちゃんと、そこのガギを切るのは俺の仕事かよ。全くやれやれだ」

おっさんは、これまた使い込まれた感じのロングソードを肩に担ぎ、レベル9という人智を超えた戦いが行われている中、悠然とこちらへ向けて歩み寄ってくる。


「おい、おっさん。アンタなんなんだ?」


「俺か? 俺は俺だが、まあなんだな、レベル3ってとてもショボイおっさんだよ。アンタを殺すぐらいは出来るだろうが、な」


確かに間違いなくレベル3だ。俺のレベルは1だけどさ。

まあ転生で恩恵チートでとんでもステータスだから、俺自身が戦ったとしてもこんな奴に負けるとは思えない。

が、そもそもこのおっさんの刃が俺に届くことなど無いのだ


「黙れ下郎!」


おっさんの言葉に激高したカラーファが、俺を抱きしめていた手を離すと一気に飛びかかり、


ギンッギッギン


鈍い金属音が響く。


「おっと、こりゃ大変だ」


再び場違いなほど軽い声でおっさんが呟く。

ただの鉄のロングソードでカラーファの攻撃を三度受けた?


「カラーファ気をつけろ、なにか特殊な力を持ってるぞ」


「おいおい、酷い言いがかりだな。俺は別に特殊な力なんて持ってねぇぞ」


おっさんは再びロングソードで自分の方をトントンと叩きながら、余裕の表情で肩をすくめてみせる。


しかし、そんなことの方がこのゲームのルールではあり得ない。

いやあってはならないはずだ。


「カラーファ、間違いなく奴の特殊な能力だ。この手の能力には必ず弱点がある、それを探せ」


「だから勘違いの言い掛かりだっって」


幾度も繰り出されるカラーファの神速の攻撃をいとも容易く捌きつつ一歩、また一歩と俺の方に近づいてくるおっさん。


ゾクリ、と俺の背筋に冷たい何かが走る。


周囲を見れば先ほどまで十一の軍団長が集り座っていたテーブルと椅子はもう見る影もなくボロボロに成り果て、天幕も所々切れ目が入っている。

なぜ外からの援軍が来ないのが不思議なぐらいだ。


カラーファの攻撃は相変わらず有効な打撃を与えられずにいる。

他の二人もそうだが天幕の中には魔法を封じる結界が貼られている。

これは安全のためだったが、今ばかりは魔法を使えないことが大きな枷になっているようだった。


「みな天幕の外へ出ろ、この中では不利だ。そこなら魔法で焼き尽くしてやれば勝ちだ」

俺は撤退のリスクと天秤にかけ、撤退することを決断する。

そして一気に天幕の外へ向かって走りだす。


でろでろでろでろ


しかし回りこまれてしまった!


いや、そんな冗談を言っている場合でもないのだが、みなが存在を忘れていた黒の鎧を着た最後の一人がひっそりと俺の前に立ちはだかったのだ。


「貴様、どけい」


カラーファがおっさんの前から瞬く間に俺の隣へと移動してきてその男を横殴りに弾き飛ばした。


しかし、それは最善の一手とは言いがたかった。

理由はもちろん、一番弱いはずで現在最も危険なおっさんがフリーになってしまったからである。


「やれやれ、オレから目を離すとか舐められたもんだな」


フラリとカラーファの背後をとったカーリというおっさんは無造作に袈裟懸けにロングソードを振るった。

たったそれだけで、強靭な肉体を持つヴァンパイアロードの肉体が斜めにずれ落ちる。


「っち、やっぱり死なないか。これだから不死生物ってやつは苦手なんだ。まあしばらくは動けんだろうからそこで見物してな」


おっさんはそう吐き捨てると、クルリと俺の方へ向き直った。


「さて、ようやくメインディッシュか。面倒だからすぐ死んでくれ」


俺はこのゲーム世界に来るときに神とやらから不死能力も貰ったから死なないけどな。


「ああ、心配しなくてもちゃんと殺してやる。問題ない」


ゾクリ、と再び俺の背筋に冷たい何かが走る。


なんだ、何なんだこのおっさんは。


「誰がお前なんか相手にするか!」


俺はそう吐き捨てると、内心でカーラファに謝りながら天幕の外へと踏みだそうとして、足が動かないことに気がつく。


「おう、どうした。震えてるぜ?」


その声を聞き自分の足を見て、ようやく膝が笑って動けないのだ、ということに気がついた。


「はん、やはり何の覚悟もなくこんなことやりやがったかよ。まったくこれだから『ちぃと』ってのは救えねぇ。鬱陶しいからもう死ね」


声とともに唸りを上げて横薙ぎがくる。


「ひ、ひぃ」


俺は何とか後ろへ一歩下がったが、同時に横腹に鋭い痛みを感じた。


軽く、痛みを感じた所を触るとヌルリとした感触。

見ると、そこは真紅


「ち、ち、ちだぁ・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁちがぁぁぁぁぁ」


な、な、なぜ、なぜ、なぜだ

俺の肉体は不死のはずだ、血なんて出るはずがないのに、なぜ、なぜなぜなぜ


「あ、主様ーーーー!」


デーモンロードとキングドラゴニアの声が遠くに聞こえる。

が、こちらの援護に来れるような状態ではない。


そしてカーラファは再生に戸惑っているのか、未だに上半身と下半身が離れたままになっている。


「ククク、弱い、弱いねぇ。俺が狩ってきた中でもお前は最弱クラスだよ」


そして今度は左肩辺りに激しい痛みと熱さを感じる。


あ”? あ”””?


うで、うでがががががががが


「うがぁぁぁぁぁぁぁ」


「つまらんな、そでれはさようなら」


そして俺の痛みはようやく消えた



名も無き主 BAD END

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