二人目
一騎打ちのような格好いいシチュエーションばかりではありません
とてんかん、トトントトーントトントトーン、とんてんかん、トトントトーントトントトーン
工房の中に音が響く。
俺は今日も今日とて小槌を振るっていた。
俺は『ツチヤ マサアキ』21歳、マスタースミスだ。
とあるネトゲーRMMOで鍛冶職を極めた、そして翌日、目が覚めたらこの世界に居た。
ありていに言えば、理由不明トリップってやつ。
まあ、それはいい。
俺はしばらくこの世界で色々検分を広げた後、この街『マリージア』の郊外に工房を構えた。
それが丁度2年ほど前の事。
そして俺は自分の工房で、ミスリルインゴットを主材料にした武器を製作している所だ。
目の前には俺の一番弟子を自称する押しかけドワーフ(♀ 14歳)のサリが一生懸命に大槌を振るい、俺はそれに合わせて小槌で形を整える。
まあ最初は、勝手に弟子だといい張って工房に住み着いた事に戸惑ったものだが、それもスグになれた。
何をするにしても一人より二人の方が効率が良くなる場合が多い。
サリもドワーフという種族の例にもれず鍛冶に適正が高く、ステータスでは筋力も高めになっているので大槌を軽々と振り回すので、今ではいなくてはならない存在だ。
「師匠、これでいいですか?」
ミスリルインゴットがおおよそ長剣の形になってきた所で一旦手を止めると、サリが上目使いで聞いてくる。
俺は、良いよ十分だ、という意味を込めて頭を撫でてやる。
すれば、サリは気持ちよさそうに目を細めて頬を赤らめるのだ。
うむ、中々に可愛い奴だ。
「よし、じゃあ研ぎの用意をしてくれ、俺は詰め作業をしておくから」
俺はサリの頭から手を離すと、再び小槌を持ち、出来つつある長剣を軽く叩きながら形を整えていく。
おおよそ、いつもと同じ穏やかな時間が流れ、そろそろ午前中の作業が終わろうとして居た頃、来客があった。
「マサ、いるかい?」
ずかずかと工房の中まで入ってきておいて、図々しくもそんな風に声をかけてきたのは大柄な竜人娘を先頭にして女が4人だ。
まあ、俺の鍛冶師としての腕に惚れたと公言してはばからない女竜人『ソラミル』とそのパーティメンバーで、拠点を置くこの街の中では最も深い付き合いがある相手といえる。
「おう、少し待ってくれ。今の作業もすぐ終わるから」
俺は振り返りもせず手を動かしながら肩ごしに返事を返す。
この竜人は無視するといろいろ面倒なやつなのだ。
「分かった」
ソラミルはもう勝手知ったる、という感じで工房を出てゆく。
おそらく、工房に隣接している俺の自宅に上がり込んでくつろぐつもりだろう。
彼女たちと正式なパーティを組んでいる訳ではない。
が、自前で誂えた装備でフル武装でようやくレベル6、しかも絶賛ソロの俺は高レベル素材を自分で取りに行くことができない。
そこでレベル7の彼女らと臨時パーティを組み素材取りに連れて行ってもらうことが多い。
代わりに格安で装備品の面倒を見ているので、ギブアンドテイクな間柄、なハズであるである。
傍から見ればハーレムに見えるかもしれないが、そんな事は無いったらない。
そんな訳で、彼女たちがここを訪れる事は少なくない。
その目的の半分が、オレの自作調理器具で作られるサリの食事だと分かっていても悲しくないのだ。
ないのだ!
そんなことをツラツラ考えながらも俺の小槌は半自動的に眼前のミスリルソード(製作中)を打ち続け、間もなく研ぎ前の工程は終了した。
「よし、残りは午後からだな」
俺は一つ呟いて、自宅へ戻ることにした。
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自宅に戻ると、おそらくサリと、ティカップを片手にモゴモゴと口を動かしている四バカがいた。
サリが気を利かせて昼食前の軽食を出してやったのだろう。
「で、今日は何のようだ?」
俺は開いている席に座ると、四人のリーダーであるソラミルを見て尋ねる。
「ひょれはぁ・・・・・・ウグモグ、ゴクッ・・・・・・それはだな」
口の中身を何とかしてから言え、と注意しようと思ったら先に飲み込んだらしい。
というか妙齢の乙女がそれはどうなんだろう。
「うほぉん」
俺の言いたいことが伝わったのが、ソラミルはわざわざ咳払いをして無言の抗議らしい。どうでもいいんだけどな。
「あのだ、それでだな、マサはこれを加工できるか?」
そういって、厳重に梱包された20cm四方ぐらいの箱を取り出す。
「これってのは、箱の中身か? 見てみないと分からないが、多分大丈夫だと思うぞ」
「む、そうだな。チョット待ってろ、開けてやる」
どうやらこの脳まで全て筋肉で覆われているらしい龍人娘は箱を開るというところに思い至ってなかったらしい。
しかし、竜人は豪快さが売りで器用さが足りない。
結果、梱包を開るというより『毟る』
それは開るという行為ではない!!!!
と声を大にして言いたい。
「よし、これだ」
ボロボロになった箱から出てきたのは長さ15cmほどでいかにも体に悪そうな赤紫色の蛍光色をした『牙』らしき物体だ。
「ほほう、モンスターの牙系統の素材だな。まあランク10とか伝説上のモンスターの物でないなら問題ないと思うが、何の牙だ?」
「これはな、レベル6認定のポイズンタイガー、その特殊個体であるレッドポイズンタイガーの『歯だ』」
特殊個体は通常より強く成長した個体のことで、通常よりレベル2ほど上位に認定される。
この場合はレベル8相当だろう。
「ほほう、どうやって手に入れた? 特殊個体の素材など市場に出まわらないし、あんたらのパーティでもポイズンタイガーの特殊個体を倒せるとは思えないんだよな」
「そえなんだが、今日、冒険者ギルドにレベル8のパーティがフラリと現れてな、レッドポイズンタイガーを丸ごと一頭売ったんだ。それで、たまたまギルドにいた私は、ギルドの連中をおど・・・・・・交渉してこれを手に入れた。本当はあの長さ1mはあろうかという牙が欲しかったんだが、それは無理だった」
なるほど、ギルドは冒険者に直接素材を売ることはない。
高級な素材も多く、勝手に商いをすると関係各所へダメージを与えることになるからだ。
このバカ脳筋龍人娘はそれを暴力的な方法で曲げさせて入手したらしい。
ぶっちゃけ犯罪行為スレスレ・・・・・・そのものだ。
「しかし、この近辺にレベル8のパーティなんていたか? 俺の知る限りじゃ王都に1組いるぐらいで、この周辺諸国にもいなかったはずだが」
次の疑問はそれだ、王都にいるレベル8の5人パーティは国としても虎の子の存在で軽々に姿を表したりしない。
ましてギルドで素材を売ることなど皆無だ。
「それなんだが、どうも流しの冒険者らしくてな。素性はよく分からないが北の方から旅してきたとか」
なるほど、北の方は環境が厳しいせいか高レベルの人間が多いというからな。
「まあいいや、でそのレッドポイズンタイガーの『歯』だがどんな風に加工して欲しいんだ? 確か触れただけで、そこが煮立ったように真っ赤に焼けただれる毒だったか。うんやっぱ武器にして欲しいんだな?」
俺はうろ覚えのポイズンタイガー系列の毒について思い出しながら確認を取る。
「そうだ、最高の逸品をお願いする。出来れば『歯』その物を刃にするのではなく、エンチャントの材料として使って欲しい」
エンチャント、特定の素材を使って武器に属性付与することだ。
これには様々な形があるが、魔力を帯びた鉱物を使うのが一番いい。
今、作業しているミスリルソードなんて最適だ、研ぎまで終わっていたら面倒だったが今の状態であればすぐ作業に入れる。
「ふむ、ミスリル製の長剣でよければ今日、明日中に作れるが・・・・・・いるか?」
ミスリルはこの世界だと最上級の一角を占める鉱物でとても高価だ。
長剣を作るだけのインゴットがあればソコソコの土地を買って邸宅を建てることが出来る。
俺の予想だが、彼女は『歯』を無理やり強奪するときほとんどの身銭を失っているはずである。
とてもミスリル製の長剣などには手は出ないだろう。
しかし、話を聞けば絶対それが欲しくなる、間違いなく他のものでは満足できなくなる。
「っそ、それはっ、あるのか!? ミスリルの長剣!???! そ、それ、それで、それれ」
ほら、馬鹿で間抜けで脳筋な竜の娘はチョットしたパニックだ、うむ、イジるのは面白い。
「ちょちょちょっと、ミスリルなんて無理だって」
慌てて他のメンバーが宥めにかかる、がそんな事は不可能である。
「あるぞ、『たまたま』インゴットが手に入ったんでな、さっき作業していたのがそれ。どうだ、欲しいか?」
「あうあうあうあうあう」
龍人娘はとにかく頭を上下に振りまくる。
っぷ、と思わず吹いてしまうぐらい必死すぎだ。
「5千万リュースだぞ」
「ご、ご、ごごご・・・・・・」
『5せんまんーーーーーー!!?!?!?!』
ちなみにチョットした貴族の屋敷が建つ値段である。
「これでもギリギリの値段だぞ。これだけのインゴットを作るのにどれだけ手間かかってると思うんだよ。国王に1億とか吹っかけるつもりで作ってるんだからな」
俺はひっそり生きたいが、生きていくためにはやはり元手が必要で、金は幾らあっても困りはしない。
まあ5千万でも原価2千万+技術料だからボロ儲けなのだが。
竜人娘は目に見えて肩を落とした。
ついでに太いしっぽも心なしかしんなり曲がっている。
こうやって見ると結構可愛いんだよねぇ。
「そ、そんな値段、とうてい無理・・・・・・な、にゃんとかして」
ただ長身で体格もいい竜人娘に涙目の上目遣いでそんな事を言われると、ちょっとまけてもいいかなって気になる。
だが、俺は職人であり商売人なのだ、簡単に値下げしたりはできない。
ここは毅然な態度をとるべきだ。
「そりゃ無理だ。市場価格を崩さないためにも俺は自分の付けた値段を変えないって知ってるだろうに」
そう、俺の作る武具は漏れ無く超高性能になる。
そんな物を安値でバンバン流してしまっては市場は大混乱間違いなしだ。
後々、問題になりそうなことは絶対にしたくない。
「そ、しょんな・・・・・・っは、そうだ、私だ。私の体をやるから譲ってくれ!」
な、何を言い出しますかな、このおバカな龍人娘さんは。
お、オッパイ凄いな。
やるってことは思う存分、ゴクリ。
「いいぞ、何でもやってやるんだぞ、言うこと聞く!」
何でも、いうことを、ゴクリゴクリ。
「お、おう。分かった。美味しく頂く」
おおう、なんという俺の軟弱な理性であることよ。
鋼鉄のはずのそれはどこへ行ってしまったのか。
我が助手サリとソラミルのパーティメンバー3人はあまりの流れについて行けず唖然としたまま固まっている。
さあ、では、ソラミルさん、こいつら再起動する前に共に天国へ逝きましょうぞ。
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据え膳をしっかり食った俺は、午後の作業に取り掛かる。
助手Aであるサリは何が気に食わなかったのか、すっかり不貞腐れて家から出てこようとしない。
まあエンチャントと研ぎの作業は一人でやる作業なので問題はないのだが。
1,レッドポイズンタイガーの『歯』を取り出し、腐食に極めて強い特殊な加工をした器に入れて、同じ素材の某でゴリゴリ砕く。
2,それに魔力を込めた水を少しつづ足しながら更に混ぜる。
3,粘りが出てきたら魔法陣の上で少々魔力圧縮をして、モチのような状態になるまでこねる。
4,完成したそれを、剣身に薄く均一な厚みになるように貼り付け、炉に入れる。
5,完全に剣身に吸収されれば完成
ここまでの作業は約2時間
うむ、簡単である。
マスタースミスの俺だから出来るんだけどな。
「師匠」
「「「マサ!」」」
後は磨き上げて完成、お思った所で俺の自宅で待機していたはずの5人が工房へ飛び込んできた。
それもとても慌てている。
「おう、エンチャントはもう終わったぞ。後は研げば今度こそ完成だ」
いくら完成が待ち遠しいといっても、作業中に騒がしくして欲しくないもんである。
「ち、違います。なんか変な人が『師匠をすぐ出せ』って押しかけてきて」
「あれは、今日ギルドでレッドポイズンタイガーを売り払ってたレベル8のパーティだった。私がその目で見たから間違いない。きっとマサの腕を見込んで装備の依頼に来たんだ。レベル8のパーティから直接依頼とか凄いな!」
なんだよ、煩いな。
俺にとってはレベル1だろうが8とか9とか10だろうが同じなんだよ。
高レベルだからって騒がず平等に待たせてればいいんだ。
「ふーん」
俺はつまらなそうに返事を返すと、研ぎの作業に戻ることにする。
「ほう、流石噂の凄腕鍛冶師さんですね。俺らの話を聞いててもその態度、ということですね」
5人の女性の後ろから5人の男が工房へ入ってきた。
どうやらこの5人が先から話題に出ているレベル8のパーティらしい。
「ああ、男に興味ないから」
まあどうでも良いけどな。
「全く、そういう所も噂通りですか。それでは仕方ありませんね。『マサアキ ツチヤ』あなたを拘束します」
先頭の男が唐突にそんなことをいう。
「っな」
これには流石の俺もとっさに反応できず絶句するしかなかった。とうぜんだが女性陣も同様だ。
と、後ろにいた4人が一斉に動いて俺とサリがたちまち取り押さえられてしまう。
ソラミルたちのパーティには手を出さない所をみると、オレの工房の関係者は調べてきたようだ。
「おい、一体これはどういうことだ!」
俺はなんとか正気を取り戻し鋭い声で質問する。
「それはもちろん、あなた、『神器の鍛冶師』に対して捕縛命令が出ているからですよ」
そんなはずはない、俺はこの国の国王様からいくつかの条件と引き換えに鍛冶をする許可を取っているのだ。
そして、その条件も人に迷惑をかけるようなものではない。
「どうやら心当たりがない、という顔をしておりますね。と、説明の前に我々も名乗らなくてはなりません。我々は『黒の法』というパーティのメンバーですよ」
『黒の法』という名前を聞いても全く聞き覚えがなかった。
少なくともこの国の冒険者ギルドに加入している人間では無いことは確かだ。
「く、黒の法、だと・・・・・・実在してるのか!?」
ソラミルにはなにか心当たりがあったらしい。
「おい、ソラミル。そんな奴らなんだ? これじゃただの強盗だぞ」
今のところは羽交い締めのような格好で拘束されているだけなのだは、押さえ方が絶妙なのか痛みは感じないのに全く動くことができない。
「私も噂しか知らない。確か『黒の法』はギルド本部直轄で、ギルド内部の危険分子を排除する、という任務を遂行する集団、とか、そんな感じだったと思う」
ソラミルは足りない脳みそに辛うじて引っかかっていたらしい過去の記憶を無理やり思い出すように、つっかえながら総説明した。
「ほう、お嬢さんはよく知っていますね。エグザクトリィ、まさにその通りです。私達は危険分子『神器の鍛冶師』を処分に来たのですよ」
バカな、俺は市場にも気を使い目立たないように、無闇矢鱈に商売を広げないように気を使ってきた。
もちろん国王なんかに依頼された場合はまとまった数の制作も受けたりするが、基本は気のあった冒険者にだけ装備品を融通しているのだ。
「俺の方には処分されるいわれなど持ち合わせていないな」
そう、俺には何の後ろ暗い所もない。
堂々としていればこいつらも分かるだろう。
「なるほど、自覚がないから余計に厄介なのですね。私としても才能ある鍛冶師を無闇矢鱈に殺すのは忍びない。ならば少しお話をしましょうか、相互理解のために」
「おう、それで俺が処罰されるような事をしていないとすぐ分かるだろうさ」
向から話し合いを持ち掛けてくるとは思わなかったが、やはり処分するのに確固たる証拠などないのだろう。
おそらく噂を聞いたどこぞの誰かの妬みを買ってしまった、とかそういう理由に違いない。
「それでは、まず、そうですね。あなたは今まで鍛冶師として武器を何本ぐらい作りましたか?」
「そうだな、4~500というところじゃないか?」
この世界にきて約5年、3日に1本ぐらいのペースで休むこともあるからそんな感じだろう。
「そうですか。我々が調べた所によると、あなた製作と知れている物だけで623本ありますね。そうでないものもあるでしょうから、この世界にあなたが作った強力な武器が700本ほど現存することになります」
どうやら自分で考えているより多く作っていたようだ。
ああ、そういえば王様から100本とかまとめて依頼があった時のは勘定に入れてなかった。
「思ったよりも多く打ってたんだなぁ」
「そう、あなたの名前が世にでるようになって4年。それでこの本数、しかもその全てがユニーク級、異常です」
そりゃまあ、鍛冶の神に愛されているらしいから仕方が無いだろう。
「あなたはそれらの武器をいくらで売りましたか?」
「そりゃ、店で売ってるノーマルに少し色つけてはいるが、安くしているつもりだぞ」
そう、俺はぼったくりじゃないからな。
さっきのミスリルソード二度と作れるかどうかも分からないような物なら多少釣り上げちゃうけど。
「そう、とても安い。いいえ、明らかに安すぎる値段です」
そりゃ、レベル2や3の駆け出し冒険者の被害が減るようにって、ぎりぎり買える値段にしてることもあるからな。
お陰でこの街のギルドから出る死者は大幅に減った、と聞いている。
「それはひとまず置いておくとして、では少し話を変えましょう。鍛冶の町『リーデンゴア』は知っていますか?」
「もちろん、行ったこともある」
リーデンゴアは鉱山に隣接して作られた、文字通り鍛冶の盛んな国だ、ドワーフも多い。
「そのリーデンゴアですが、そろそろ無くなります」
はぁ? 意味が分からない。
「あんな賑わっている街がホイホイなくなるわけ無いだろ。それとも何か? 予言とか予知なんかでモンスターに滅ぼされる啓示でも出たか?」
もし本当だとしたら大変なことだ。
こんな所で俺を押さえている場合じゃないだろう。
「いいえ、実はリーデンゴアに住む鍛冶師の大半が殺されるか廃業してしまいまして、領主や国にいい武器を作れと強要されて出来ず処刑される例も多い。もう『鍛冶の街』という体裁を維持出来なくなりつつあるのですよ。まあ、あそこだけでなく、隣国の鍛冶の街もほとんど同様ですがね」
なんだ、鍛冶の街は今不景気なのか?
「なにせ、その辺の武器とたいして値段の変わらない『ユニーク』武器が大量に出回りましてね。武器を使う職の人間は他の武器に見向きもしなくなってしまいましたから。むろん鍛冶師は武器だけを作ってるわけではないのですが、一番メインの収入源は武具。それが売れなくなったらどうなるか? 子供でも分かります」
「っ!」
「その上、ですよ、その『ユニーク』武器の中には神代級に匹敵するようなものがチラホラ混ざっているとか・・・・・・」
男は一旦口を閉じ工房内をグルリと見渡すと
ほう、そのミスリルソード、作りかけのようですが素晴らしい逸品のようで」
と、わざと厭味ったらしく言ってくる。
俺自身あのミスリルソードを作り始めた時から、完成すれば『ユニーク -神代級-』となるだろうと予感があった。
そのうえレッドポイズンタイガーの『歯』を使った腐食毒のエンチャントが追加されたのだ、間違いなく神代級になる。
「それで困ってる方が大勢いるわけです。神代級などという装備品は、基本的に国に一つしかない物です。建国の祖が守護神から直接授けられてはじめて国と認められるのですから」
それは放浪時代に聞いた事がある。
「分かりませんか? そんな物がポコポコ量産出来るとなればどうなるか」
うん?
あ、いや、それはとてもまずい気がする。
「さて、あなたの立場は分かって頂けましたか? いや、分かって頂かなくともギルドから討伐命令が出ているのです。もう死んで頂く事が確定してますので何も問題はないのですが」
男は淡々と語ると背中に担いでいる巨大な両手剣を抜く。
「辞世の句など読んで頂かなくとも結構、それではさようなら」
男は5mある工房の天井に当たるほどの長さがある両手剣を軽々持ち上げると勢い良く振り下ろす。
俺は目をつぶるでもなく、やや放心し何も考えられなくなった状態で剣が己に降りかかってくるのを見つめていた。
最後にサリとソラミルが何かを叫んだが、それを最後まで聞き取ることも出来なかった。
ツチヤ マサアキ BAD END
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「ししょうーーーーー、師匠ーーーーー、逃げてーーー」
いきなり入ってきた男に小難しい事を言われて放心してしまっている。
しかし、私に言わせればそんなことはただの屁理屈だ。
鍛冶の仕事は腕が決める。
腕のない鍛冶師など死んで当たり前なのだ、それに何か問題があるはずもない。
それがどうして師匠には分からないのか。
師匠はもっと自分の仕事に自覚と誇りと責任を持つべきだと思う。
そう、師匠の仕事に負けて鍛冶を辞めた人たちに対する責任とは良い物を作り続けることにほかならないのだから。
しかし、最後の最後になっても師匠は男の言葉に囚われて上がらうこともせずに、自分の命を見送ってしまった。
なんで、どうして、私は師匠に教わりたいことがまだまだまだまだあったのだ。
全然足りない、私の腕じゃまだ何もできない。
なのに、今、師匠は全てをほっぽり出して項垂れたまま逝ってしまった。
男たちは去り際に、私に向かって工房は好きに使っていいと言ってきた。
師匠には身よりもなく、資産は自動的に弟子の私に継承されるのだそうだ。
師匠のいない工房、師匠が持っていた小槌、師匠が管理していた炉。
分からない、全然使い方もわからないよ。
私一人じゃできないよ、師匠。
地面に顔を伏して泣き濡れる私の肩に手を置く人がいた。ソラミルだ。
「サリ、彼は逝ってしまった。なぜそんなことにならなくちゃダメだったか、私にもわからない。でもギルドの討伐命令が出たということは、たぶん彼はもう生きていちゃダメだったんだ。今は整理出来ないけれど、ね。そして彼が残してくれたものもあるわ、ここに」
ソラミルは下腹辺りを愛おしげになでた。
竜人族は子を宿した瞬間から分かるのだそうだ。
彼が最後に残したもの、ミスリルソードとソラミルとの子供。
それはたぶん・・・・・・




