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一人目

新作です。基本的に2話で1つの話になる予定です。

俺は4人の美女・美少女を連れ、拠点にしている国『フェルンド王国』から隣国のダンジョンへ足を延ばし昨日まで攻略に励んでいた。

そして、ごく当たり前のように無事探索を終えて馬車で国へと帰る途中だ。


まあ、レベル9になった俺の敵になる奴など世界中探してもほとんどいないだろう。

なにせ魔国7公とか呼ばれている強い魔物を一匹を倒したぐらいだ。


あれは流石の俺でも苦戦した、危うい場面も何度かあった。

まあ中世ヨーロッパっぽいが魔法もある異世界へ転生したチート勇者にして英雄の俺の相手ではなかったんだけどな。


あ、俺?

そうか、自己紹介がまだだったな、俺は元日本人『一谷 宗太』

今やこの世界『ラクーン(一部)』に有名轟く勇者にして英雄の冒険者だ。


え、自分で言うなって?

本当の事だからしかたないだろ、ふははは。


そうそう、俺の周りにいる4人の女はぶっちゃければハーレム要員ってやつだ。

フェルンド王国の第三王女、猫耳巨乳奴隷娘、エルフ国の姫騎士、パテリスト教団の聖女。

どうだテンプレ勢ぞろいって感じで壮観だろう

本当は後2人、ダークエルフのチミッ娘とロリババアドワ子がいるんだが、そちらは別の用事があり拠点で留守番をしてもらっている。


このペースでいけば夜には拠点へ帰りつけそうだ。

多少疲れてい入るが拠点で夜を過ごす、っていう希望の方が大きい、ふへふへ。


おっといかん、こんな表情だとせっかくのイケメンが台無しだ、しっかり引き締めないとな。

俺は前世と違ってマジイケメンだ、男でも余裕で惚れるレベル、掘られそうになった事もあるほどだ。

もちろん、そんな事は断固拒否したがな!


毎日カガミを見ては悦に浸る事も可能。

いや、断じてナルシストではない、そこの所は絶対に誤解しないで欲しい。


ともかく、完璧イケメンチート勇者にして7公の討伐という偉業を成し遂げた英雄である俺。

童貞ヒキニートだった前世と違って、ほんと転生して来てよかったー。



*******************



拠点のあるフェルンド王国の首都『ラフェル』まで、徒歩で半日とかからない場所まで戻ってきた。

ふと街道の脇を見ると、薄汚れたマントを頭まで被ったり、みすぼらしい浮浪者にも見えるような人がうずくまっているのに気が付いた。


俺は思ったね


『あ、これフラグじゃね?』


思い立ったが吉日、俺は御者をやっている猫耳娘に馬車を止めるよう指示すると、その人に向かって声をかけた。


「おい、大丈夫か、どこか痛むとか、体調が悪いなら遠慮なく言ってくれ!」


っふ、どうだ。

こういうシーンは優しく声を掛けるのがセオリーだ。

きっと綺麗にしてやればとても見栄えがするようなカワイイ子に決まっている。


・・・って、思ったのに、声を掛けたそいつは男だった。

ギロリッ、と擬音語が飛び交いそうなほど厳しい目つきでこちらを見たのは、どう見たって三十路がらみのおっさんである。


『うえぇ、失敗したは。放置しとけばよかったは』


そう、後悔しても後の祭りだ。

いや待て、もしかしたらこのおっさんの『娘』が超絶美女という可能性も|微レ存≪微粒子レベルで存在≫?


よし、一応その線を期待して親切にしてやろう。俺は寛大であるのだからな。


「おっさん、どこか悪いんだろ? 王都へ行くなら馬車に乗せて行ってやるぜ」


本当は、男それもおっさんを乗せるなど真っ平御免なのだが、そんな事は微塵も出さずに優しく言ってやる。

そうすればほら、女共も『ソウ』さんカッコイイって感じの目になった。

っふ、罪作りな俺。


「いやぁ、わざわざ声をかけて貰ってすまんな。・・・ん? その背恰好に複数の美しい女性を従者に連れている。ああ、もしかしてあんたが噂の英雄さんかい?」


どうやら目つきが悪いのは睨んでいたのではなく、不躾に声をかけてくるやからを不審がって観察していただけだったらしい。

おっさんの目つきがセリフの後半へ進むにつれ柔和な物になった。


「まあな。本当は英雄なんて大それたものでもないのだが、その噂の人物ってのは俺で間違いないと思うぜ」


俺は、コクリと頷き、おっさんの言葉に同意してやる。

そうすれば、ほら一切の警戒心を失い、会えた喜びに溢れてますって顔をしやがる。

『英雄』って肩書は伊達や酔狂ではない、マジで崇拝の対象なのだから。


「そうか、そうか。あんたが! 素晴らしい!」


おっさんはそう言うと、みすぼらしくたびれた外見に反して身軽な様子でスクリと立ち上がった。


立ち上がったおっさんは、ヒゲ面で正確な年齢は分からないが三十歳近いだろう。

身長は178㎝の俺よりやや背が高い。

この世界の平均でいえばかなりの長身の部類だ。


ボロボロだが意外としっかりしてそうなオークの革鎧を身に着けているし、それに引き締まった体つきをしているから冒険者なのだろう。

とはいえ、それなりのレベルであれば『オーク』なんて雑魚な魔物の鎧を身に着けて探索するはずがない。

パッと見た所、武器の類も見当たらないし行商人とか別の職業の可能性もありそうだ。


「おっと、これは名乗りもせず失礼した。俺は『カーリ』、これでもレベル3の冒険者だよ」


おっさんは、こちらの胸の内を見透かしたように名乗り職業を明かした。

レベル3というのは初心者半人前をようやく卒業し、冒険者として独り立ちした、と認められるギリギリのライン。

それに加えて三十路がらみ、というのはぶっちゃけ冒険者としての才能ゼロだったのだろうな。

まあレベル3なら、辛うじて日々の糧を得るぐらいは出来るので、ズルズルと危険な冒険者稼業を続けているのだろう。


それに、この世界では他の職につくのもそう易い事ではない、らしいし。


チートな俺にはサッパリ縁がない低レベルな話なのでどうでもいいんだけどな。


「ふーん、まあおっさんの事はどうでもいいや。どう、せっかくだし王都までなら乗せて行ってやるけど?」


正直、むさいおっさんなど馬車に乗せたくもないのだが、一度声を書けた手前、前言を撤回するのも格好が悪い。


しかたなく

あくまで渋々だからな

断れよ!


と、念を込めながら誘ってみた。


「おう、それはありがとうな。ただ、今は別の目的で動いているんでね。すまないが馬車に乗るわけにはいかねぇ」


おおう、それは重畳。やっぱ俺ラッキーだわ。


「そうか、なら俺らはもう行くから頑張ってくれ」


低レベル雑魚おっさん冒険者にも気を配る俺、どうだ格好いいだろ。

うむ、完璧な流れだった、思わず自画自賛したくなるな。


「いや、少し待ってくれないか。せっかく英雄様に合えたんだ」


なんだよ、ミーハかよ。

おっさんに言い寄られても嬉しくねぇ。


「悪いなカーリさん。俺らは出来るだけ早く王都に帰る必要があるんだ。あんたの体調が悪いのかと思って声をかけただけさ。問題ないようだしもう行くよ」


おっさんに引き止められてあれやこれや聞かれても面倒、時間の無駄だ。

別にケガをしているとか、体調を崩して蹲っていたという事ではないようだから放置、これが俺の方針である。


「まあ、そうつれなくしないでくれよ、英雄さん?」


カーリはそういうと、俺からは死角になっていた背中のマントの影からシャリン、と剣を抜き放った。


「おいおい、どういうつもりだよ。俺に剣を向けるとか意味分かってんの?」


まさか剣を抜けられるとは思ってなかったが、レベル3の雑魚に何をされようがレベル9というほぼ極めている俺とのステータス差は歴然だ。

触れる事すら出来ない事は確定しているので怯えたりする必要はない。


が、念のため、俺は両目に刻まれたアクティブスキルの『鑑定眼』と『観察眼』を起動させる。

右目の『鑑定眼』はいわゆるステータスを読み取るスキルだ、人・物問わず自分のレベル以下の物を丸裸にする。

左目の『観察眼』は『見切り』の最上位スキルで、見えてる物の筋肉・気配・魔力から大気の流れまで完全に掌握する。

この両目で見えない物はない、と『守護神』からお墨付きを貰ったほどのチート能力である


「いやいや、そんな怖い顔をしないでくれよ。ちょっとした決闘というか、手合せをして貰いたいなと思っただけさ。ほら、俺ももうこんな歳だろ? 引退も考えたりしちゃうわけよ。で、英雄さんと手合せして引退とか格好付きそうじゃないか! って今思いついたわけだ」


今かよ!


って思わず突っ込んでしまった。

まあ、剣は抜いているが殺気をまるで感じないし、魔力を練り上げている様子もない。


一応『鑑定眼』で見えているステータスも確認する。


************************


名前:カーリ

年齢:28歳

レベル:3


体力:118/86+32

魔力:24/18+6


筋力:18+26

頑強:22+30

俊敏:16+27

賢さ:9+12

精神:19+29

幸運:30+0


状態:健康


装備

鉄製のロングソード(鋳造品)、オークの革鎧、リザードの革ズボン、シープの革靴


スキル:ファストスラッシュ


魔法:なし


祝福:能力値正常化



************************



なんというか見事にショボイ、まあレベル3相応ではあるのだが、俺を相手にするには桁が2つほど足りない。

+(プラス)の右側が基礎値、左側がいわゆるレベル補正というやつだ。


レベル9である所の俺は+(プラス)の左側が1500以上ある。


後、気になるのは『祝福』だ。

祝福というのは『守護神』から与えられる能力だが、『守護神』からの愛情が深ければ深いほど強力だったり特殊だったりする物になる。

俺なんて『守護神』のロリババアから溺愛を受けているので、ステータスでは俺を上回っていた7公を倒せた。


ちなみにあまりに恥かしい名前で、人には公表できない。

え、聞きたいって?


仕方がないな。


≪愛されし幸運の騎士≫ 

常時発動:愛されれば愛されるほど幸運値上昇していくという・・・


深くは追及するな。

ロリババア守護神に愛されているんだ、俺。



ともかくだ、祝福というやつは戦いを左右するような効果を秘めた力だ。

詳細も確認しておく必要がある。


祝福に意識の焦点を合わせると、その詳細が見えてくる。



祝福:能力値正常化

随意発動:発動中一定範囲内における能力値の変動・変化を無効化する



ふむ、どうやら状態変化の魔法やモンスターの毒なんかを受け付けなくなるのかな。

とはいえ発動すると強化系スキルや魔法も無効化しそうだ。


アクティブ系みたいだから使い所を間違えなければ・・・・・・


ん~ダメだな、使えない、全く使えない。


ゴミステータスに使えない祝福、剣技も1つしか覚えていないし、さすが28歳までレベル3に留まっている、というべきか。


このステータスでソロだとゴブリンなら問題なさそだけど、オーガ相手になれば死闘を演じる感じかね。

それいでて祝福で強化スキルや魔法消してしまうのだろうからパーティを組んでくれる物好きはいないだろう。


レベルは上がらず倒せる相手は超雑魚で経験値の肥やしにはならない。

完璧に詰んでる。


確かにこれならギルドからもそろそろ引退を勧告が出ていておかしくない。


となれば、少々面倒だがここで引導渡してやるのが英雄的で格好いい優しさではなかろうか?


チラッと後ろの女共を見てみれば、4人は俺にお任せしますというように頷いて見せる。


「いいだろう、冒険者としての先輩がそう望むのであれば、受けるのが礼儀! が一応確認しておく。俺はカーリさんが死なないように手加減はするつもりだ。しかし能力値に差があり過ぎてもしかしたら殺してしまうかもしれない。それでもいいんだな?」


「無論だ、英雄様と戦って死ねるなんて、冒険者として戦士としてこんな名誉なことはねぇからな。ただ万が一、何かの拍子に俺が勝って英雄様を殺してしまっても文句は言わないでくれよ」


おっさんは間髪入れずに、生意気な事を言いかえしてきた。

俺とおっさんの力は蟻とドラゴンほども離れているのだ、万が一どころか億が一も起こりようがない。


「はん、まあいいさ。先輩の顔を立ててその忠告は受け取った。油断はしない手も抜かない、それでいいんだな?」


そう、おっさんは俺に手を抜くなと言いたかったのだろう。

まあ盗賊やら生意気な敵国の軍隊やら、大量殺人を経験している俺だが、元日本人として平時に人を殺す、という事に少なからぬ忌避感がある身だ。

それを敏感に感じ取ったのは見事だが、これだから年寄の冷や水とか言われるのだ。


が、本人が望むというなら、この世界でそれを避ける理由はない。


「全力でかかってこいよ、若造」


引退がどうのこうの言っているが、どうやら死にたいだけの自殺志願者かよ。

まあいい、ヤッてやるさ。



******************************



俺は愛用のユニーク武器である長剣『トリリト』を抜くと


スキル:神足を発動する。


これは『縮地』というスキルの最上位版で、100mほどの距離までなら距離に関係なく移動時間をほぼゼロに出来るスキルだ。

瞬間、俺はおっさんの懐にいる。

そして疾風のような薙ぎをお見舞いした。


ああ言ったが本気で殺すのも後味が悪そうなので刃は寝かせてある。

これでおっさんが吹き飛んで、気絶すればそれで終わるしな。

運が悪ければ死ぬかもしれないが・・・・・・


などと考えたのも束の間、何故かおっさんは俺の薙ぎに反応する。

そして剣を立てて軽く後ろへ飛びながら俺の薙ぎを受ける事で、力を逃がし流した。


「はぁ?」


俺は思わず間抜けな声を上げてしまう。

10mほども吹き飛んでいるとはいえ、まさかノーダメージで切り抜けられるとは全く予想外の出来事である。

おそらく、長年の経験と『勘』ってやつで俺の攻撃を読んだのだろう。

伊達に、レベル3程度のままおっさんになるまで生き残ってる訳じゃないようだ。


「っち、年の甲ってやつかよ?」


俺は肩を竦めてみせる。


「おお、手が痺れる。流石にお強い」


おっさんはそんな風にいいながら、剣を交互に持ち替えながら手をプラプラさせる。

実際、そんなつもりではないのだろうが、俺を小馬鹿にしているようで頭に来るわけよ。


分かる?

分からないかなぁ?


「もう手加減はしねぇよ」


別に全力を出すつもりもないが、無傷のまま気絶させて終わらせよう、なんて優しい事を考えるのはやめてやろう。

ちょっとぐらい、具体的には骨折ぐらい仕方ないよな?


俺はほんの少し本気を出す事にした。


お、俺の本気はこんなもんじゃないんだからねっ


実際にそんな言葉を言えばとても格好悪いから言わないが。


「手加減無用と最初に確認しただろ、遠慮せず来い」


ようやく痺れが取れたのか、両手で剣を持ち直したおっさんが格上のような事を言う。

屈辱だ、もう二度とそんな余裕のある態度を取らせたりしない。


「おっさん、死ぬなよ」


スキル:瞬身


言葉と共にテレポート系のスキルを発動、おっさんの真後ろに出て袈裟切りを放つ。

が、おっさんは横っ飛びに飛んでそれを避けた。

おいおい、7公だって初見じゃ回避出来なかったというのにどういうことだよ。


というか、このおっさん本当にレベル3なのだろうか?

もしかして偽装とかそういうメタなスキルを持っているかもしれない。


スキル:看破


看破スキルは相手の擬装・欺瞞系の能力を無効化するものだ。

ステルス能力を持つモンスターなんかの天敵になれる。


看破したあともう一度『鑑定眼』でステータスを覗くが変化はない。

やはりレベル3の雑魚なんだろうか?


「おい、おっさん。今のを回避できるってどういう理屈だよ?」


返事は期待していないが一応聞いてみる。


「そりゃ、熟練の冒険者が身に着けてる必殺スキル『勘』ってやつだな」


『勘』かよ!! それスキルじゃねぇよ!!!111!1!


そりゃ突っ込む。

てか、もしかして俺って本気で舐められてるの?


そう思うとだんだんムカムカしてきた。

こんなクソ雑魚の低レベルおっさん冒険者に一度ならず二度までも舐められた。

とあっては勇者にして英雄である所の俺の矜持が許さない。

むろん、ハーレム要員たちも許してはくれないだろう。


「おっさん、死んどけよ」


攻撃スキルも魔法スキルも使わないでおいてやろうと思ったが、もうそんな気は無くなった。

一秒でも一瞬でも早く、もう、殺す。


スキル:三影


気付いた奴もいるだろうが、俺の真の能力はいわゆるスピードを極めた攻撃系統だ。

三影は3人に分身するスキル、ヘキサスラッシュは五連撃だ。


スキル:瞬身


スキル:ヘキサスラッシュ


瞬身でおっさんを囲むように移動し、三方向から同時に五連撃。

これを捌ける奴なんて人間にはいないからな。

まあ少々大人げないかもしれないが、おっさんの方が年上で大人なんだからいいだろう。


が、おっさんは予想外の行動に出た。

ヘキサスラッシュが発動する直前に左前方へ出現した影に飛び込んだのだ。

そしてスキルの出際、こちらの武器にまだ力の乗っていない所を押さえ込み、体を入れ替える事で俺の必殺の攻撃を回避した。


確かに攻撃系スキルの弱点は、出際と出終わりの際にある。

それは誰でも知っているが、完璧なタイミングで潰すなんてことが簡単なはずはない。

そもそも、こんな低レベルのおっさんに俺の動きが見えているはずがないのに!


では、なぜそんな事が可能なのか?


分からない、おっさんは未来予知とか第六感みたいなレアリティが高いスキルも祝福も持ってやしないのだ。


しかし、必ず何かネタがあるはずだ。

まずは冷静になってそれを見極める必要があるな。


「なんで、噂の英雄様ってのがこの程度か。レベル9とか7公の一角を崩したとかてんで眉唾だったかな。それとも別人だったか。いやぁ、これは俺の引退もまだ遠そうだ」


おっさんがこれ見よがしに肩を竦めて口の端を釣り上げ笑ってる。


ムカつく、とにかくムカつく。

挑発されてるんだ、と頭のどこかでは分かっているが、その頭に血が上ってくるのは止められない。


なんせ、勇者にして英雄である俺を、しかもハーレム要員の女の前でバカにしたのだ、極刑に値する。

こんな事は例え守護神が許しても俺は許さない。


「なめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


俺は吠えるとスキルや技など関係なしに連続攻撃をする。

頭の片隅では、遠くで見ている別の俺が冷静になれ、と囁いてくるが、それを聞いてやれるほど俺の心は広くない。

とにかく、このおっさんをぶった切らなければ気が済まないんだ!!!

だから狂気に身を任せるのが正しい、絶対に。


切り降ろし、切り上げ、薙いで突いて・・・・・・

縦横斜め、瞬身も織り交ぜながら変幻自在に、ありとあらゆる方向からメタメタに切りつける。


もちろん、おっさんは防戦一方だ。

時折、そのショボイロングソートの防御をかいくぐって腕や足、鎧に剣が届いて出血を強いている。

辛うじて致命傷は避けているようだが、このままやっても時間の問題だな。


しかし、おっさんの口元に貼りついた小馬鹿にしたような笑みが消えない。

それだけは絶対許せない、すぐにでも消し去ってグチャグチャにしてこの世界からチリも残さず消し去ってやりたい。


われ守護する神に願い奉る』


俺は斬り付けながら詠唱を開始する。

ふはは、俺の使える最強の魔法で逝くがいい!


『天の理 集まりし見えざる幾万の ≪瞬光≫ 』


今、呪文を詠唱している魔法 光槍連雷(ルーシダルド ラ フルミナディエチミーラ) は槍状のレーザーを前面扇状に数万本同時にぶっ放すような魔法だ。

かなり強力なモンスターが無数にいても体中穴だらけにして絶命させる程の威力があるが、その分魔力の消費が激しい。

俺でもチート加算が無ければ撃てない魔法である。


それを至近距離でぶっ放してやればどうなるか。

人など欠片も残さず消滅することだろう。

光の速さで飛来する槍に対し防御や回避は無意味だ。


チラッと視界の端に慌てて俺の後ろに逃げ出すハーレム要員達の姿が映る。

まあ範囲は絞るから慌てなくとも大丈夫なんだがね。


『風の理 もちて かの敵を穿て 光槍万雷』


俺はピタリと右手の指先を目の前のおっさんに突き付ける。

はっはは、とっとと俺の視界から消え去るがいい!!!


そして眩いばかりの光が視界を埋め尽くす・・・・・・


ハズなのに出なかった、おいおい守護神、何をしてるんだよ!!!11!!


と、首の辺りを何かが通り過ぎたような気がした。


ん? あれ?

どうして俺の視界に地面が見えるんだ?

というか、俺浮いてないか?

・・・・・・違う、浮いてるんじゃない、それじゃ自分の胴体が今も突っ立っている見える説明がつかない


なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ


遅れて胴体から血が吹き出し、俺の視界を埋める。

な、なんだ

い、い、い、い、いったい・・・な・・・・・・に・・・・・・・・・・が・・・・・・・・・・・・・


クルクル回る視界が徐々に狭くなる、痛みも何も感じないままオレの意識は闇に包まれた。



***********************


奴隷猫耳娘 視点



「やれやれ、『ちぃと』って奴は憐れだな」


首を落とされ朽木のように倒れて行く『ソウ様』を感情の籠らない目で見ながらカーリと名乗った冒険者が、そう呟く。


「あ”あ”あ”あ”あ”」


奴隷である私にも分け隔てなく優しく接し、温かく受け入れてくれる最強で最高の私の愛するご主人様。


それが、それが、それが


死んだ、死んだ、死んだ


ありえない、ありえない、ありえない


なに、なんなの、なんなのよ、あの男


「ぐあ”あ”あ”あ”、こ”ろ”す”・・・・・・こ”ーーろ”ーーーす”ーーーーーーーー!!!!!!!」


私の理性は簡単に消し飛んだ。

あの男を殺す、そして私も死ぬ!!


殆ど自動的に腰から二本の短剣を抜き放つと『カーリ』へと飛び掛かる。


奴隷でありながら勇者『ソウ様』と冒険することでレベル7という高みに達した私が、レベル3などに負けるはずがない。

切り刻んでやる。


しゃにむに突っ込み左右からスキルも交えて連撃を見舞う。


が、『ソウ様』の攻撃がそうだったように、男は見ても鋳造の量産品である鉄のロングソードで私の攻撃を悉く受け切ってしまう。

挙句、


「おお、さすが獣人、基礎身体能力の高いこと。あの英雄様より強いな」


などと余裕で品定めしたような発言をかましてくる。


それでも私は諦めず、腕も千切れよとばかりに攻撃を仕掛けていたのだが・・・・・・


徐々に、そう徐々に疑問が沸きあがってくる事を抑えられなくなってくる。


『なぜ私は『ソウ様』を愛しているんだろう?』


『そもそも私は彼が好きだったんだろうか?』


『彼は奴隷である私を厚遇してくれた、優秀な所有物として』


『私はそれを知っていた。彼は私を奴隷から解放しようとしない事も知っていた』


なに、なに、なに、なに????


私が戦っていたのは『一谷 宗太』という勇者に命じられたから。

彼は一度も戦うなとは言わなかったし、最も危険な前線で戦うように命じてきた。

たまに褒めてくれた、慰めてくれた、慰み者にもした、奴隷として。


・・・・・・どこにも好きになる要素はなかったのに。


いつの間にか私は攻撃する手を止めていた。


「やれやれ、これだから奴隷紋と魅了ってのは嫌いなんだ。ま、犬にでも噛まれたと思って今後は気を付けるんだな」


ポッカリと穴の空いた私の心にその男『カーリ』の言葉がスルリと滑り込んでくる。

『魅了』それは特殊なスキルの一つとして知られている。

何をやっても周囲に好意的に見られるようになるスキルで、とても『危険』だ。


「さて、俺の仕事は終わった。一応、正式な一騎打ちだからな、恨みっこなし。あんたらも頼むぜ。遺品は好きにしな」


『カーリ』は私と、第三王女様をはじめとした3人に向かってそういうと、剣を収めてくるりと踵を返し去っていく。


私にはもう彼を切る理由が無くなってしまった。

そして他の3人も動こうとはしない、経緯はどうあれ正式な決闘で彼は負けた。

面子を重んじる彼女らは手を出せないだろう。

後々追手を出すかもしれないけれど、それも今日明日という訳にはいかないのかな。


主が亡くなったことで私の奴隷紋も消えた。

生まれて初めて自由の身分ってのになってしまった。


どうしよう、『ソウ』を弔ってあげるぐらいはしていいかもしれない、自分が死んだら奴隷契約が解除されるようにしてくれたのだから恩が無いわけでもないし。


私は彼の頭を拾って埃を払い、死体を背負って3人の方へ歩き出す。


少し、これから先にある自由ってのに少しだけ思いを馳せながら。



一谷 宗太 BAD END

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