表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/58

危機

 優しく地面に降り立ち、その腕に居る姫君を降ろす。姫君は傍らに居る男、そして少し離れた所に居る鬼を見た。

その顔に困惑の色が浮かぶ、何が現実で、何が夢幻なのか、分からなくなっているのだろう。

 ただ、この身を抱き上げ、迫る恐怖から助けられた事それだけが、現実だと悟る。


「白狼、この姫から我等の記憶、消し去る事叶わぬか?」


 恐ろしき優麗な男は何かに尋ねた。


『消し去る事は出来ぬが、強烈な恐怖を与える事は出来るぞ』


 心に響く美声とは違う声が響き、男は溜息を吐く。

その仕草の一つ一つが姫君の心をより一層捕らえてしまう。


「只でさえ我等の不始末に巻き込んでしまったのだ。粗野な事はしたくはない」


『汝も酔狂な者よな、弱き者共など見捨て、黒狼の元へと向かえば良かろう』


 完全に蚊帳の外に置かれた姫君だったが、今はこの男を見る事が現実との繋がりだと、

そう姫君は思っていた。


「京の人々を見捨てるなど、出来ぬよ。居場所が分かったといえ未だに瘴気は減って居らぬ。誰かが、京を守れる程の強き者が現れたら、その時は向かおう」


 そう言い、男は剣を抜く。

悪鬼を正面に捉え、静かに集中する。

 悪鬼は呪いを吐きながらこちらへ向かってくる、その言葉の意味は分からなかった、だが。

悪鬼が距離を詰めるに従い、強烈な吐き気が姫を襲う、そしてその意識は物の数秒で刈り取られた。


『やれやれ、粗野な事を避けるつもりじゃなかったのか?命を刈り取られなかったとは言え、地獄の様な不快を感じただろう』


「これで良いのだ、この鬼を倒せばこの姫君はその家へと帰れるだろう。だが、帰す為にも我等は決して倒れては成らぬ」


『こやつは言霊を操る、原始の言葉を含み、そして汝等の言葉で呪いを放つ、化生の身とは言えその効力はなんら変わらぬ』


 霧綱の額に珠の様な汗が浮かぶ、人を辞めた身。

それがまるで人の様に汗を流し、呼吸を荒くする。


「昨晩で良く分かった、その言葉を放つ前に距離を詰め、仕留める」


 言い終わらぬ内に霧綱は動いた、剣を振りかぶり、悪鬼の首を落とさんと勢い良く剣を走らせたが。

一歩遅かった。


「……消……消」


 悪鬼がそう呟くと同時に剣は空を切った。今まで其処に居た巨大な悪鬼がまるで陽炎の様に消え去った。


「……裂……裂」


 霧綱の背後から、その声が響く。

それと同時に霧綱の体がそこらかしこから裂け始めた、最初は小さい裂傷だった。

 しかし徐々にその傷は大きくなっていく。恐ろしく強い力で雪の様な肌を、筋肉が裂けて行く。


「気配どころか、その実体すら消せるとは……言霊とは斯くに恐ろしき呪法じゅほうよ!!」


 霧綱の周囲を悪鬼は歩んでいる、歩いている筈なのだ。

しかし呪いこそ聞こえど、その醜悪な姿は見えぬ。

 自慢の鼻も、耳も悪鬼の痕跡を捉えられない。

かなりの苦戦を強いられていた。


『これ程の鬼は見た事も無い、霧綱……体を寄越せ!!』


 霧綱は力の限り首を振り、こう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ