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化生としての道

『哀れな……人とは欠くにも弱き物よ。汝が弟を止めねばこの国は終わる、弟の体から瘴気が立ち込めたのを見たのだろう?汝が追わぬのなら彼方へ渡すが良い、我はその者を使い汝の弟を止める。一族の死に行く姿を見たく無かろう。』


他人へ弟を任せると言う事に嫌悪した、元を言えば自分が剣を見せなければこの事態に陥る事は無かった。

 珍しき珍品を誇示する為に弟を使った事を恥じたのだ。


「誰とも知れぬに我が弟の命を摘ませる訳には行かぬ。我が弟を止める!だが命を奪う事はならぬ!その術が有るのなら化生にも鬼にも魂を捧げよう!剣に宿る化生よ、如何様に我が弟を止める!?答えて貰おうか!」


 剣は押し黙る、饒舌だった言葉が、今はしんと静寂が包んでいる。霧綱が剣に手を伸ばそうとした瞬間、剣は大声を上げて笑った。


『これは愉快だ!!弟を引き止める事すら出来なかった人間が大きく出た物よ!良かろう!奴の瘴気を追う鼻、闇を見渡す眼、魍魎の声を聞く耳、何者にも負けぬ力をくれてやる!我が名は白狼(びゃくろう)!白狼剣なり!さあ我を取り化生の道へ踏み込め!』


 霧綱はゆっくりと手を伸ばす、剣の柄を握ってしまえば人では無くなってしまう。だが消えた弟を人のまま探し出すのは無理だと悟っている。何より、弟だけを化生にして置き、自分だけ人として生きていくのは自分が許せなかった。


「我は源夕凪助霧綱(みなもとのゆうなぎすけきりつな)なり!主として命ずる!我が血肉を捧げ、汝の魂を与え給え!」


 そう叫ぶと、霧綱の体に異変が起きる、霧綱の皮膚は雪の様に白くなり、人の温もりを失って行った。その代わりに強烈な黴の匂いが鼻腔を刺激する、それだけでは無い。蟲が這いずる不快な音と共に聞いた事も無い言葉が耳に集まった。


「見ろ!人でもない化生でもない半端者が居るぞ!これは面白い物を見た!」


 小さな蜥蜴の様な生き物が霧綱を見て蔑んでいる、霧綱は体の変異に付いて行けずその場に倒れている。髪は銀に染まり、人には無い長い尾が狩衣を突き抜けた。


「がああぁぁ……!」


 嗚咽を漏らしながらも何とか立ち上がろうとする霧綱に話掛ける者が居る。


『慌てるな……人を捨て部分的に化生に成るというのは疲弊するものだ。暫く休め、化生の体に慣れるにも時間が掛かる。何より日が昇れば動く事すら苦痛になる。眠れ……化生に堕ち、弱く、強き者よ、目を覚ませば月が、汝の日の光になるだろう。』


 白狼が言うとおり、徐々に体が重く、そして耐え難い睡魔が襲ってきた……意識を失う寸前、弟の笑顔が浮かび、そして消えた。


「次郎丸!次はこれで遊ぼう!」


 霧綱は子弓を取り出し、弟を誘う、少し困った顔をしながら弟は誘いに乗ってくれた。幼い頃は何をするのも二人一緒だった。

私宅を出る事は無かったが、それでも同じ空間に居れる事を喜んだ。

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