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闇と光

再び、月の光が二人を照らす。

 月明かりが互いの顔を照らした時、二人は一気に間合いを詰める、その姿は人には似ているが、ただ、それだけの事だった。

一人は頭から布を被り、その隙間から覗く瞳は、人の瞳では無かった。

 そして、残る一人も、獣の様な尾と耳を持ち、布を被る男に鍔迫り合いを仕掛けようと距離を詰める。

二人の距離が見る見るうちに縮まり、剣を抜くと同時に閃光が走る、


「何故?……何故!追うのですか!我が兄、霧綱よ!」


「雪綱!汝が行った所業でどれ程の人が泣き、そして恐怖した事か!」


 雪綱と呼ばれた人ならざる者は、重なる白刃を振り払う。

甲高い金属音が、芒の原に響く。

 二人の距離が再び開く、霧綱はこの光景に既視感を覚える、それはあの時、雪綱が自分の手から離れた時と同じ感覚だった。


「雪綱……我は父の最期を見送る事も出来なんだ、父は何と申しておった?母は血を分けた兄弟に刃を交える事を望んでいたのか?」


 その言葉に雪綱が逆上する。


「黙れ……黙れええええええええええ!!」


 込み上げる憎しみを抱き、その感情に押され雪綱は駆け出している。

駆ける弟の瞳には、猛り狂う怒りが見える、しかし、霧綱は弟の一挙手一投足を見定め、剣を構え直す。

 二人の、二匹の化生はまるで、相反する物だった。

我武者羅に剣を振るう雪綱は烈火、対する霧綱は流水の如く剣撃を繰り広げる。

 一瞬も気が抜けぬ、その最中に、霧綱は口を開く。


「雪綱……我が弟よ、もう、何も成すべき事は無い、これ以上我等が何を成す為に刃を交えなければ為らぬのか……我には答えが見つからぬ、雪綱、御前にはこの答えが解かるか?」


 何も成すべき事は無い、その一言に剣は火花を散らし、互いの動きが止まる。


「何を成すべきか!?その事柄は別れを告げた折に申した筈!悪しき因習を断ち切れぬ人々を!我等双子を人として見ぬ愚かな人々を滅すると!ただ……ただ、産まれ出でたのが二人、それだけの事で奴婢よりも酷く扱われる……何故我は人並みの夢を抱けぬのだ、我はこの時世を憎む、兄君は変えられぬ国を、人に、絶望したのではないのか!?」


 圧倒的な決意と気迫、そして変化した膂力に、霧綱は弾き飛ばされる。

芒が倒れ、その実が霧綱の視界を白く彩る、月と綿毛がまるで雪景色の様に見えた。

 そして遥か空から、天から狩衣を着た人が、煌めく白刃を、風に靡く黒き髪が、白銀に包まれた化生の元へと、堕ちた。

大地を割る轟音、それは木霊と成り……長く芒の原に響いた。

 白に染まる化生の頬に何かが滴る、ゆっくりと眼を開くと其処には、声を堪え、ただ涙を流す弟が居た。

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