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弟の元へ

「我が大陸から来た事を汝は知っておろう、大陸に居た頃、汝が言う通り我等は崇められていた。しかし、悲しきかな人の心は移ろい、果てには我等をこの地へと売り払った、それ故に黒狼は人を憎んでおる、それに妙な縁も有ってか、汝等と同じ双子神なのだ……霧綱、御前が弟を止めようと動くのも我が黒狼を止めるのも、これが最後になるだろう、我等の出自を語るのは御前が初めてなのだから」


「やはり、そうであったか。我は白狼、御前の事を知り、己の事を語られた事が何よりも嬉しい。さて忠行殿の元へと赴き、雪綱を、黒狼を止めようぞ」


 暗く、湿る地下牢を人に似た化生が去る、どれ程の時間をこの場所で過ごしてきたのだろうか、それは弟、雪綱の贖罪の表れだったのかもしれない。


「来たか……」


 忠行が一声上げる、すると帳の向こうに人影が現れた。


「源霧綱、今宵は別れを告げに馳せ参じました……」


「そうか、今まで苦労を掛けた、かたじけなく思う……帝も帝もこの成行きを見守っておる、そして一言、御前に言葉を賜った、かたじけなし……確かに伝えたぞ」


 人だった頃、帝の顔すら見れなかった位に就いていた霧綱にとって、この賛辞は何にも変えれぬ言葉だった。


「何を申せば良いのか、我には返す言葉が在りませぬ、ただ、この身命を持って中る所存で御座います、では、再び相見える事を願わせて貰います」


 霧綱はそれだけ告げると、袖から結った漆黒の糸を取り出した。

今まで討ち果たした鬼や魍魎、化生から生まれ出でたその糸は、まるで遺髪の様にも見えた。

 糸を留めた、束を外し宙へ投げる。

すると黒き糸は互いに結ばれる様に連なり、円を描いた。

 円の中は陰陽寮、忠行の寝所とは違う景色を映し出している。

一息つき、霧綱はその中へと入っていった。


「霧綱殿、我は信じておる……人と化生の持つその力を」


 忠行が静かに六壬式盤を見る、占いが指し示すのは、凄まじい速度で回る針の動きだった。

霧綱が佇む場所は、芒の野だった、化生を照らす上弦の月の何と美しい事か、しかし、これから起きるであろう事に月は目を背けることに成る。

 そして、その時は不意に訪れる。

上弦の月が地上を優しく照らしている、夜の静寂を見守る様に。

 静寂に満ちた芒の原に、二人の人影が涼しい風と共に現れる、語る事も無く、ただ二人は互いを見、腰に差した剣を抜き対峙する。

緊張の糸は極限にまで高まり、月は二人の姿を見ていられぬのか、雲にその顔を隠してしまう。

 だが、隠れていても二人の様子が気になって仕方が無いのか、とうとう月は雲からその顔を覗かせてしまった。

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