禍いをもたらす者
雪綱は腕を引き抜くと同時に双子鬼は倒れた。
「月……子……」
微かに息が残った女鬼は倒れた半身の本名を呼ぶが、それに答える者はもう居ない。
「我は言った、立ち去らねば苦痛の中で悶え死ぬと、己の半身を失うのは辛いだろう?我の言う言葉が理解出来ただろう?立ち去ろうとしなかった、それだけで大切な者を失ったのだ」
饒舌に語る雪綱は、最早霧綱が知る弟では無かった。
余りにも邪悪で強大な力を備えてしまったのだ、霧綱を越える速さで剣を投げ、ほぼ同時に女鬼の首を捻じ切ったのだ。
「さて、酒天とやら、己に従う者は居なくなった、その姿を現せて貰おう」
雪綱がそう言うと壇上の帳が開く、夢で見た姿、そのままに化生達を見下ろしている。
「良い余興じゃ、汝が弟じゃな?白銀に輝く髪も良いが、その闇の様な髪も美しい物じゃ。どうじゃ妾の下に付かぬか?」
「この期に及んで減らず口を抜かすか、立場が解らぬ阿呆めが……苦痛を味わう間も無いと知れ」
雪綱が突き刺さった剣を引き抜く、足元には互いを見つめ合う様に事切れた鬼がいた。
霧綱は居た堪れずに二人の傍へ歩む、見開いた眼を閉じさせると角は消え、元の人へと戻っていった。
「雪綱……この様な手立てしか無かったのか」
「霧綱、いや、兄君何故御前は待たなかった、下手に抗う事をしなければこの様な事にもならずに済んだ……暫しそこで待つが良い、我の物を盗んだ報いを知らしめる」
一足の元、雪綱は跳んだ、瞬時に酒天の目の前に立つと同時に一閃。
剣を横に薙いだ、しかし……単だけが切り裂かれ、酒天の体は霧の様に消えた。
「惚れ惚れする動きじゃ、まるで疾風じゃの」
雪綱の背後に回り、その体に手を回す、一糸纏わぬ姿で雪綱を魅了する様に囁いた。
「愚弄するか!」
纏わり付く腕を振り払い、振り向きながら剣を突き出す、しかし其処に在る筈の酒天の体は無く、雪綱を霧綱を困惑させる。
「おお、誠に恐ろしい弟よな、霧綱殿、御前からも言ってやらぬか?妾と共に悦楽の宴を楽しもうと」
雪綱と同じ様に霧綱の体にも手が回る、甘美な匂いと首筋に吐息が掛かる。
気を抜いてしまえば間違いなく頷く様な口調、霧綱は満足に動けない、絡みつく腕を振り払おうとするが、徒労に終わる。
「妾を討とうと、ここまで赴いたのであろう?流れ落ちるその血潮は珊瑚より美しい」
「伏せろ!」
雪綱の叫びと同時に霧綱は頭を下げる。
風の様な速さで雪綱は酒天を突いた、それでも酒天の姿は消えた。




