居城へ
「爺様、先程の襲撃で乳無し子も出でてしまいました……このまま霧綱様に村の守護を頼むのも良いでしょう、しかし、我を通せば通す程、私の様な者が生まれる事をお忘れ無きように……では失礼致します、霧綱様、何も無い村ですが、何か必要な物が有れば何なりと申してください」
それだけ言うと娘は戸を閉めて出て行った。
村長の顔は暗く、そして辛い顔となっている、だから声を掛けた。
「良い御孫ですな、自分より他人の成すべき事を助けようとする。中々出来る物では無い、良い育て方をしたものだ」
しかし、返ってきたのは苦虫を潰したような答えだった。
「あの娘は余所者の娘でしてな……父も母も居ない、それ故に皆の鬱積を晴らす格好の的となった、怨まれても仕方ない事も沢山した、村を出て行く事も出来たのにそれでも残り、今は乳無し子の面倒を看ている……霧綱様、引き留める様な事をして申し訳無い、だがわしにも……」
話続ける村長の肩に手を乗せ、告げる。
「皆まで言わなくとも解かっております。傷が治るまで逗留し、その後、大江山の山頂へ私は向かわねばなりません。酒天童子を討つ為に。道に詳しい者が居りますかな?」
「それなら……」
数日の逗留後、化生の道を案内する娘が居た。
村人に差別されながらも村に留まり、そして誰よりも情に深いその娘に少なからず霧綱は共感していた。
「娘、疲れて居らぬか?疲れたのなら無理せず申せ、もし我と別れ、その帰りに鬼に襲われては護れぬ、それ故に身を護るのは己自身だ」
娘は振り返り問い返す。
「霧綱様、気遣いに感謝致します、ですが早く着かなければそれだけ苦しむ人が出るのでしょう?」
言葉に詰まる、だからと言ってここまで一切休んでいない、娘の体力もそろそろ限界が近い筈なのだ。
「致し方無し、娘冷えると思うが、耐えよ」
そう伝え、霧綱は娘を抱え上げた。
氷の様な冷たさ、心の臓が止まる程麗しい顔に、白銀の髪がたなびく、全身が寒さを覚える一方で娘は夢を抱いていた。
「むう、瘴気が濃くなってきた、娘、辛くは無いか?」
立ち止まり、気遣う姿に応える。
「はい……このまま坂を上れば山頂へ続く道が有る筈です、どうか私の事は構わず先を急いで下さい」
得体の知れぬ魅力を持った化生は、道外れに娘を降ろし、剣を抜いた。
「慌てるな、取って喰おうとはせぬ、しばし姿を隠すが、この剣が汝を護ってくれるだろう」
そう言い残し、化生は去っていった、静寂と暗黒が辺りを包む、時刻は丑の刻を過ぎている、耐え難い恐怖に押し潰されそうになっていると唐突にそれは現れた。
枯れ木を踏みしだき、大地を鳴らす音は容易にその体躯を匂わせる、娘は剣を抜き、音の鳴る方へ向く。




