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瀕死の戦い

 斬り上げた剣は、鬼の腕を切り落とす事無く止まった、柄を握った手に感覚が無くなる程の痺れが伝わった。

すかさず金熊童子の刃が霧綱の頭へと振り下ろされた。

 間一髪、その場を飛び退いたが、避け切れなかった、刀は狩衣を切り裂き、霧綱の肌をも傷を付けた。


「汝は獣ではない、虫だ、身の周りを飛び、心中を穢す虫だ、身の程を知らぬ虫は叩き潰すに限る」


「霧綱、大事ないか?」


 白狼は霧綱に語りかける、霧綱は答える。


「傷は浅い、しかし、厄介だな……以前戦った虫よりも硬い、それは吾奴の急所にも及ぶ様だ。変化は出来ぬか?」


「多用は禁物だ、下手を打てば己が心も獣に成り得る、その意味解るな?」


 変化した直後の止められない破壊の衝動、破壊した後の快楽、それに呑まれないかと聞かれれば、霧綱は黙るしかなかった。

それに今は無関係な人々も居る、そう易々と、変化出来る状況ではないのだ。


「ならば手は一つだな、この刃が届くまで、何度でも立ち向かおう」


 そして言葉の通りになった、顔を除く、ありとあらゆる箇所が硬く、剣を叩き付ける度に霧綱が傷を負っていく。

徐々に、そして確実に動きが遅くなり、傷が増えていく、膝を突いてもなお、霧綱は金熊童子に向って行く。

 そして、とうとう霧綱は倒れた。


「解からぬ、何故無駄な事をする?己も化生であろう?何故そこまで人に肩入れする?その眼で見ろ、御前が傷つき倒れようとも人は動かず、助けもせぬ」


 鬼が村人達を一瞥し、そして化生を見下ろす。


「我が主と共に行かぬか?救う価値も無い人々を守るなど、化生のする事ではない」


「そうだ……人は弱く、そして救う価値も無い……」


「そうであろう、さあ、人を殺し、喰らい、宴を始めようではないか」


 意気揚々と問いかける金熊童子の顔が引き攣った、それは霧綱の言葉による物だった。


「だから守るのだ、己等化生や鬼共の手から大切な人を奪わせぬ為に、その為に我は人々を守るのだ……汝は誇りを穢される事に、怒りを見せていたな、それ以上の怒りを我は知っている他人へ向ける怒りなど、取るに足りぬ」


「何を……申しているのか解からぬ、いや聞く耳も持たぬ!汝は他人に向ける怒りに死んでいくのだ!何がそれ以上の怒りだ!有るというのなら見せてみるが良い!」


 今、正に剣が振り下ろされる瞬間、金熊童子の首に、体に、何かが絡み付いた。


「な!?何が……」


 視界の悪い具足が、返って出来事を混乱させる。

体を揺すり、やっと自分の身に何が起きたのかを悟る、揺さぶられ落ちたそれは、先程見た村人の一人だった。


「己等……何をしているのか解かっているのか……?高が人風情が鬼に立ち向かうなどと……」

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