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金熊童子

「返して貰うぞ」


 男の手から剣を奪い、霧綱は魍魎の群れへと対峙する。


「霧綱、無事だったか。しかしこの村の者達は気概が足りぬと見える、汝の様に冷静に振舞えぬものか、人とは誠に弱いものよな」


「そう言うな、誰であれ、魍魎を、化生をこの眼で見たら驚き、恐怖するだろう、私ですら御前に会った時は驚いたのだから」


 白狼の愚痴を霧綱が嗜める、失笑を抑え霧綱は告げる。


「さて、哀れな魍魎を操る鬼を引き摺り下ろすとしようか」


「そうだな、何時までも見下されるのは癪に障る、場所は判っているな」


「言われるまでも無い」


 霧綱は何も居ない筈の中空を見上げる、そして地面を蹴り……一閃、地面に降り立つ音が、二つ響いた。

一つは狩衣を纏う人とも、獣ともつかぬ化生、そしてもう一つは雅な束帯を身に纏う鬼の姿だった。

 鬼と化生は向き直り、互いを睨み付ける。

そして唐突に鬼は笑いを上げた。

 人が聞いてしまえばそれだけで気を失う程、不快な嗤い声、更に鬼に合わせるかの様に魍魎共も笑い始めた。

一頻り嗤い、鬼が黙ると静寂が村を包んだ。


「己が、熊童子を討ち果たした化生か」


 身も竦む様な低音の声が響く、霧綱は問いを返す。


「だとしたらどうする?同胞を失い、怒りに身を任すか?」


 再び嗤い声が響く、霧綱は困惑した。

何故嗤っているのか、それが理解出来ないでいた。


「愉快な化生よ、吾奴は死者を愛でる余り、その身に死臭を纏わせていた。それ故に主に疎まれていた、礼を言おう、良い厄介払いが出来たと主が誉めておった、しかし……主から賜った召し物を裂いた事は許せぬ……」


 鬼の顔が血潮よりも紅く染まる、烏帽子が落ち、髪が天を衝く。

魍魎共が鬼の体に纏わり付き、堅牢な物へ、さながら具足の様に変わっていく。

 鬼が歩みながら右手を天に突き出す、その右手にも魍魎が集まり、怨恨が詰まった刀へと変化した。


「我が名は金熊(かなくま)童子、我が恥辱を雪ぐ為、獣を討ち果たさん」


 怨恨が凝り固まった具足を身に纏う鬼に対し、霧綱は麻の狩衣と、余りにも頼りない物だった。


「さて霧綱、相手は固い上に、狙える場所も少ない、どう手を打つ?」


「幸いな事に奴は視界を狭めている、死角から鎧の隙間を狙うしか、手立ては無いだろうな」


 そして霧綱は駆ける、堅牢な鎧が重いのか、それとも霧綱の動きが疾いのか、それは分らない。

鬼の背後を取り、腕の付け根に向かい剣を斬り上げる。

 大抵の鬼ならこれで腕を失った事だろう、只の鬼ならば。

しかし、今相対しているのは、金熊童子、只の鬼では無い、酒天童子から信用を得るに足る、強大な力を持つ鬼なのだ。


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