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狂乱

 男達は霧綱を一瞥した後、一人の男が述べた。


「そうは行かぬ、何を持って汝を信ずるのだ?縄も解けぬ人とも獣ともつかぬ者が、鬼を討つ?いよいよ持って信じられぬ上に、笑ってしまうわ」


 下卑た笑いが霧綱を包む、一頻り笑った後、男達は出て行った。

全身の力が抜けた様な感覚が霧綱を蝕んでいる、力を取り戻すのに時間が掛かりそうなのは霧綱自身解かっている。

 そして何より、身に纏うべき物が何も無い状態が霧綱を困らせていた。

変化した時、身に纏っていた物は全て破れ、服として成り立たなかったのは仕方ないが、自身の裸体を人に見られるのは霧綱にとって耐え難い事だった。

 朝夕問わず、何人の男や女が霧綱の体を下卑た目で見ていた事か。

そんな中。


「寒くないの?」


 大人の中に紛れて一人の若い女が霧綱に話し掛けた。


「そう思うなら、着る物とこの縄を解いてくれ」


「それは出来ないの……」


 村の掟が恐ろしいのか、女は肩を震わせる。


「そうか、ここに来て早三昼夜が経つ、そろそろ行かねばならぬ」


 後手に縛られた縄が音を立てる、女が訝しげにしている内に、霧綱は立ち上がり、告げた。


「其処な女奴、召し物を持ち奉じよ、さすれば怒りを抑え、我は去る」


月が妖しく霧綱の体を照らす。

神々しいまでに銀に輝く長髪、禍々しいまでに反響する声色に、女は言葉を失い、蕩けた。

 そして言われるがままに女は狩衣を持って来た。


「剣の場所を存じて居るか?」


 女は首を振り、ただ霧綱の顔を見る。

先程の声色とは違い、優しさに満ちた声に女は頬を赤らめる。


「あの……お名前を……」


 霧綱は首を振り、服を着る、その際に揺れる髪が胸を高鳴らせる。


「ひいいいい!!助けて!誰か!!」


 突如として響き渡る悲鳴、霧綱は飛び上がり、天井に乗った。

村は狂乱の坩堝に陥っていた、天を舞う魍魎、怨霊が人々に襲い掛かっている。

 阿鼻叫喚だった、子供を抱え、逃げ惑い、そして懇願する。

目の前の魍魎は恨みを、呪いを吐き続ける。

その呪いを受け、我を失い、我が子に襲い掛かる親、そして、笑い合っていたであろう村人同士が、いまやその手に農具を持ち、お互いを殺し合っている。


「その身が大事ならば外には出るな!」


 屋根に開いた穴から中を見る、女は恐怖に怯えただ頷いていた。

霧綱は屋根から飛び降り、ある男を捜す。

 村人の中にその男はいた。自らの意と反して勝手に動く自分の腕が信じられぬのか、尻を付ながらも、目の前に迫る魍魎を切り裂いていた。

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