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囚われの化生

襤褸切れの様に熊童子を投げ捨て、霧綱は、霧綱だった者は、天を仰ぎ、そして遠吠えを上げる。

勝利への歓喜か、それとも、破壊する快楽に打ち震えたのかは、誰も知らない。

 ただ、快楽や歓喜に酔い痴れる前に霧綱は、元の姿、化生へと戻っていた。


「霧綱、力の片鱗を垣間見た恐ろしさが解かるか?」


 白狼はそう霧綱に問い掛ける、霧綱は疲労困憊と言った様に、息を荒げている。


「解かる……力が溢れ、目に映る物が非力に思え、果てには全ての破壊を求めてしまう、雪綱は何故自分を失わずに居られる?」


「それは、黒狼との目的が、全て一致しているのだろう、それ故にあの時言葉を発する事が出来たのかも知れぬ」


「そうか……」


 霧綱は悲しげな表情を浮かべ、立ち上がろうとしたが、それすらも儘ならなかった。


「無理をするな、抑え付けていた理性を外し、その上で体を変化させたのだ、本来なら気を失っても可笑しくは無い」


「無理をしなければ、誰が酒天を止める事が出来ようか……」


 気丈に振舞うが、二歩、三歩進んだ後、糸が切れた人形の様に倒れた。

意識を取り戻した時、霧綱の視界に映ったのは、外の景色ではなく何処かのあばら屋の様だった。


「私は……そうだ、行かねば……?……」


 歪む思考の中、腕を動かそうとした所で気が付いた。自分が後手に縛られている事に。

それと同時に外から歩く音が聞こえる、一つ、二つ――どうやら五人以上は居る様だ。


「何だあの男は……」


「隣の村落が……」


「ありゃ、妖にちげえねえ……」


 思い思いに霧綱の陰口を叩いてる、無理も無い、犬の様な耳、尻から尾を生やした人など居ないのだから。

霧綱は落ち着きを取り戻しつつ腕に力を込める、だが上手く力が入らない。

 暫く縄が解けないか試しつつ、周囲を伺う。

このあばら屋も熊童子が居た家と負けず劣らずだった。


「白狼、いるか?」


 しかし返事は無い、霧綱を拘束する上で剣は危険すぎると判断したのだろう。

そして扉が開く、三人の男が動けぬ化生を見ている、忌々しく、そして恐怖を抱いた視線が霧綱に突き刺さる。


「言って置きたい事が有る、我が向った村は既に全員が死んでいた、そして、このままだと御前達の身も危うい、早急にこの縄を解き、そして我の剣を返して頂きたい」


 男達にどよめきが起きる、会話を聞かれていた事に驚いたのか、それとも人の言葉を話す事に驚いたのか、そしてまたひそひそと相談をする。


「全て聞こえているぞ、我が災いを成すなら既にこの村落も滅しているだろう。我は行かねばならぬ、この国を脅かさんとする鬼を討つ為に」

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