死人
そして誰かが唐突に笑い始めた、後に続く様に笑いは重なり、大きくなっていく。
囲まれぬ内に霧綱は外へと退いた。
月が大地を照らす、しかしそれは余りにも暗く、深い闇と大差が無かった。
先程まで何も感じられなかった村に異常な雰囲気が満ちているのを霧綱は感じる。
吐きたくなる様な異臭、何かを引き摺る様な音、誰とも言えぬ笑い声。
微かな光を映す月は、その正体を照らし出した。
「これは……」
襤褸を纏った人々、皆一様に薄気味悪い笑みを浮かべ、霧綱の周りを囲んでいた。
一人一人の顔は生気が全く感じられず、まるで死人の様だった、いや死人その物だった、ある者は腹から臓物が飛び出しながらも笑い、ある者は両足が腐り落ちたのか地面に這い蹲っている。
しかし、それ以上に腐敗した臭いが彼等は人では無いと悟らせた。
「手前が霧綱と言う化生か?……酒天様の誘いを断り、あまつさえ剣を向けた阿呆が居ると耳にしていたがこの場に現れるとは。正に阿呆と言うより、その命が要らぬ様に見える」
その瞬間霧綱の周りを囲んでいた亡者達は道を開けた、その先には額に大きな角を生やした鬼が居た。只の鬼では無い、それが歩みを進める度に腐敗と死臭が強くなるのを霧綱は感じた。
「見ろ、この者達を。物を言わずただ酒天様に奉しておる、弱く傲慢な人とは思えぬ程美しい」
鬼はその大きな手を一体の屍へと伸ばし、撫でる、その姿は力加減が分らぬ子供が力を込めすぎて壊してしまう、そんな様相を呈している。現に今撫でられた死体は、片腕をもがれていた。
「ああ、やはり脆い……愛でてやろうとするとどこか欠けてしまう、何か妙案は無いものか。霧綱殿はどう思われる?」
恍惚と痛切に満ちた表情のまま、鬼は霧綱に訊ねた、霧綱はそれに対し。
「悪鬼め!死した人々の安息を穢し道具にする、その様な奴に我が知恵を貸すと思うか!」
「何?何か知って居るのか?どうすれば丈夫な死者を作り出せる?それは術なのか?話せ、我はそれを知りたい。霧綱殿ここまで話して置きながら自分の胸に伏せるのは余りにも遊びが過ぎる」
鬼は知恵を貸すという言葉を聞き逃さなかったのか、執拗に霧綱に訊ねていた。
霧綱は腰の剣を抜き、鬼へと向けるが、剣が見えていないかの如く鬼は歩み寄る。
「さあ霧綱殿話して貰おう、従順で丈夫な死者の作り方を」
鬼は目の前まで迫って来ていた、距離を保とうとした剣を、見えていないかの如く振舞う姿に、霧綱は慄いた。
何故この鬼はこんなにも死体に執着するのか、この鬼の考えの考え方が理解できなかった。
「近寄るな!この者達が何故美しい!?死した後、安らかに眠りの中に就いている者を起こし、我が身の欲で何を企てる!?」




