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大江山へ

「何を、その弓が帝様を守るんじゃないか!」


「兄君……じゃあ僕が帝様と兄君を守ります!」


「なら僕が帝様と弓綱の道になれるよう精進しないとね!」


 張り詰めた弦の小気味が良い音と、童の笑い声が響く。目を覚まし夢を振り返る。幼い自分の無邪気さに何故だか笑いが込み上げてきた。


「霧綱、大事無いか?まさか人の姿に戻る事が出来る等我も驚いた。何が有ったのか詳しく教えてくれぬか?」


「いや今回ばかりは御前に感謝する、御前が我に化生の力を授けてくれなければ永遠に眠ったままか、もしくは死んでいただろう。」


「珍しい事も有った物だ、汝が我に礼を言うなどと……そろそろ日が暮れる、酒天とやらの元へ参ろうか。」


 牢を後にし化生は都を駆ける、牛車に乗り家路に着く者、もしくは恋に勤しむ者も居るだろう。

何も知らず、何も疑問を持たぬからこそ世は平穏なのだ。

 霧綱はそう自分に言い聞かせた、自分が出来る事を成すからこそ、この平穏は続いているのだと。

その事は誰にも誇れぬ事は出来ない、いやその資格すらない、元はと言えば自分が犯した事なのだから。

 羅城門を超え、川を超えて山を登る、その最中に京を見下ろす場所を霧綱は見つけた。

眼下に淡く小さな火が見える、思えば京を出るのは初めての事だ。


「不安か?この都に戻れぬかと考えて居るのか?」


「いや……そうなのかも知れぬ、もし、我が倒れるなら弟にも会えず、都は酒天の力で狂乱の渦に巻き込まれるかも知れぬ。しかし忠行殿が居る限り、鬼の勝手を許す事は無いだろう」


「そう思うならば感傷に浸らず先を急ぐぞ、長旅になるなら汝は寝床の場所も探さねばならぬ。日の当たらぬ場所で休めばその力も衰えよう注意しろ」


白狼の小言に頷き、その場を後にする。それから四日後の晩、霧綱は大江山の麓の村へとへと着いた。恐ろしい程の静けさに包まれた家々は、帰ってこない住人を待っているかのごとく、ちらほらと建っている。


「これも酒天の影響か?住んでいた村人達は何処に行ったのやら……無事だと良いが」


 その答えはいとも簡単に見つかった、ある一軒の家を調べようと、近寄った矢先の事だった。

中から物音が響く、音の感覚から枯れ木を折るような音、続いて岩と岩を擦り合わせる様な音が断続的に鳴り響く。

 中に居る何かに気取られぬ様、静かに障子を開き、中の様子を伺った。

そこに居たのは入り口に背を向ける人々だった、狭く暗いのにも係らず、皆何かの作業を行っている。

 戸を開け放つが中に居る人々はこちらの事に気が付いていないのか作業を続けている。


「もし……」


 霧綱が声を掛けた瞬間、中に居る人々の動きが止まり、作業を行っていた全員が戸の方へ向き直る。

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