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確固たる信念

 霧綱はその手を自らの胸に突き立てた、これが夢で有っても、剣が無くとも、自分の中にある白狼の力を信じて自分の爪を突き立てた。

迸る血潮、脈を打つ心の臓、その隣に掴める物が有った。


「そんな……この様な事が……」


 見る見る内に霧綱の胸から現れたのは見事な剣だった、剣を抜くと同時に霧綱の体は人に戻った。


「酒天……人は愚かで哀れかも知れぬ、それでも人は生きていく。我が自分の命を絶つ事も愚かに見えるだろう、だがこれで汝を討つ剣は現れた。悪しき鬼を殺める事に後悔する事無し」


「人と言うのは計り知れぬ物じゃな、その剣は汝だけの物夢を操るとは言え、それだけは消せぬ。この場は退くのが上策か。汝、名は?我の名だけを知って汝の名を知らぬのは不便であろう?」


「我が名は霧綱……源霧綱だ、酒天童子、次にまみえる時が己の最後だと知れ!」


「気に入ったぞ、霧綱とやら。その言葉を真実にしたければ大江山まで赴くが良い。待ち望むぞ霧綱」


 酒天はそう叫ぶと腕を振った、と同時に霧綱の視界は黒く染まって行った。


「霧……綱……殿!霧綱殿!気を確かに!」


 誰かが霧綱の体を支えて揺らしている。ゆっくりと目を開けると其処には忠行が居た。氷の様な霧綱の体を抱えている為か、体を小刻みに震わせている。


「忠行殿、何故ここに?……」


「陰陽寮に戻り占って見たが、御前の場所を示したまま六壬式盤が動かなくなった。何か有ると見て再び訪れたのだ」


「それは心配を掛けました……我は大丈夫です、私に触れるとその体に支障を来します。どうかそのまま去り、帝をお守り下さい。」


「ただこのまま去る事など出来ぬ!御前が人に戻る様を見て何も出来ぬまま去る事が出来ようか!?」


「我が人に戻れたのは一瞬の事、現に今化生に戻って居ります。それに酒天の居場所も分かりました、彼奴の狙いも、人の夢に入り後悔の念で心を満たしそれを喰らうのが彼奴の企み。今宵我は大江山に向わねば成りませぬ、帝の夢に酒天が入り込まぬ様にお守り下さい」


「ううむ……分かった、場合によっては昼の内にと思ったが、この様子だと間違いなく大江山は悪鬼の巣窟となっているだろう。霧綱殿済まぬ」


「化生の戦いに人は交ざらぬ物、我に出来る事が有ればそれで良いのです」


「済まぬ、我は陰陽寮に戻り帝に報告する。無事に戻って来い」


 化生に背を向け、若き陰陽師は駆けて行く。残された化生は再び夢の中へいざなわれた。


「弓綱は凄いなあ、僕よりも弓の扱いが上手くて羨ましいよ……」


「兄君の偏継に比べれば、僕の弓なんか粗暴な物です」


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