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悪夢

「頼む、我の前に出て来ないでくれ……我には……我には……」


 そう呟き、また首に手を伸ばす。

手に力が入るのが分る、手に伝わる感触もそのままに。

 しかし女の顔は苦痛に歪まなかった、それどころか首を絞められているのにも関わらず話し掛けて来る。


「また殺めるのですか?何度も、何度も、殺め続けるのですか?殺めては安堵し、また殺める……私達はこんなにもお慕いしているのに……」


 あちらこちらから絹が擦れ動く音が響く、勝手に視界が動き、辺りを見回す。

貴方様、貴方様と声を揃えて出て来たのは、目の前に立つ女だった。

 全てが同じ単、同じ声、そして同じ顔。狂気にも等しい状況に霧綱の思考は固まった。


「ああ!ああああ!!」


 口が動き悲鳴を上げる。力を入れた手が簡単に離れ、腰を抜かす。這ってこの場を出ようとするが、その先にも同じ単の裾が見える。


「許してくれ……頼む……許して」


「貴方様、これで永遠に一緒です。貴方様が死を望むまで……」


 女がそう言った瞬間、霧綱の視界が再び暗くなる、甘ったるい匂い、水を吐く泉、体を動かし、自分が戻って来た事を確認した。


「あれは女の想いを踏みにじるだけでなく、その命を奪った、しかしどこかで後悔していたから夢で現れた。そこが判らぬ、同族を殺めて置きながら後悔するなど、真に理解出来ぬ。なあ何故後悔するのだ?汝なら答えられるだろう?教えてくれまいか?人という物を」


 難しい問いだった、全員が全員、霧綱の様な考えではないから慎重に言葉を選ぶ必要が有った。


「言うに難し、ただ一つ望んだ結果では無い事、望んで人を殺めるなど鬼以外考えられぬ。」


「ほう、人は望まぬ事を行ったら後悔すると……思慮の浅いと言うべきか、悔やむ必要が有るなら何故その様な事をするのかが判らぬ。まあ良い、魂の味には変わりは無い。さて直に問おう、誘いに乗らぬか?時はやらぬ……とはいってもこの場に居る限り時は幾らでも有る。とくと考えて答えるが良い」


 酒天の直々の誘い、これを断るのなら命は無いと言っている様な物だった。

その様な状況に置いても霧綱の心は揺らがなかった。


「二度に渡る誘いを断るのは心が引けるが我は人を、その魂を喰わぬ。そして民を鬼共の手から守る為に生きている、その全てが救えるとは思えぬ、だが我は動く、己の様な者を倒す為に」


 酒天は驚き、そして笑った。


「術に嵌った化生が何を言うか、だが気に入った。この場で勝てると思うのか?何かこの場を切り抜ける術を汝は持って居るのか?」


「成功するとは思えぬ、だがこのまま己に侮蔑される事も耐えられぬ、だから一か八かの事をする」

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