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人の業

 単の間から覗く足が艶かしくも異常な様相を物語っていた。

けたたましい音楽は止み、女は歩を進める。

 禿が女の歩みに沿って花を道に撒く。

女が近づくに従い、臭気も強くなる。

 そして霧綱の目の前へ立った。


「見れば見るほど人の様な化生よの、好い顔、好い声、傍に置くには十分じゃ、傷は塞いでおいた、何も心配することは無い。」


 心を鷲掴みするかと思う程の美声、それ以上に異常に冷たい雰囲気を含んだ声が響いた、体を苛む激痛はとうに消えている。


「汝は……誰だ?ここは何処だ?……」


 霧綱は襲い掛かる恐怖に耐え、口を開いた。

傷を一瞬の内に塞ぐなど出来ぬ、それが化生の霧綱で有っても。


「ここか?ここは夢の現の狭間、誘いを断った化生が居ると聞き。その化生を見る為に参ったのじゃ。それにしても……人が化生に堕ちるとは、何とも滑稽な話であろうか?ただ、双子で有るが為に人と見ぬ、人、そのものが愚かな物だが」


 女は霧綱を、人そのもの見下す様な笑いを浮かべている。

その顔に霧綱は戦慄する、自分の夢に現れ、そして弓綱の幻を操るこの女を。


「まさか、汝は……」


「そうじゃ、これで気づかぬか認めぬ阿呆なら、誘う価値も無い……そういった者達の、末路を知りたく無いか?」


 霧綱は冷や汗を垂らしながら頷く。


「うむ、懸命な判断じゃ、まあ末路と言っても多様な物が有るが、一つ同じ物がある、その者にとっての苦痛を伴う事、激痛など生温い物ではない。絶望と後悔に駆られ自ら死を望む事が、魂を最高の味へと導く。と口で申しても伝わり難いのう、どれ一つ例を見せよう」


 酒天が片手を掲げると目の前が暗くなり、そして景色が一変した。

目の前に誰とも知らぬ女の顔、そして誰かの手がその細首を絞めている。

 荒い息と細く聞こえる悲鳴のみが轟いている。飛び退こうとしたが体が動かない、まるで自分の体が勝手に動いている様だ。


「さあ、見てみると良い。愚かな人の死が、その魂に甘美な味をつける様を」


 頭に響く酒天の声、そして悟る。

今見ているのは他人の夢だと言う事を。

 目の前の女の眼は真っ赤に充血し、そして事切れた。

絞めた手を離し肩で息をし、天を仰ぎ見た。

人を殺す、これだけでも十分霧綱にとっては辛い物だったが、それ以上の事が起きた。


「御前様……何故殺めたのです?……こんなにもお慕いしてるのに……」


 誰かが誰かに声を掛ける、霧綱の見ている誰かが声を出す。


「何故だ……何故死なぬ……この手でその首を絞め、その目から命が消えていくのを見た筈なのに……何故死なぬ……」


視界が動くと殺された筈の女が目の前に立ち恋慕の声で語りかけている、命が消えた瞬間を霧綱自身も見ている。

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