酒天童子
何故首を落されたのか、そして何故この化生は首を刎ねたのか、鬼と化生共には分からなかった。
「聞く耳持たぬ!鬼共よ酒天とやらに伝えろ!我が、源霧綱がその首を落しに向かうと!分かったのなら消え去れ!」
霧綱の一言に鬼達は驚き、そして消えていった、闇に溶ける様に。
「悪鬼共が……」
呟いた瞬間首を刎ねた鬼の体が燃え上がった。
炎に煽られる臭いは瘴気とは違う、全身を蝕む様な臭いに、霧綱は鼻に袖を当ててしまう。
「白狼、何だこれは!?今までとは違うぞ!」
「分からぬ……少なくとも黒狼の瘴気ではない!この様な鬼は見た事は無い……」
「汝にも分からぬ事なのか、白狼?」
「黒狼の瘴気で生まれた鬼では無い事は確かだ。」
「……忠行殿に尋ねてみるか。何が起きているのか分かるかも知れぬ。」
燃え尽きた鬼は京の道に黒い跡が残る、殺しても蘇るような生々しい跡が、霧綱と白狼に新たな危機感を植えつけた。
日が昇り眠気に襲われながらも忠行が来るのを待っている。
昨晩の内に、陰陽寮の外の塀に有る木に手紙を結い付けて置いた。
それを読めば必ず忠行は訪れる筈だ。
「この様な場所に来て頂き申し訳ない。」
「いやそれよりも鬼共が集まり、御前をその輪に加えようとしたのは真か?」
「ええ、有無を言わぬ内に首を刎ねましたが……弟が引き起こした件とは違い、霧散するのではなく燃え上がり大地にその跡を残していきました。酒天童子がどうのと申しておりましたが、何か知っておられますか?」
「酒天……酒天童子か……聞いた事は無いが、鬼共を従える程強い力を持っていると見て間違い無いだろう。何が目的なのか分からないが人にとってはろくな物では無いだろう。この酒天童子とやらの居場所を読まなければ……」
「忠行殿、我にも何か手伝える事は無いだろうか?」
「人が化生に頼む事等無い、と以前なら言っていただろうな、だがそうも言ってられぬ。酒天とやらの鬼の力量を見定める必要が有る。霧綱殿頼めるか?」
「我にしか出来ぬ事ですな……鬼の居場所が判り次第そこに向かうとしましょう。」
「うむ、判別が出来次第、御前に伝えよう。朝に訪ねて申し訳無かった。それまで休み、備えてくれ。では失礼する。」
忠行が牢から出るのと同時に、霧綱は眠りの中へと潜って行く。そして化生の夢に異形が現れる。
「ここは……?」
目の前に広がる光景は全てが乳白色に包まれている、甘ったるい匂いが満ち、そして自分の声だけが響く場所に困惑を隠せない。
「白狼……ここはどこなんだ?……」
しかし、問いも虚しく答えは返らない。腰を見ると白狼の分身で有る剣は消えていた。霧綱は完全にこの場所に孤立していた。




