百鬼夜行
月に照らされた大きな通りで霧綱は悩んでいた、月成を殺してしまった事を。
「まだ悔やんで居るのか……忘れるな、汝はもっと辛い事をせねば成らぬ。血を分けた者と相対するのだ。いい加減あの化生の事は忘れるのだ。」
忘れろと白狼は言うが、そう簡単に忘れる事が出来ないのが人だ。霧綱の中に眠る月成が事ある事に蘇る、適当に見回りを行い、寝所に戻り目を腫らす日々が続いた、が、妙な事も続いていた。
「霧綱、ここ最近の瘴気は満ちて居らぬのか?」
「瘴気?そういえば何も臭わぬな……人の怨念も聞こえぬ、白狼、何が起きている?まさか弟の身に何か起きたのでは……?」
「いやそれは無い、吾奴の怒りはそう簡単に収まる訳が無い、無論操られている汝の弟も早々倒れる事は無い。なのに瘴気を嗅ぎ取れぬとは何が起きている?……分からぬ……」
「……忠行殿に話してみるか?忠行殿なら何が起きているのかが分かるだろう。」
白狼に言われるまで気づかなかった、あれほど吐きたくなる様な臭いが、鼓膜を破りたくなる様な人々の怨みの声が一切聞こえなくなっていた。しかしどこか穏やかとは言い難い雰囲気を漂わせている。
「?何か聞こえる……笛?いや、太鼓も……祭囃子?この夜更けに?」
異様な雰囲気の中、霧綱の耳は狂った様に響く笛と太鼓は人が奏でられない旋律を何者かが奏でているのを聞き取った。
霧綱は剣を構えて待った。
それが近づくにつれ、狂った音が、笑い声が霧綱を包む。
その目に映ったのは様々な鬼達だった、それこそ有象無象の多さで霧綱の元へと、踊りながら、奏でながら近づいてくる。
「白狼……何だあれは……」
「鬼と化生共が列を成して歩いておる、あれだけの数だ、人なら無事では済まないが汝は人では無い、何も案ずる事は無いが……少し気になるな。」
先頭の鬼が止まると後に続く鬼も止まった。人の姿を借りているのか妙に生々しい。
「失礼、我等と同族と見受けるが……」
「それがどうした?馬鹿騒ぎを起こす程我は落ちぶれては居らぬ、この様な騒ぎを起こしたのは貴様の仕業か?」
そう口にした途端目の前の鬼共が笑い出す。
「何が可笑しい!この京を狂乱の坩堝に陥れるのなら只では済まさぬぞ!」
更に笑い声は強くなる。鬼共から見れば、霧綱の言葉が滑稽に見えて仕方が無いのだろう。目の前の鬼が笑いを堪えながら霧綱へと歩み寄る、そして。
「いやいや……これは異な事を、御前は冗談を言うのが上手ですな。我等と共に酒天童子様の元へ参りませぬか?酒天様は愉快な方を心待ちにしておられる。御前なら存分に……」
次の言葉を聞く前に、霧綱は目の前の鬼の首を刎ねた。それまで響いていた笑いも、鬼の体が倒れ込む音で静まり返る。




