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悲しみの果てに

 霧綱が膝を突く、もう立つ事すら出来ないだろう、だが、それでも霧綱は立った。剣を構え威風堂々と遊貴丸に向かい走った。


「何で……どうして……う……うわああああ!」


 遊貴丸も駆けた、疑問と恐怖が入り混じりながら自分を守る為に。霧綱の胸元に、最後の一撃を加えようとして、全身の動きが止まる、破れた単の中から子弓が遊貴丸の目に映る。

その刹那、遊貴丸の胸に鈍い光が走った。

 そして霧綱の体が衝突する、鈍い光を放つそれは深く刺さり貫いた。

子弓が落ち、炎の中へと消えていく、この時遊貴丸は悟った、情と言う物を。


「遊貴丸!何故だ!?何故止まった!?あのまま動いていれば汝が生き残ったと言うのに!何故止まった!?」


 口から溢れ出る血が致命傷という事を物語っていた、しかし遊貴丸は喋り続けた。


「父君……情と言うのは暖かい物ですね……愚かな息子が、何故父君を殺せましょうか……それに気づくには遅かった。私は愚かな息子で人とは違う化生です……どうか気に病む事の無きよう願います。」


「違う、汝は人だ情を感じ取れるなら人なのだ……済まぬ……我の力不足でこの様な事に……」


 涙を流す霧綱に遊貴丸は手を伸ばす、その顔に流れる涙に向かって。


「これが涙と言う物なのですね……冷たい、でも私の為に悲しんでいるのが分かる。ですが……私はそれが悲しい。私如きが父君に涙を流させる事が悲しい。どうか……どうか笑って下さい、私を撫で、そして笑ってくれた様に。」


 霧綱は唇を噛み、言った。


「ああ、遊貴丸、汝に名を考えた。元服を果たした証、大人だという証だ!」


「それは嬉しゅうござい……ます……」


「良く聞け!汝の名は月成つきなりだ!暗い闇を照らす月に成る……月成、聞こえているか?……」


 返事は返って来なかった、そして月成の体は淡い光に包まれ、幼い遊貴丸へ、命の暖かみが消えた死人へと変わって行った。いや戻ると言ったほうが良い。霧綱は燃え盛る本殿を後にし寝所へ帰っていった。一晩月丸の顔を眺め。忠行に死体を引き渡した。その際霧綱が言ったのは。


「何が善行で何が悪行なのか分からない、だがそれでも選択しなければいけない。この子は大事な事を教えてくれた、だから遺族へ帰して欲しい、残された者達は我以上に心を痛めている事だろう」


 さて儚く悲しい化生の話は終わりだ、何故そんなに暗くなる?これは御伽噺なんだ、御客達が悩む必要は無い。さてさて、そこまで辛気臭くなっちゃ話もし辛い。頭の中を綺麗にして霧綱が一番苦戦した鬼の話に入ろうか、まだ霧綱の願いは終わってはいないのだから。


「白狼……我は甘いのか?……冷酷に、非情に成らねば弟に逢うのも叶わぬのか?」

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