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人と化生と……

 霧綱が目を開けると遊貴丸が中に入り、一つ手を拍した。すると本殿の中に有る蝋燭全てに灯が灯り、高い天井に吊るされた人々の姿が露になった。吊るされた人々、全てが事切れており、誰が手を下したのか明白だった。


「驚かれましたか?父君、この輩は、人を貶め己の私腹を肥やす為だけに生きていた輩です。本来なら、それを見逃していた帝もこの中に入る予定でしたが。陰陽師共の結界が中々に強く捕らえる事は出来なかったのです、ですがこの通り、民を省みぬ輩を次々に誅した次第です。」


 意気揚々と答える遊貴丸に霧綱は戦慄した。そしてゆっくりと遊貴丸の方へ近寄り口を開く。


「遊貴丸……己は人を殺したのか?……我は人を守れと申した……何故このような事を……」


 霧綱の言葉に遊貴丸は困惑し、言葉を返す。


「父君?何を申して居るのです?吾奴等は人を人と見ぬ、弱き者達の命を踏みにじる様な悪しき者共なのですよ?何故その様な問いを……」


「それを裁くのは人で有り、我等では無い!……この様な非道を行う者がどうして敬いを持たれようか、返って恐怖を持たれよう!……それに人を罰すると言うのなら、我にも罪が有る、我は人だった、悪しき因習を断ち切れなかった人だったのだ……」


「な……何を仰られているのか分かりませぬ……父君は化生です。人を導く化生なのです!」


「違う……我は遊貴丸、汝に我が弟を重ねていた……守るべき弟を守れなかった弱き人なのだ……そして人に仇名す化生を……鬼を狩るのが我の宿命、行き着く先が弟へと標しになる。それ故我は斬らねばならぬ、人を殺める悪鬼、化生を……我の事を許せとは言わぬ。ただ怨め……化生に

も人にも成れぬ愚かで弱き者と。」


 剣を抜く霧綱に驚き、飛び退いた遊貴丸はまだ信じられぬようだった。


「そんな……父君は私を、私を助けてくれた。そして教えを授けてくれた……嘘だ……嘘だ……」


「遊貴丸!何もせず、我に斬られるか!?戦いそして我を殺すか!?さもなくば我は己を斬る!」


「うわあああああ!!」


 遊貴丸の悲痛な叫びが本殿に響く、蝋燭の炎が激しく燃え上がり天井に吊られた死体に燃え移る。


「来い遊貴丸!我の言葉の真意、今こそ教えよう!」


 炎を身に纏う遊貴丸は床に降り立ち一気に間合いを詰めて来る、霧綱は剣を振り下ろすが虚しくも空を斬った。

それは遊貴丸の驚くべき柔軟性が成せる業だった。真っ直ぐに走るかと思えば右に回り込み、左に回り込んだと思えば後ろへ飛び退いた。

 猫以上のしなやかさで霧綱を翻弄していた、そして鋭い爪が霧綱を刻む、一撃、一撃の威力は低いが、炎を目眩しにして確実に攻撃を行う、誰に教わった訳でもない。

化生の本能とでも言うのか。

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