淡い希望
「哀れな物よの、人と言うのは角にも弱き物か……霧綱、汝は何と戦う?鬼を狩り化生を狩る者だ、そしていずれは血の通うた弟と合間見える。そう覚悟したのだろう。なら躊躇うな、何も考えず、ただ目の前に立ち塞がる者を討ち果たせ。さもなくば汝が化生としてあの者に消されよう。
弟の顔を見れずにそこで汝の命は終わるのか?もしや弟と対峙した時もこの様に迷うのか?黒狼に魅入られた者は有無をも言わさず襲い掛かる、死ぬぞ……とは言っても、この様子では弟にも会えずに終わりそうだが。」
「何を言うか!短き間でも、遊貴丸と過ごした日々を忘れ、斬れと申すのか!?人の成せる……成せる……」
霧綱は言葉に詰まる、過去、自分が人だったとは言え今では人に恐れられる化生なのだ、その事を霧綱自身既に、十分過ぎる程理解していたからだ。
「人ならば鬼とも蔑まれよう、だが……今の己は人では無い、人の姿をした化生なのだ……そしてこれから斬る相手も化生だ。だがな、人としての考えは間違えては居らぬ、弱き者をどうして斬れようか……辛い事だがこれも弟への道標なのだ。このまま弟に逢うならば一太刀で首と胴が別
れよう、今この時に感謝せよ霧綱、辛い事だが汝にも外れては成らぬ目的が有るのだろう?例の化生が迎えに来るのは明日の宵だ、それまでに自分の道を考える事だ。」
白狼はそれ以降何も答えなかった、もっとも霧綱自身、自分が選んだ物に言葉を失っていた。そして時は無情にも過ぎ去る物だ。何も考えが纏まらぬ内に日は落ち夜が来る。人が居ない牢に哀れな化生がただ床を眺めていた、そして何かの石段を降りる音が響く。
「父君……御待たせし申した、遊貴丸が父君を迎えに参りました、父君を驚かす為に少し時間が掛かりましたが、御覧頂ければ父君も御喜びになられましょう。」
霧綱が顔を上げる、そこには昨日の様に冷たく、殺意に満ちた表情は無く、それどころか唸る程の美貌を持つ遊貴丸が居た。
「遊貴丸……我の言った事が分かったのだな?人を守るという事を分かってくれたのだな?」
「はい父君、父君が仰った言葉の意味を、自分なりに考え、何がこの国に必要なのか。そう考えて行動致しました。ささ、陰陽師の者達が来る前に行きましょう。」
霧綱は安心した、これで遊貴丸も自分の考えを理解してくれたのだと。
これならば忠行殿を説得出来ると、もし、説得できなければ追われてでも遊貴丸を守れると思った。
牢を出て遊貴丸が道を先導する。霧綱の様に恐ろしい俊足ではないが。それを補い、有り余る程に柔軟性が秀でており。
その柔軟性が産む動きは、霧綱の目を持っても読めず、気を抜けば置いて行かれると霧綱は感じた。
「さあここです、父君、どうぞ御覧下さい。」




