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苦渋

 遊貴丸は霧綱の顔を見て寂しそうにする、そして忠行を降ろし告げた。


「父君……父君は未だ迷って居られる様だ、幼い私を守り過ごしてくれた。聡明な父君なら一晩も有れば私の考えを受け入れる事でしょう、その間に私はやるべき事を成します。では明晩迎えに参ります」


 そう告げると遊貴丸は消えた。それをただ眺め、そして我を取り戻した。


「忠行殿!」


 急いで駆け寄り体を起こした、幸いな事に腕の傷は浅く、適切な処置を行えば治る傷だった。しかし……


「霧綱殿、あの化生は?……逃がしたのか?……」


「済まぬ……こうなるとは夢にも思わぬ事だった……」


「なら、こうして横になって居れぬな。直ぐにでも行方を追わねば……霧綱殿、我が汝を見逃したのは、御前が人の記憶を持っていた、その上で国を憂いていた、その心に他意は無しと感じだからこそ頼んだ……例え人の記憶を持っていたとしてもその力に溺れ、化生へと落ちる、御前は稀

有な化生なのだ。この言葉の意味分かるか?」


「ああ……我が愚かだった……浅ましき事をせずに御前に話せばと、悔やむ。しかし出来なかった。幼き遊貴丸を斬り捨てる事は我には出来なかった。その事がこの事態を引き起こし、忠行殿にも傷を負わせてしまうとは……悔やんでも悔やみ切れぬ……」


 正しき道を説こうとした、だが遊貴丸は霧綱の言葉の意味を理解しなかった。その事が霧綱の心に傷を作る。


「汝の行った事全てを否定をする訳ではない、誰も居らぬ牢の中で一人過ごすのが辛く悲しい物だろう。だが化生は情が深くとも御しきれぬ物なのだ。我は行かねばならぬ……帝にも報告をしなければ。」


 この時、霧綱は自分が行うべき事を分かってはいなかった。だがそれでも何かしなければと、忠行に声を掛ける。


「忠行殿、どうかこの件は我に任せていただけぬか、何を成せば良いのか分からぬ、だが一つ言えるのはこの事態を招いた我に責任が有ると。遊貴丸の本心を聞き、真の化生だとしたら……我が身命を賭して止めるべきだと、どうか我の事を今一度信じてもらえぬでしょうか?」


 深く頭を下げ、忠行の言葉を待つ。


「駄目だ……と言いたいが我にも準備が有る、何か算段が有ると見たが、あの化生を逃がすのなら。この場で汝を滅す、誓えあの化生を消すと」


きつい物言いだったが、霧綱に断る理由は無い、夢で有って欲しいと考えたが遊貴丸が見せたあの目は、夢ではない事を語っていた。


「我は……あ、あの者が、ひ……人に仇名す化生として……討ち払い、この国が栄える事……を願う」


 忠行は黙って頷き霧綱の元を去る。一人残された霧綱は寝所へ降り床に転がる玩具を見た。

霧綱が出掛けている間、寂しい思いをさせぬように作った鞠や子弓が無造作に置かれている。

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