邪悪
賀茂忠行、京を守る陰陽師、鬼と化生を滅するのを生業とする者。
威圧に満ちた声が響く。
「我は京を守る為に汝を信用し解き放った。それが何故、化生を匿う。やはり化生は化生でしか無いのか?答えよ、霧綱殿。」
「…………」
霧綱は初めて言葉に詰まる、言えなかった。
遊貴丸の事を、自分の罪滅ぼしを。忠行はその事を察したのだろう、呪縛を強める。
「辛い事なら我が代わりに滅してやろう。直ぐに済む……そこで待って居れ。」
草木が揺れる音、咄嗟に霧綱は叫んだ。
「伏せろ!」
間一髪、忠行は地面に膝を着いた。視線をずらすとそこには遊貴丸の姿が有った。
興奮しているのか、驚く程目は紅に染まり、尾を張らせている。そして動きが止まった。
「父様……体が……動かないよ……」
恐怖に満ちた遊貴丸の声が響く。霧綱は懇願の声を上げる。
「遊貴丸!逃げろ!頼む逃げてくれ!があっ……!!」
激痛を霧綱を襲う、忠行が放った九字が霧綱に向けられたのだ。
「助言感謝する。だが化生を逃す訳にはいかぬ、それが幼子の姿だろうと、化生は化生。霧綱殿、御前とは違う。承知してくだされ。」
次の瞬間、遊貴丸は炎に包まれた。鬼を、化生を浄化する激しき炎が幼い遊貴丸を飲み込んだ。
「ととさまぁ!……熱い!……熱いよぉ!……と……とさ……」
遊貴丸を助ける事も出来ず、霧綱は目を瞑るしかなかった。呪縛も解く事も出来ずに、ただ、無力感が霧綱を苛む。声が途絶え、目を開き業火を眺める、すると不意に炎が消え、その中から現れたのは遊貴丸に似た男だった。
「遊貴丸?……」
何が起きたのか分からなかった。目の前に居る男は遊貴丸の面影こそ残っていたが凍りつく様な視線は似ても似つかぬ物だった。気がつけば呪縛も解けている。
「父君、大きな怪我も無く何よりです。話も聞かぬ下賎に満ちた人など滅ぼしてしまいましょう。これは最初の篝火です。」
遊貴丸の口から信じられぬ言葉が出てきた。人など滅ぼす、そう言ったのか?霧綱を無視する様に遊貴丸の腕が動く、腕を、指を霧綱の目は追う。その先に居るのは忠行だった。印を結んだ腕が無残にも傷つき、血が滴り落ちている。父様、父様と甘えてくる遊貴丸とは思えぬ所業だった。
「忠行殿に何をするつもりだ!?遊貴丸!止めよ!」
「父君を襲い、父君の話も聞かず、あまつさえ化生と貶めた。父君が許しても私が許せませぬ。この様な輩が満ちた世界など……父君には相応しく有りませぬ。なればこそ、我等で人を導く事が、正しく敬いを持たれる道でしょう。」
「な……何を言っている?……」




