子との出会い
「真、不思議な化生よ。誰よりも国と民を憂い、一族を愛しておる……惜しい方を亡くした物だ……」
空を包んでいた瘴気が晴れ、月と星が煌めく夜は美しい物だった。
霧綱と忠行の出会いはこうして終わった、さてさてお次は、え?忠行は京を守るに値しなかったのかと?いえいえ、何事もつまらぬしがらみが有るのです。
霧綱が国を動かそうとした様に、悪しき因習を断とうとして出来なかった様に、人は迷い、憤りながら進む、過去を変える事は出来ない。
だからこそ前を向き何を残していけるのかそれに尽きる筈。
話が逸れてしまいましたな。次の鬼は、いや化生ですな、霧綱以外にも化生と呼ばれる者は居ました。
大半は人に興味を持たぬ存在ですが、京に一匹の化生が訪れたのです、時としては忠行と霧綱が出会った後の頃でしたな。
それとの対面は霧綱がいつもの様に鬼を狩っている最中の事だった。その晩はやけに寒く、いやに空気が淀んでいた、そんな宵に包まれた京を、霧綱は走る、目の前に人を担いだ小柄な鬼が居る。
有無を言わさずに鬼の首を刎ね、担がれていた人を受け止める、その体からは温かみが感じられぬ、手遅れかと思ったが服装を見ると、死人の出で立ちだった。まだ幼い男子、手には数珠を持っている。
「供養すべき人が居らず、さぞかし困っておるだろう……しかし人の前に出る訳にも行かぬ、どうしたものか。白狼何か良い考えは有るか?」
「そこな居に住む者に頼めば良かろうて。」
霧綱がそれもそうかと頷き、戸を叩こうとした時、それは起きた。
霧綱の背中に軽い衝撃と重量が加わった。首を回し、後ろを見ると死んでいた筈の男子が、霧綱の首の辺りに手を回していた。
「へ!?」
「うう……うええん……」
耳元に子供の泣き声が響く、余りの事に我を忘れていた。
「何事か!!」
不意に目の前の戸が開き武官が現れた。
「け……化生め!幼子を何処に連れて行くつもりだ!ええい斬り捨ててくれる!」
「いや!待て我は!……おおお!?」
問答無用と言う様に霧綱の眼前に刀が迫る、それを避けて後ろに退くと騒ぎを聞きつけたのか見回りが現れる。
「霧綱、釈明も出来ぬ、ここは一度退くしか無いな、恐らくその幼子は化生と化した。」
「なっ!?……ううむ、戻るしかないか……」
空中へと跳び、月に写る霧綱の背中には幼子の影が有った。
「で……どうするのだ?化生に生まれ変わり、まだ自我を持っておらぬ今が始末する好機だぞ。化生として自我を持つと厄介な事になる。」
幾多の鬼を切り伏せてきたが、幼子の化生など人の身で有った霧綱には、斬れる訳が無かった。