共闘
「改めて名を申し上げる、我は源霧綱、我が弟を止める為、鬼を追う化生なり。願わくば汝の名を聞かせてくれまいか?」
陰陽師は頷き、口を開く。
「我が名は賀茂忠行、京に蔓延る鬼を滅する陰陽師なり。霧綱殿、汝は人に非ず、だがそれでも皮を被る人よりも人だ。その事を努々忘れなきよう申し上げる。」
「有り難き事、胸に刻む事を誓う、後二刻も経てば日も昇ろう、今宵は去らせてもらう忠行殿。ご理解頂けた事を感謝する。」
そういって霧綱は去って行った。忠行は霧綱へ向かい印を結ぼうとしてその手を止めた。
さて若き陰陽師、賀茂忠行と化生の道を進む霧綱の出会いはこうして終わった。鬼はどうなったって?
それを今から話すんじゃ有りませんか。
巨大な鎌を操り、新たな手で獲物を逃さぬ鬼は陰陽師の防御陣に衝突し、手傷を負っていた。だがそれでも力は衰えず、機会を狙っていた。
今一歩の所で逃した獲物の味が忘れられないのか。人の顔は歪んだ笑みを浮かべその時を静かに待っていた。
「白狼、あの鬼に勝てると思うか?」
「分からん、だが行くのだろう?厳しい戦いになろうともな。」
「ああ、何としても弟を止める為、弟に会う。それまでは生きて行かねばならぬ。忠行も居る、何も心配する必要は無い。」
白狼にそう告げ霧綱は牢を出る、傷こそ癒えたが昨日よりも空気は重く、瘴気に満ち溢れている。鬼が跋扈する宵にはうってつけだった。耳を澄まし集中する。きち……きち……と、虫の顎が鳴る音が聞こえる。
「見つけたぞ……白狼、覚悟は良いか?」
「汝を選んでから覚悟は決めておる、汝の好きな様にせよ。」
霧綱が鬼を捉えた時、忠行も動き出していた。
「鬼め……その牙で、人を歯牙に掛けるか……いや……霧綱殿も動いているな……暫くは見物させてもらおう。」
忠行の六壬式盤がひとりでに動いている。
「相見えた……」
手元の六壬式盤が止まっていた。今、正に霧綱と鬼が死闘を繰り広げている最中だった。
甲高い金属の音と鈍く重い音が入り混じり、狂気の様な音が響く。
霧綱は何とか動き鬼を翻弄するが人の部分には手が出せなかった。どれだけ早く動いても二つの鎌に剣は払い落とされる。後ろに回
り。頭に剣を突き立てようとしても余りにも硬く刃が通らなかった。
「白狼!何か手は!?」
「あの鎌を切り落とし頭を潰すしか無いな。」
変幻自在に鎌を操る鬼の一瞬を突き、強固な鎌を切り落とすなど無理だった。
「両腕を使えるとは真に厄介だな!付け入る隙も見えぬ!かといって背後に回っても強固な殻で剣が通らぬ!一瞬の油断が命取りだな!」