プロローグ
「あんた、世界と妹どっちが大事?」
目の前には、コスプレ娘、もといエロイ格好をした(推定)女子中学生がいる。
詳しく言うと、胸はサラシを巻いていて、下は激ミニの黒いふわふわしたスカート。
しかも、俺に馬乗り。
時間は深夜3時。
「・・・俺いつのまにAVに出演してるんだ?」
「あんた馬鹿でしょ」
痛いすぎる厨二病患者に言われたくない。
「・・・携帯」
俺は自分の枕元を探る。
「は?この一大事に何言い出してるわけ?警察なんて当てにならないわよ?」
「いや、とりあえずここに露出狂で厨二病患者で不法侵入の中学生がいるということを伝えなければ・・・」
そう言うと、少女はとてつもない馬鹿を哀れむような目で俺を見る。
・・・なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ?
「あんた・・・私のこと、知らないの?雅から聞いてない?」
俺の体温が下がっていく。
ついでに有り得ない今の状況で混乱した頭も落ち着いてきた。
「聞いてないし、雅は死んだよ、一か月前にな」
妹の雅は、自殺した。
前日までは元気だった。
少なくとも、俺と殴り合いの喧嘩をするぐらいは。
「そんなこと知ってるわ。でも、雅を取り戻すことが出来るかもしれないって言ったら、どうする?」
俺は思った、この少女は、雅の友達だ。
雅が自殺したショックで頭のネジが緩んでいるんだ、と。
「そんなこと出来るわけないだろ」
俺は鼻で笑いながら即答した。
死んだ奴が生き返るのは、妄想の中だけだ。
「最後まで聞きなさい。あの子は、まだ死んでないわ。」
「そんなわけ・・・ないだろ?」
雅は死んだ。俺の目の前で。
(俺が、あの時、駆け寄っていれば。)
未だに俺の上に跨っている少女は、俺の胸ぐらを掴み、問いただした。
「後悔、してるんでしょ。あんたは雅を止められなかった。・・・私も同じ。あの子を助けられなかった。でも、まだ1%でも縋れる可能性があるとしたら?」
「そ、れは・・」
俺はこの少女は頭のネジが外れた可哀想な子、だと思っている。
けど、何故か少しだけ、本当にちょっとだけ、信じてもいいかもしれないと思ってしまった俺は、十分頭のネジが緩んでいるのかもしれない。
「・・・もう一度聞くわ。「世界」と「妹」、どっちが大事?」
俺は訳の分からないまま答えた。
「妹が大事じゃない兄貴なんているのかよ」
そういうと、少女は笑った。
「さすが兄妹ね。雅も同じこと言ってたわ。『兄貴が好きじゃない妹なんていない』って」