~喫茶~cross~発明~
久しぶりのIf・Cross Storyにして、新たな展開となります。
カランコロン♪
「ありがとうございましたー!」
お客様を見送ってからわたしはマスターのところへ、そこには出来上がったメニューと届け先の書かれた紙があった。
「はい! ココアさんと、クールさんにですね!」
両手に品を持ってお二人のところへ、
「お待たせしましたー! ホットココアと、アイスコーヒーです!」
「あぁ、ありがとう」
「ありがとね」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞー!」
マスターのところへ戻る。今のところ出すメニューは無いみたい。
ふぅ〜、やっと一息つけるよ。
ここは小さな喫茶店。
寡黙なマスターと、わたしを含めたアルバイト3人の、計4人で成り立っているこのお店、モットーは、『常連さんに優しく』です。
別に一見さんをお断りしてる訳でも、常連にならなければ優しくしないという訳ではないんですが。常連となってくれた方には、少しサービスするのですよ。
でも、幾人ものお客様が出入りする喫茶店ですから、常連さんを覚えるのが大変だったりします。
そんな時に、わたしはある方法を思い付いたのです。
それは、常連さんにアダ名をつけること、例えばさっきのホットココアは頼んだ方は来る度にココアを注文するので、ココアさん。
アイスコーヒーを頼んだ方は、毎回注文はばらばらだけど、必ず冷たい飲み物を頼むので、クールさん。
このように注文の特徴で常連さんを読んでいます。もちろんわたしが勝手に解釈のためにつけているので、本人はそれを知りません。
そんなこの喫茶店ですが、良く変わった人が来るのです。
例えば……
カランコロン♪
「あ、いらっしゃいま……せー」
今日やって来たのは、全身灰色っぽい服を来た女の人でした。
最初見た時はちょっと驚いて言葉を途切らしてしまったけど、お客様にはしっかり接待しないと。
女の人は一人だったので、カウンターにお通しした。コップに水を入れて持っていく。
「いらっしゃいませー!」
まずはいつも通りの明るい挨拶、
「お決まりになりましたら、こちらのベルでお呼びください」
ご注文方法という定型詩を言って、後は「失礼します」と言って離れる。
よし、完璧! と思っていたら。
「……ナポリタンと、アイスティー」
女の人は注文を言った。まだメニューを開いてないのに、壁にかかったメニューだけで選んだらしい。
「え、えっと」
虚をつかれたわたしだが、
「アイスティーはミルクとレモン、どちらになさいますか?」
ちゃんと決まり文句を言いました。
「……ミルクで」
「かしこまりました」
わたしは注文を復唱してからマスターのところへ、オーダーを言った後、再び何もやることがなくなった為か、つい、女の人の方を見てしまった。
「……この辺りにあるの?」
「…………」
「……確かにね」
何やらお話ししているみたいだ。でも周りには誰もいない、電話かな? 悪いかと思いながらも、聞き耳を立ててみる。
「それにしても、なかなかいい店じゃない」
「……うん」
おぉ、お褒めの言葉を頂きました。
もう片方の声は、やっぱり電話だろう、受話器を通したような声が聞こえたし。
でも電話にしては、よく聞こえるな。
少しして、女の人の注文したものが出来上がった。お盆に乗せて、持っていく。
「お待たせしました。ナポリタンと、アイスティーです」
一つずつ置いていく、そこでふと、カウンターに置かれている黒い箱のような物が目に入った。
元から無かったし、女の人の持ち物なんだろう、黒い弁当箱みたいな箱が置かれていた。
「誰が箱……」
「……ありがとう」
今、箱から声が聞こえたような……でもその声は女の人の声に遮られてよく聞き取れなかった。
「ご、ごゆっくりどうぞ」
謎は解けぬまま、わたしはそこを離れた。
でもやっぱり気になり、再び耳を傾けてみた。
「……ダメだよビーケ」
「悪かったわ、ついカッとなって」
「心読むの止めればいいんじゃないの?」
「出来たらしてるわよ、でもアタシを見た人の心は意志に関係なく読んでしまうの」
「大変だね」
「対したことないわ、なぜなら…」
「アタシはナビゲーターだから」
「ちょっ! エリ!」
「静かにしてね、周りから妙な目で見られるから」
「……もう遅いと思うけどそれを気にするのね?」
「うん」
「……」
やっぱり、片方の声はあの箱から聞こえてる。電話には見えないし、なんだかナビゲーターとか言ってたけど……アレは何なんだろう?
「おや? アレは……」
この声は……
「どうかしました? マスター」
マスターが喋った。これは珍しい。
「なるほど、そういうことですか」
「?」
なんだか納得してるみたいだけど。
するとマスターは、カウンターの向こう側から女の人に近づいた。
マスターの知り合いなのかな? とっても気になるので、そっと耳を傾けてみる。
「そうですか、彼等は夢を叶えたのですね」
「……一応は、ですが」
「そのせいで今のこの状況なんだけどね」
「ふふ、ですがずいぶんと親孝行なのですね。その為に全国を歩き回るとは」
「……私は、私の夢は自分で叶えたいから」
「なるほど、私も自らの夢を叶えるために努力し、こうして自分の店を持つことが出来たのです。貴女の夢も、いずれ叶いますよ」
「……ありがとう、ございます」
「こちらにはいつまで?」
「……この辺りのを全て見つけ次第には…」
「おぉ……」
あのマスターが、あんなに話すなんて……実はあの女の人、常連さんなのかもしれなくなってきた。きっとわたしのシフトじゃない時によく来てるんだ。
となれば、早速あだ名をつけなくては……とは言うものの、判断材料が少なすぎるからな……
「うーん…………あ」
そうだ、コレにしよう。
カランコロン♪
「ありがとうございましたー!」
女の人の会計を済ませ、見送った。
わたしはマスターのところへ行き、訊ねる。
「あの、マスター」
「はい? 何ですか?」
「今の女の人、もしかして常連さんですか?」
あんなにマスターが親しく話していたんだ、きっとそうに違いな…
「いえ、あの方は今日初めていらしたのですよ」
「え? でもマスター、あんなにお話してましたよね?」
「えぇ、あの方は過去に会ったことがありましてね」
マスターは教えてくれた。マスターは、あの女の人の両親と知り合いらしく、まだ小さい頃に何度も会っていたそうだ。そしてその面影を見つけたマスターが女の人に声をかけると、案の定、その人だったと。
「かれこれ、もう十年近く会ってませんでしたけど、どことなくあの2人に似ていたものですから」
「へぇ〜、マスターのお知り合いの娘さん。ということですね」
「えぇ、彼女はもうしばらくこの辺りにいるらしく、またこちらに来るそうですよ」
「ということは、カイワさんも常連さんになると……あ」
しまった。言ってしまった。
「ふふ、またいつものあだ名ですか?」
「あ、あはは、はい」
あの女の人、食事の時以外は必ず、箱やマスター等、誰かと話していた。
だから、あの人のあだ名はカイワさん、に決まりなのですよ。
「ふふ、きっと彼女も喜びと思いますよ」
「ありがとうございます。マスター」
カランコロン♪
「あ、いらっしゃいませー!」
喫茶店には、今日も人が集う。
今回のお話に出てきた喫茶店。これは、元となる話が現段階ではありません。
そのため、ここ、If・Cross Storyで多く出てくる予定です。
もっとも様々な人が集う場所。それが喫茶店。
感想お待ちしています。