~精霊~cross~迷路~
第二話、精霊と迷い路話の、ある一つの繋がりです。
今は授業中、先生の黒板への書き込む音か説明の声が音源になるのが当たり前の時間だが、今この空間に限っては、生徒達のひそひそ話がそれを担っていた。
正直言って、耳障りだ。ひそひそというところが特に、話すならどうどうと話してくれればどうってことないが、ひそひそとなると耳に入ってくる言葉は、耳に障る。
当たり前だが、授業中だからのひそひそだ。それを先生が止めないのは止められないのが分かっているからなのだが、俺にとっては、なんとしてでも止めたい事だった。
かと言ってどうすれば止まるのか。それにおいて俺へのクラス内評価が下がるのは避けたい。
……仕方ない、面倒だが、いつもどうりのこれしかないな。
筆箱に手を入れ、一本のペンを取り出す。キャップを外し、ノートの角に円を書き、中に線を書き連ねていく。
ものの十秒で書き終え、その真中を、
トン、と叩いた。
するとどうだろう、周りから聞こえていたひそひそが一切耳に入らなくなった。
先生の音が音源になり、普通の授業風景が戻ってきた。
ひそひそと話す人たちが、変わらずに話し続けていながら。
それから数十分して、チャイムが授業の終了を告げた。
「はい、じゃあ今日はここまで」
先生が終了を告げると、ひそひその声が、がやがやになって俺の耳にも届くようになった。
ふむ、やっぱチャイムをスイッチにするのは正解だな。
とりあえず、休み時間。しかも昼休みだ。
俺は席を立ち、廊下へと出た。
購買でなんか買って、あいつ等の所に行くか。
とか思っていると、妙なやつを発見した。
なんだアイツは?
まず格好がおかしい、縦線やら横線の入った、まるで迷路でも書かれているような服に帽子。
そんな奴が制服一択の高校に居たら目立つだろ?
ソイツは生徒に話しかけている。今終わったのか、生徒が去っていった。
するとソイツはこちらへと歩いてきて、俺と目が合った。
「ありゃ? もしかして見えてる?」
妙な事を言うな、
「当たり前だろ、さっきの男子にも見えてたろ」
「むぅ…まさか一般人に見つけられるなんて、まだまだ修行が足りないね」
何言ってんだコイツは……あ
「もしかしてお前、アレか? 幸せに迷いましょう。ってやつ」
「そーでーす♪」
言うなりソイツはピースサインを向けてきた。
「名前は確か……まぁいいか。今の男子、そうなのか?」
「もちろん♪授業中のひそひそが耳障りなんだってさ」
俺と同じ考えの持ち主だったか。
「……で? なに渡した?」
「それは言えないね♪でもちゃんと使えばゴールに行けるんだよ」
ちゃんと使えば……ね。
「確率は?」
「さぁ~、使った事ないし~」
手のひらを上にあげてふるふると首を振る。
「……はぁ、まあいいや、俺達には関係ないし。ほどほどにしろよ」
「もちろん♪……と言いたい所だけど、もしもしちゃったら、どうする?」
「そのときは……俺がゴールに導いてやるよ」
「えー、そんなの反則だー、チートだー」
ぶーぶーと駄々をこねる。
それを見た俺は、
「……お前な」
「え?」
ダン!
壁際に追いやり、右側の壁を叩いた。
「さっきも言ったが、ほどほどにしろよ? その気になれば、お前だって簡単なんだからな?」
左手に持ったペンを向けて言った。
「……はーい、分かってますよ~そういう人は行かさせないませ~ん……コレでいいの?」
言い方が癪に触るが、
「……絶対守れよ」
俺は解放した。
「は~い、そんじゃね~♪」
ソイツは去っていった。
分かったのかは分からんが、仕方ない、信じてやるとしよう。
これで、あいつ等が迷うことは無くなった筈だし、迷ったとしても、路には入らないだろう。
「おーい、黒石」
俺を呼ぶ声、振り返ると、
「こんなところでどうしたんだ?」
「なんでもない、ちょっと迷路から人を抜けださせてた」
「はぁ? お前も相変わらず分からん奴だな」
「お前には負けるよ、晶」
「まぁいいや、早く購買行こうぜ」
「あぁ」
迷路に迷わない方法、その一つ。
それは迷路に入る前に、それを止めさせることだ。