ひな祭り大作戦~side玲亜
3月3日、この日に起こる。3人の少女を中心にした物語。
これは、その1ページ。
「…………はぁ?」
いきなり現れた里桜の発言にワタシは聞き返した。
「だから、ひな祭りだってば!」
あー……聞き間違いじゃなかったか。
確かに今日は3月の3日、雛祭りだ。イベント好きの里桜だからなにか言ってくると思ってはいたさ、
「……誰が?」
「わたし達が!」
その中にワタシがすでにカウントされている事も。
ただし、
「……何処で?」
「はっ!」
何処かは未決定なんだよな。
しかし、雛祭りか……里桜の奴、ひょっとして知らないな?
「瑠音ちゃん家で!」
瑠音家とは、ワタシ達のバイト先の喫茶店の事だ。
「雛祭りフェアでも提案する気?」
一応訊いてみる。
「それだよ玲亜ちゃん!」
案の定、手をぱんと合わせて閃いたみたいな顔をする。
「ひな祭りフェア! マスターに提案してみよう!」
……はぁ、里桜の奴、本当に知らないんだな。
という訳で、ワタシ達は瑠音の家に向かう事に。
「あ!」
その道すがら、というかまだ学校から出てない廊下で瑠音を見つけた。
「る〜おんちゃ〜ん!」
里桜が瑠音に向かって走り寄る。
アイツ……まさか!
「あのね、瑠音ちゃんの家でひなま…むぐ!」
やっぱり、言い切る前にワタシは里桜の口を手で塞いだ。
「れ、玲亜ちゃん?」
「ごめん瑠音、なんでもないから」
「う、うん……?」
「むぐぐー!」
むぐむぐ唸る里桜を引きずりながら瑠音から離れた。
「ひな祭りフェアですか、良い発想だとは思いますけど、それは実現出来ません」
「えぇ!?」
否定されて里桜はショックを大袈裟に現した。
「こうなるだろうとは思ってたよ」
本当に知らなかったんだな、里桜。
「玲亜ちゃん、何か知ってるの?」
「まぁね」
マスターが電話をかけ始めたので、ワタシが説明する事に。
「瑠音の誕生日なんだよ、3月3日、雛祭りの日がね」
「えぇ!? そうなの!?」
「そうなの、だから雛祭りよりも瑠音の誕生日プレゼントを考えなよ」
「よーし! そうと決まれば早速!」
切り替え早いな、里桜はすでに頭の中で瑠音の誕生日プレゼントを考えている事だろう。
ま、ワタシはもう用意してあるけどね。
「玲亜ちゃん」
マスターがワタシの名前を呼んだ。
「なんですか?」
そういえば今日バイトのシフトだったっけ。
「瑠音の誕生日、何時頃にする?」
「あー……そうですね」
ワタシは懐中時計を開いた。今の時刻、3時を少し回ったところ。
「6時ぐらいでどうっすか?」
「よし、それで行きましょ」
マスターは電話にその時間を告げていた。相手は瑠音か。
「という訳で里桜、3時間後に始めるからその間に考えなよ」
「えぇ!? じゃあわたしちょっと探して来る!」
言うなり里桜は店を飛び出して行った。
やれやれ、瑠音と会って誕生日の事バラさなければいいけど。
こういう時って、妙に人が出会うんだよな……
「ふふ、これは面白い誕生日になりそうね」
電話を置いたマスターが楽しそうに笑っている。
「里桜がいるからですか?」
「それもだけど、瑠音、自分が誕生日なの忘れてるみたいなの」
「……マジっすか?」
「マジもマジ、大マジよ、今日は何の日か聞いたら、『ひな祭り?』だって」
うわぁ……まさか自分の誕生日も忘れるとは。
瑠音。ひょっとしたら里桜よりも心配かもしれない。
カランコロン♪
「ありゃあとうござーしたー」
今出ていった事で、店の中にお客が居なくなった。
懐中時計を開く……5時か。
ふぅ、本当なら瑠音もいたから半分の仕事で済んだ筈だけど……まぁ、誕生日なら仕方ないか。
マスターだって、今日は手伝わせないように遅く帰るように言ったわけだし。
「玲亜ちゃん」
マスターに呼ばれた。
「はい?」
「今日はもう閉めましょう、プレート回してきて」
「はい」
扉に近づき、OPENをこちらに向けて、CLOSEにする。
後は、瑠音の誕生日の準備をして……
「あ」
そうだ。瑠音へのプレゼント、家に置きっぱなしだった。
「マスター」
ワタシはマスターに説明した。
「では、帰り道にケーキを買って来てくれますか?」
バースデーケーキか。
「分かりました」
手早く着替え、さっきCLOSEにした扉に向かう。その時、
カランコロン♪
ドアベルが鳴り、誰かが入って来た。
「あ、すみません。今日はもう店閉めたんですよ」
ちゃんとCLOSEを見ろっての。
本音を隠して建前を言うと、
「あ……」
「あ」
その人と目が合った。
しかもその人は……
「……久しぶり?」
「……」
「……どうしたの?」
「……そっちこそどうしたんだよ? ワタシはもう持ってないぞ?」
ワタシはもうアレをアンタに渡したんだから。
「ん……分かってる」
「じゃあ、どうして」
「まだこの辺りにあるからよ」
電話口を通したような声が答えた。
「あぁ、箱もいたんだ」
「誰が箱か!?」
「どう見たって箱じゃん。箱を箱って言ってなにが悪いのさ」
「ガーーー!」
箱が怒った。それをムシして、
「さっきも言ったけど、今日はもう閉めたの。また日を改めてよね」
「ん……分かった」
やれやれ、そりゃ臨時休業だから分からなかったのは仕方ないけどね。
「……」
だが、扉を出ずにワタシを見ていた。
「なにさ?」
「……楽しそうだったから」
「なっ!?」
「……アレを持っていた時よりも、今の方が楽しそう」
「……」
あぁそうだよ、あの時より、今の方が全然楽しいさ。……なんて、面と向かって言える訳ないじゃんか。
だから、
「そうっすか?」
誤魔化した。
「とにかく、ワタシは用事があるんでコレで」
そのまま横を抜けて、店の外へと出た。
「……」
「まだかな、まだかな?」
「落ち着きなよ里桜、焦ってクラッカー鳴らさないでよ?」
懐中時計も見る。6時ちょうどを示した。
その時、扉が開き、瑠音が入って来た。
パン! パンパン!
「はひぃ!?」
クラッカーに瑠音が驚いた。
「「誕生日おめでとう!」」
「え……? あ……」
予想通りにぽかん顔だ。
「ほら瑠音、ぼさっと突っ立ってないで入りなよ」
「はい瑠音ちゃん!」
里桜がプレゼントを瑠音に渡した。
「誕生日おめでと〜!」
「ちょっ、里桜、渡すタイミング早いって」
「……」
その袋を見て、
「うっ……」
瑠音は急に泣き出した。
「あ、ありがとう……玲亜ちゃん、里桜ちゃん」
そして泣きながら、瑠音はワタシ達にお礼を言った。
「うん、どういたしまして」
ワタシは、あの人を思い出した。
……今の方が、全然楽しいよ。
だって、友達の誕生日をちゃんと祝えるんだから。
瑠音。絶対に良い誕生日にしてあげるからね。
この物語は、3人の少女が主役。
これはその1ページ。他のページも、どうかご覧下さい。
もしくは全てを見たアナタ、
感想、お待ちしています。