「子を産めないおまえに価値があるのか?」と離縁された妻です。で、新しい奥さまとの間に子供はできましたか?
結婚から三年。オルブライト子爵の妻、シーラにはいまだに懐妊の兆しがなかった。
夫は彼女を蔑んだ眼で見る。
「シーラ、答えろ。おまえに子を産む以外の価値があるのか?」
「……申しわけございません」
「聞きたいのは謝罪ではない。おまえのような女の欠陥品をいままで妻として屋敷においてやっていたことへの感謝だ」
「…………」
シーラはブルーノに深々と頭を下げた。
「さあ、このとおりに言ってみろ」とブルーノに言われたとおりのことを復唱する。ナイフで自分の身を傷つけさせられているような鋭い言葉に青ざめながら。
「い……いままで、女の欠陥品である私を置いていただきありがとうございました。旦那さまには感謝してもしきれません。すぐにこの屋敷をでていきます……」
「よろしい」
ブルーノは赤らんだ顔に歪んだ笑みを浮かべる。
「そうと決まったらさっさとでていけ。ヒトの子をなせない豚め」
結婚してからあつらえたドレスやアクセサリーをトランクにつめる気にはなれなかった。
令嬢時代から着ていたドレスはいまのシーラには大きかった。ブルーノに毎日いじめぬかれて食が細くなったせいだ。
痩せた肩をショールで隠し、屋敷のまえまでたどりつくと「シーラ」と彼女を呼ぶ声がした。
「オルブライト子爵から離縁されたと聞いたよ。ほんとうだったんだね」
「ノエル……」
彼女を待っていたのは幼なじみの男爵令息、ノエルだった。
カールした金髪が天使のように愛らしかった年下の子供はいつの間にか精悍な青年になっていた。
彼の手を借りて馬車から降り、シーラは必死に笑顔を作る。
「子供が産めない私には価値がないそうよ」
「そんな。ひどすぎる……!」
「いいの。仕方ないの。貴族は血を残すことがなにより大事ですもの」
「親戚の子を養子にするなりすればいいじゃないか。こんなふうにシーラを捨てるなんて」
「あのひとはどうしても自分の子がほしかったのよ。……ごめんなさい。すこしだけ泣いてもいい?」
「シーラ……」
ノエルは実家をでるまえより細くなったシーラの体を抱きしめる。
そして彼女が泣きやんだあとで言った。
「結婚しよう、シーラ」
「え……?」
「僕がきみを世界一幸せな花嫁にしてみせる。きみは僕のそばにいてくれるだけでいいんだ」
その後、シーラが幼馴染みの男と再婚したと噂が流れてきた。
たがか男爵だ。ブルーノは鼻で笑い、自分より格下の女を後妻として迎えた。
五年後。シーラの夫は騎士となり功績を挙げてブルーノより階級が上の伯爵となった。ふたりの間には男の子が生まれた。
ブルーノはいつになっても子供を宿さないふたりめの妻を捨て、新しい女を妻の座に据えた。
そして十年後。城での催しでブルーノはシーラと顔をあわせる。
自分が無価値と追いだした女は夫と利発そうな少年と一緒だった。
シーラだけでなく、二番目の妻も、三番目の妻も、その次の妻も子供をなして、自分より格上の男と幸せそうに――――
シーラはブルーノに気づくと憐憫の笑みを浮かべた。
「……なんでしたっけ。子供を作れない豚、でしたっけ?」
ブルーノは叫びながらシーラに飛びかかっていき、警備兵たちに取りおさえられた。その際に暴れて自分で燭台に目をぶつけた。
シーラは伯爵夫人としてそつなく挨拶しただけだった。ブルーノが聞いたのは幻聴。いまのブルーノには憫笑する価値もなかった。
それから十五年後。
ブルーノの八人目の妻がようやく子をなした。
無事に生まれてきたその男の子はなぜかブルーノではなく妻の友人の貴族にとてもよく似ていたが、
盲目となったブルーノにそれはわからず、自分の子供としてたいそう可愛がっているという。




