第9話 お前は1人ぼっちなんかじゃない!――涙で繋がった私と曾孫の絆――
「本当にタイムワープしちゃった……の?」
私は夜空を仰ぎながら呟いた。さっきまでブラックホールがあった場所には、何事もなかったかのように星が瞬いている。
足元には夜露に濡れた芝生。辺りはしんと静まり返り、時折カラスの羽音が聞こえるだけだった。
「まあ、こうなったからには仕方ないか!」
私は腕を組んで強がるように言う。
「いい?私のアパート狭いんだから、絶対に騒ぐな!あと、私もバンドやバイトで忙しい!だから私のペース乱すなよ!分かった!?」
ちび来夢は空を見上げたまま、返事をしなかった。次の瞬間、小さな肩がプルプル震わせながら絞り出すような声を出す。
「……トト様、もう帰ったんじゃよね?ら、来夢、少しだけ頑張らなくても、トト様は……えぐ!……ひ……ひっく!……来夢の事を嫌いになったりしないよね?……うっ……うぅー!うっ……うわぁぁーん!トト様ー!トト様ー!わぁぁぁーん!」
ちび来夢は、いきなり大声で泣き出し始めた!
「ち、ちょっと、あ、あんた!いきなりどうし……」
私の声が聞こえてないのか、ちび来夢の泣き声は、ますます大きくなっていく!
「うええーん!うわぁぁぁー!!うえぇ!………ぐす!……ひっく!……ひっく!……来夢は大好きなトト様と一緒にいたかった!本当は、もっともっと遊んで欲しかったし、ご飯も一緒に食べたかったし、優しくギューもして欲しかったのじゃ!……でも!でも!トト様の大事な用事を邪魔しちゃいけないから、来夢はトト様の前で泣かなかったのじゃ!我慢して頑張ったのじゃ!トト様!明日からもっと頑張るから!だから来夢の事を嫌いにならないで!1人にしないでほしいのじゃー!うわぁぁーん!うわぁぁーん!」
……私は、いつの間にか大粒の涙を流してる事に気がついた。
その涙は、自分でも止められなくて、次々と溢れ出してくる!
どうして、私は泣いてるの?
昭和特撮ヒーロー番組の主人公たちは、基本的に子供好きだけど、私はどちらかと言えば子供が嫌いだし、そこは真似出来ない部分だった。
だって、私がリアルで出会った子供達は、公園で特撮ヒーロー番組主題歌のアカペラ練習してると『やーい!やーい!オタク姉ちゃん!』とか、『ダッサ!そんな歌、今どき誰も聞かねーよ!』と言ってバカにしてきた連中ばかりだったから。
だから、私は目の前で子供が転んだり、喧嘩して泣いてるのを見ても可哀想とは思わなかったし、むしろ(ざまあみろ!)と思ってたくらいだ。
でも!でも!ちきしょう!何でだよ!?目の前にいるのは、出会って1時間くらいしか経ってない小生意気な子供じゃない?
どうして、この子が泣いてる姿を見てると私の心がズキズキ痛むんだよ!?意味分かんねーよ!誰か教えてよ!!
ちび来夢の涙の一粒一粒が、まるで散弾銃の弾丸のように私の心を削ってきやがる!
何なんだよ!?こんな気持は初めてだよ!!
この子が、私の曾孫だから?
だから、子供嫌いのはずの私が預かる気になったの?
タイムマシーンは人間の体だけじゃなくて、〝婆さんになった私が持つかもしれない家族への愛情まで、未来から運んできた〟っていうの!? そんな話聞いた事ねーよ!
なあ?ちび来夢!ついさっきまで、そんな泣き虫な所を全然見せなかったよね?大好きなトト様のために我慢してたって?本当は、もっと甘えたかったんだろ!?小さな子供のくせにカッコつけすぎなのよ!バカヤロー!!
華印は、自分の時代に帰っただけだし、1年後には迎えに来ると言った。その言葉は、多分嘘じゃないと思うから、永遠の別れという訳ではない。
だけど、この〝2025年では、ちび来夢はどう頑張っても華印に会う事は絶対に出来ない〟。
この子にとって、それは〝父親を亡くしたと同じくらい大きくて悲しい事なんだ〟!
ちび来夢って、まだ5、6歳くらいの女の子だよね?私が、この子と同じ歳くらいの頃は何してた?
両親と姉ちゃんの家族に囲まれて、幸せ生活を満喫してたよね?もしも、当時の私が今のちび来夢と同じ状況だったら、とっくの昔に泣き叫んでたんじゃないの?
この子は、父親の前では涙を一切見せずに我慢してた!笑ってた!私なんかより、ずっと強い子じゃない!
そう思った瞬間、私は、ちび来夢の背中を力一杯抱きしめていた。
「えぐ!……ひっく!……ひっく!……ひ、ひいおばあ様?……何をするのじゃ?」
「……なんかじゃない!」
「えっ?」
「お……お前は1人ぼっちなんかじゃない!いるだろ!私が!〝ひいおばあちゃんの私〟が!だから、もう泣くんじゃねーよ!……ひっく!……ぐす!……お、お前が泣いてるのを見てると、わ、私も……か、悲しいんだよ!胸が痛いんだよぉぉー!うっ!……うっ!……うう!……うわぁぁぁーん!うわぁぁぁー!!」
「ひいおばあ様ー!うわぁぁーん!うわぁぁーん!」
ちび来夢は、私の胸に顔を埋めて、更に泣いた。
私も堪えきれず、もっと声をあげて泣いた。
私達は、抱き合って泣き続けた。
「お嬢ちゃん達、こんな時間に何してるんだい?」
……どれくらい泣いてたんだろう?数十分?数時間?突然、背後から声をかけられたので、私は泣いたまま振り向く。
そこには、懐中電灯を片手に持っている40代くらいのお巡りさんが立っていた。
「いや、近所の人から女の子が大声で泣いてるって通報があったもんでね。何で泣いてんの?とりあえず、話を聞かせてくれるかな?」
「ぐす!……ひっく!……ひっく!……あ、い、いや!な、何でもないんです!ちょっと口喧嘩しちゃってて、えっと、それでもって熱くなり過ぎて涙が出てきただけなんです!お騒がせしてごめんなさい!ア、アハハ!」
私は、慌てて涙を拭いてお巡りさんに適当に思いついた事を話す。
「こんな夜中に?こんな場所で?とりあえず、免許証とか持ってたら、見せてもらってもいいかな?」
「あ、はい」
私は、お巡りさんに原付の免許証を渡した。
「えーと、名前は味蕾来夢さんね。住まいはこの近くか。それで、そっちの小さいお嬢ちゃんとは、どんな関係なの?」
「あ、ああー。え、えっと、そうそう!姉妹なんですよ!私達!妹なんです!この子!!」
「本当かい?それじゃ妹ちゃん、お巡りさんに、お名前聞かせてくれるかな?」
「味蕾来夢なのじゃ!」
いつの間にか泣き止んでいたちび来夢は、大声で答えた。
「味蕾来夢?姉妹なのに同じ名前なの?」
ヤバい!完全に怪しまれてる!何とか誤魔化さないと!
「そ、そうなんですよねー!私達の親って何考えて名前を付けたんでしょうかねー?家では、私は『おい!でか来夢!』、妹は『ねえ?ちび来夢ちゃん』って呼ばれてるんですよ!エヘヘへ!」
「どうも怪しいな。とりあえず、交番まで一緒に来てくれるかな?」
えー!?それは非常にマズい!本当の事なんか言えないし、話した所で信じてくれる訳ない!どうする?私?
「お巡りさん!来夢達は、本当の姉妹なのじゃ!来夢が我儘言って家出しようとしたら、お姉様が怒って、ここまで追いかけてきてくれたのじゃ!疑ってるなら、血液検査でもDNA鑑定でもしてくれて構わないのだ!」
そう言って、ちび来夢は袖をまくった右腕をお巡りさんに差し出す。
「あー、分かった!分かった!ともかく、女の子達だけで、こんな時間に出歩いてちゃダメだよ!お姉ちゃん!もう仲直りしたんだろ?妹ちゃんを連れて早く帰んなさいよ」
ちび来夢の想いが伝わったのか、お巡りさんは(やれやれ仕方ないなぁ)というような表情をして、優しい口調で言った。
「は、はい!分かりました」
「それじゃあね!もう姉妹喧嘩するんじゃないよ!」
そう言って、お巡りさんは公園から去っていった。
「さーてと、家帰るよ!おいで〝ミラ〟!」
「ミラ……?それって、来夢の事なのか?」
「そうよ!あんたが、この時代にいる間の名前!私と同じ名前じゃ、今みたいに色々不便だからよ!……一緒に暮らすんだし」
「どうして、ミラなのじゃ?」
「あんたは〝未来からきた来夢〟でしょ?それを略して、ミラ!今思いついた名前よ!もしかして、気に入らなかったかな?」
「そんな事ないのじゃ!ありがとう!ひいおばあ様!」
私とミラは、手を繋いで歩き始める。
あれ?今、私から手を繋いだんだっけ?それとも、この子から?
私は〝その瞬間〟を思い出せないくらい、自然に手を繋いでた事に気がついた。
ウフフ!変なの!でも、こういうの悪くないかもね!
「ねえ?昭和特撮ヒーローたち。私、これで間違っていないよね?」
「ひいおばあ様、何か言ったか?」
「な、何でもないよ!」
照れ隠し気味に言って、私は夜空を見上げる。
大勢の昭和特撮ヒーローたちが、サムズアップして私を励ましてくれてる姿が見えたような気がする……。
今は、これで良い。多分何とかなるよ!
〜次章、第3曲目「ミラちゃん はじめての2025ねん!〜死闘!?来夢VSオーヴァー〜」に続く!〜




