第8話 未来経済とベガ星人の科学力は、ダメだこりゃ~!!
「本当に☓☓山公園だわ」
私はぐるっと辺りを見回す。夜の公園は街灯の明かりがポツポツ点いているだけで、誰の姿もない。さっきまで住宅街にいたのに、一瞬で家から5分の公園にワープしてきたことに思わず震えた。
「これが、ベガ星人の技術なの?」
私は口をポカンと開けたまま呟く。
「どうやら、誰もいないようだね。それじゃ、準備するか」
華印は周囲を警戒しながらも、胸ポケットから何かを取り出そうとする。
「お婆ちゃん、これが〝タイムカプセル〟だよ」
華印が掌に乗せたのは、萎んだ風船のような物体。
「え?これが?どう見ても風船じゃないの?」
私は眉をひそめ、人差し指でつつこうとする。
「百聞は一見にしかず。まあ、見ててよ」
華印はニヤリと笑い、勢いよく息を吹き込んだ。
次の瞬間――
「わ!わ!わ!ふ、風船がぁぁー!!」
私が叫ぶ間に、風船はみるみる膨らみ、軽自動車ほどの大きさの透明な球体へと変貌していった。
「アハハ、驚いた?これがカプセル型タイムマシーン〝タイムカプセル〟さ!」
華印は胸を張る。
透き通った球体の内部には、たった一脚の座席と……なぜか黒電話。
「ちょっと待って!何で黒電話!?未来の宇宙技術にアナログすぎでしょ!」
私はツッコミながら、鼻の頭にシワを寄せる。
「さあ、それは俺に聞かれても……」
華印は苦笑し、肩をすくめる。
「それじゃ、そろそろ俺は行くよ。お婆ちゃん、来夢ちゃんの事をよろしくね!」
「ちょっと待って!私は一人暮らしで、フリーターなんだよ?お金無いよ?オムツ代とか、ミルク代は置いてってくれないの?」
「ひいおばあ様、来夢は赤ちゃんじゃないのだ!」
ちび来夢は、むくれてるが、それどころじゃない!万年金欠の私にとっては切実な問題である!
「ごめん!今、持ち合わせ無いから立て替えといて!」
「そ、そんな!」
「来夢ちゃんに、1年分以上の食料は持たせてるから、食費の心配は無いからさ!〝ベガ星人の超科学アイテムを発動出来る機械〟も置いてくから、上手く使えば何とか生活出来るよ」
「ベガ星人の超科学アイテムを発動出来る機械って、さっきのミニタブレットみたいな機械の事?それよりも1年分以上の食料?どこにそんな物があるのよ?」
華印は、またまた意味が分からない事を言う。
「詳しくは、後で来夢ちゃんに聞いて。お金は迎えに来る時に必ず返すよ。現金と電子マネーどっちが良い?」
「現金で!」
電子マネーは、イマイチ慣れてない私は、華印の問いに即答した。
「了解!そういえば、2025年の紙幣の肖像って誰なの?」
「え?渋沢栄一とか、津田梅子だけど?」
「あちゃー!それじゃ、俺の時代とは肖像が変わってるから現金はダメだな!」
「2110年の紙幣って、今と違うの?」
よく考えたら85年も経ってれば、紙幣のデザインが変わってるのも当たり前か。私は言った後で気がついた。
「ちなみに、2110年のお札は、誰が使われてるの?」
「えーと、壱万円札が〝いかりや長介〟で、五千円札が〝志村けん〟、千円札が〝仲本工事〟、多分この時代には無い拾万円札が〝高木ブー〟で、伍万円札が〝加藤茶〟だよ」
「未来のお札全部、ドリフターズなのかよー!確かに、お札になるほど凄い人達ではあるけどさ!それにしても2110年楽しそうだな!私も、そのお札使って買い物したいわよ!オイ!」
「あ!そうそう!2100年には期間限定で、志村けんのバカ殿様バージョンの五千円札が発行されたんだ!」
「記念切手じゃねーんだぞ!?未来の財務省遊び心あり過ぎだろ!大丈夫かよ?日本経済ぃぃー!!ダメだこりゃー!!」
「ひいおばあ様、さっきからうるさいのう!」
はっ!あかん!華印が説明したドリフターズの紙幣のツッコミに力を入れすぎて、つい声が大きくなってしまった。
「ごめん!誰かに見られたら、大変だもんね。私が悪かったわ」
「分かればいいのだ!」
「それじゃ、お婆ちゃん、俺、今度こそ本当に行くから」
華印は、まるで通り抜けるかのように、タイムカプセルの内部に入った。
例えるなら、シャボン玉を割らずに中に入ったような感じだ。タイムカプセルってドアとか無いの?
「ちょっと!私にも中を見せてよ!」
私は興奮気味に駆け寄るが――
〝ガツン!〟
「ぎぶっ!い、痛っ!」
まるで、ガラス張りの扉に勢いよく顔面をぶつけたくらいの痛みで鼻を押さえた。
「これは、最初に空気を吹き込んだ人間にしか使用出来ないんだよ」
カプセルの中から、華印の冷静な声が響く。
「説明は先にしなさーい!」
鼻を押さえながら涙目で叫ぶ私であった。グスン!
「ちょっと待って、華印!この子の分のカプセルは、どうしたの?」
私は、ちび来夢の頭を指差して、華印に尋ねる。
「ああ、来夢ちゃんのタイムカプセルは、この時代に来た時に、壊れちゃったんだ」
「そうなの?」
「ひいおばあ様、これ来夢のカプセル」
そう言って、ちび来夢は華印と同じような萎んだ風船を見せるが、それには穴が開いていた。
「やっぱり、タイムワープの衝撃とかに耐えられなくて壊れたの?」
私は、華印に問いかける。
「違うよ。この時代に来て着陸した時に、落ちてた画鋲を踏んで壊れちゃったんだ」
「脆すぎんだろ!ベガ星の科学力ぅぅー!!そんな豆腐メンタルみたいな強度で、よくタイムスリップ出来たな!オイィィー!」
「ひいおばあ様、またうるさいのじゃ!!」
「あ、はい。すいません……。ツッコミどころ満載エピソードだったので、(私が頑張んなくちゃ!)と思って、また調子乗り過ぎました」
「アハハ!若い頃のお婆ちゃんも本当に面白い人だね!」
華印は笑いながら、黒電話の受話器を取り上げ、慣れた手つきでダイヤルを回した。
「もしもし?タイムワープお願いします。ワープ先は2110年◯月☓日、東京都◯◯区△△町まで!」
「いやいやいや、タイムマシーンの操縦ってそんな軽いの!?誰と通話してんのよ!」
私は腰に手を当て、呆れ顔で叫ぶ。
次の瞬間、公園の夜空にブラックホールのような渦が現れ、タイムカプセルがふわりと浮かび上がる。
「それじゃあ、お婆ちゃんと来夢ちゃん!2026年にシーユーアゲイン!」
カプセルの中で、私たちに笑顔で手を振る華印。
「お金返すのは、auPAYでお願いねー!」
私は全力で叫ぶ。
華印が答えるよりも早く、タイムカプセルはブラックホールへと吸い込まれていった。
光も渦も消え、公園は再び静寂に包まれる。
――まるで夢だったみたいに。




