第3話 ギターよ、どこへ消えた!?~出禁コレクター来夢の受難~
……気がつくと、私は1人きりで閑静な住宅街を歩いていた。
夜の住宅街って、どうしてこう「しーん」とし過ぎてるんだろう。犬の鳴き声一つない。街灯の下で、自分の影がやけに長く伸びているのを見て、余計に心細さが倍増した。
確か――楽屋で皇と喧嘩して……その後はどうしたんだっけ? っていうか、ここどこ!? コンビニの看板すら見当たらない!
しかも……。
「あれ?ギターが無い!?」
肩にあるはずの命の相棒――ギターケースが消えている。
慌てて周りを探すが、どこにも見当たらない。
「無い!無い!!私の命の次に大事なギターが!どこ行ったー!?」
いや、正直に言うと「命の次に大事」は盛った。
ほんとは「命と同じくらい大事」だ。
いやむしろ「命より大事」かもしれん!だってギターがあれば米も食えるし、酒も飲めるし、カッコつけられるんだぞ!?
だけど頭が全然回らない。飲みすぎたか?
楽屋で皇とやり合った後の記憶が、ぷっつり途切れている。
「仕方ない、菜々子に聞いてみるか……」
私は、震える指でスマホを取り出し、菜々子にLINE電話を掛ける。
――すぐに繋がった。
「もしもし、来夢ちゃん!?今、どこにいるの?」
「あー、ライブハウスの近くかな?……っていうか、菜々子こそどこ?ライブハウス?」
「そんなわけないでしょ!」
電話口から怒声。私は思わずスマホを耳から離した。鼓膜がビリビリしてる。菜々子、マジギレ中だ!
「来夢ちゃんと皇ちゃんが楽屋で大喧嘩したせいで、私達、スタッフの人達からライブハウス追い出されたんだよ!しかも出禁!出禁だよ!?広い楽屋があって最高だったのに!」
あー……やっぱそうなったか。
菜々子の説教は続く。
いや、もはや説教じゃなくて人生相談レベルだ。
「もうこれで何件目?私の将来は真っ暗!このままじゃヤクザのお兄さんに、お風呂屋さんで働かされるんだ!一日中ヌメヌメした浴槽をベロで掃除して、湯上がりのお客さんにフルーツ牛乳配って、味が薄いって怒鳴られて……あぁぁ、嫌だー!本当はちゃんとした会社でOLさんやって、コピー機に紙詰まり直して『やるじゃん菜々子ちゃん!』って言われて、その後、同僚と恋愛して、普通に結婚して、普通に家庭を築きたかったのにぃ!お母さーん!ごめんなさーい!」
「お、お前の想像してる‶お風呂屋さん〟って、多分ちょっと違う職種だと思うぞ?なんか18禁的な意味で……」
訂正を試みたが、菜々子には届かない。彼女のネガティブモードはフルスロットルで、もはやリニアモーターカーレベルだ。
「とにかくごめん!今日の事は私が悪かった!もう寝ろ!宿題やれ!おやすみー!」
私は半ば強引に通話を切った。
これ以上付き合ったら、胃が爆発する。
「はぁ、また出禁か」
本当は気にしてないフリをしていたが、胸の奥がズーンと重い。今日の場所で3軒目。
まだバンド結成して半年だぞ!?2ヶ月に1軒ペースで出禁って、これもう「バンド活動」じゃなくて「出禁コレクター」だ。
「ちきしょー!」
頭をガンガン殴って自分を叱る。嫉妬と苛立ち……全部ダイヤモンドブレイカーズのせいだ。
いや、結局は私の未熟さなんだけどな。
その時。
「駄目だよ。お婆ちゃん。もう夜も遅いんだから、大声出しちゃ!」
「えっ?誰!?」
背後から声がして振り返ると――。 二十代後半くらいの、青色の髪をした痩せ気味の男が、ニコニコ立っていた。
その隣には、五~六歳くらいのピンク髪の女の子。
おいおい、この住宅街にこんな原宿系親子いる!?夜中だぞ!?
「うん?っていうか今、私のこと‶お婆ちゃん〟って言ったか!?」
思わずツッコミが飛び出す……ギター失踪事件どころじゃない予感がしてきた。




