第21話 仲間よ許してくれ!来夢、涙と後悔の土下座スペシャル!
「おーい!甘子!5番テーブルのお客さんの料理が出来たぞ!運んでくれや!」
厨房の奥から、大将のドスの効いた声が響いた。
「私、もう行かなきゃ。来夢ちゃん。大丈夫?」
甘子さんはお盆を抱えたまま、私を心配そうに見てくる。
「グス……。あ、は、はい!大丈夫です。急に、ごめんなさい。それじゃ失礼します」
私は慌てて袖で目をこすり、作り笑顔で答えた。
「またね、来夢ちゃん」
そう言って甘子さんは、颯爽と厨房へと戻っていった。
2階の応接室――バイトの制服を脱いで私服に着替え終えた私は、居間でテレビに夢中になっているミラを迎えに行った。
「ミラ、お待たせ。さあ、行くわよ」
私が声をかけると、ミラがクルッと振り向く。
「はーい!……あれ?ライ様、目が赤いのだ。もしかして泣いてたのか?」
じーっと見つめてくるその純粋な目に、思わずドキリとする。
「な、泣いてなんかないわよ!こ、これはあれよ、〝鬼怪獣オニオンのタマネギガス〟を浴びちゃったのよ。アハハ!」
私は慌てて両手を振りながら、苦し紛れの特撮ネタをひねり出した。
「ライ様、オニオンって何じゃ?」
ミラは首を傾げて、目をキラキラさせる。
「オニオンってのは『ウルトラマンレオ』第27話『強いぞ!桃太郎!』に出てくる怪獣よ!鬼みたいな姿をしてて、口から涙が止まらなくなるタマネギガスを吐くの!」
私は顔の前で両手を広げ、オニオンの真似をする。
「えー?そんなガス浴びたくないのじゃ」
ミラは両手で鼻を押さえて後ずさり。
「ミラも良い子にしてないと、オニオンが来るぞ〜!オニオンだぞ〜!ガオーッ!」
私は腰を落として四股を踏みながら、鬼のように両目を吊り上げてみせた。
「アハハ!ライ様、全然怖くないのだ!」
ミラはお腹を抱えて笑い転げる。――ありがとう。あんたのその笑顔、元気をくれるわ。
時計を見ると19時50分。ちょうど集合時間に間に合いそうだ。
「これから駅前のファミレスの〝シャイゼリア〟に付き合ってくれない?友達と会う約束があるんだ。ケーキとかアイス食べていいからさ」
「本当!?やったー!行く行くのじゃ!」
ミラはぴょんぴょん跳ねながら両手を突き上げて喜ぶ。……この反応、まだまだ子供だわ。
ファミレス〝シャイゼリア〟。
入り口付近の席で手を振る菜々子と、その横に腰かける皇の姿が見えた。
「菜々子、皇。お待たせ。待った?」
私はミラの手を引きながら席に向かう。
菜々子は、ピザとサラダとドリンクバーを前にして上機嫌。皇はソーセージ盛りと赤ワインを片手にふんぞり返っていた。
「来夢ちゃん、その子誰?」
菜々子が、キョトン顔でミラを見る。
「ら、来夢?いつの間に、そんなデカいガキを産んでたんだよ!?」
皇はワイングラスを持ったまま、目を剥いて叫んだ。
「私の子供じゃないわよ!〝かくかくしかじか〟……ってな訳よ!」
私はさっき大将たちにした説明を、ほぼコピペで披露する。
「そうだったの?やーん♡ミラちゃーん可愛い♡」
菜々子はテンションMAXで、ミラを抱き上げてナデナデ。
「キャー!可愛い♡可愛過ぎる♡ナナが一緒に暮らしたい!」
両頬をスリスリされて、ミラは「アハハ!ナナ様!くすぐったいのだ!」と笑っている。
「アタシは昴皇。よろしくな!……ま、挨拶代わりに一杯飲むか?」
皇はワインを差し出す。
「いや、この子は5歳なんだから飲ませんなって!久々の本編復帰で、いきなり事案発生はダメでしょ!」
私は慌ててグラスを押し返した。
「何だよ〜♪第10話にも登場したろ?」
「ありゃ、夢の中だからノーカウントなの!」
「えー?そうなのかい?」
「そ、そんな事より来夢ちゃん、知らないかもしれないけど――」
菜々子が、瞳をキラキラ輝かせながら身を乗り出す。
「今度の〝超鳴井界町祭り〟内の『ご当地ヒーローショー』イベントで、スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズが出演する事になったの!」
……はい!知ってます知ってます!私も〝オキシジェンデストロイヤー〟(※1)クラスの爆弾発言があるのよ!!
「おっ、アタシも昼間見たぜ!」
皇がワインを煽って口を拭う。
「開催日は△△月▲▲日で、あと一ヶ月半後だな。セトリはどうする?ラッキーなのはチケットノルマが無いってことだ!あれ、毎回自腹で地獄だったんだからさ!キャハハ!」
「皇ちゃん、それ笑えないから!スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズもチケットノルマくらいは、そろそろクリア出来るようにならなきゃ。来夢ちゃんもそう思うでしょ?」
菜々子が真剣な眼差しで私を見つめる。
「あ、ああ。……そ、そうね」
私は生返事をしながら、胸の奥がギュッと締めつけられるのを感じた。
〝ドクン、ドクン……〟
心臓の音が、やけに大きく響く。耳の奥で、重低音のドラムのように鳴り響いて止まらない。
「来夢ちゃん……?顔色が……真っ青よ」
菜々子が心配そうに身を乗り出す。その視線に耐えられず、私は下を向いた。
「ライ様……?」
ミラの不安げな声が、胸に刺さる。
――逃げられない。
私は震える手を膝につき、深く息を吐いた。
そして、堪えきれずにテーブルの下に膝をつく。
「ごめん……ごめん!私……〝かくかくしかじか〟なの……!」
声が震え、自然と頭が下がる。
床に額をつけた瞬間、店員や他の客たちの視線が一斉に突き刺さるのを感じた。けれど、そんな羞恥心よりも
――仲間に真実を告げる恐怖と罪悪感の方が、遥かに重かった。
それでも、私はバイト先での出来事――ダイヤモンドブレイカーズとの解散決闘の約束を2人に告白した。
「ええええーー!?スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズが、バンド解散を賭けてダイヤモンドブレイカーズと対バン!?そ、そんなの勝てるわけないじゃない!!」
菜々子は両手で頭を抱え、椅子の上でグルグル回る。まるで壊れたメリーゴーランド。
「ひぃぃぃ!終わった!ナナ達の未来が真っ暗闇だぁぁぁ!!」
そう叫んで涙目で大騒ぎ、店内の子供が驚いて泣き出す始末。
「あ、アハハ!今の話はアタシも予想外の超展開だわ!さすが、来夢!アンタ悪い意味で〝持ってる〟ねー!この状況は、特撮番組のサブタイ風に言うと『スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ最後の日!』か、『さらば!スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ!』か、もしくはかーなーりマニアックになるけど『あっ!スーパーヒーローもヒロインも氷になった!!』(※2)のどれかって感じじゃないか!?ここから、どうやれば特撮番組みたいに逆転勝利が出来るんだよ?アハハハハハ……」
皇は乾いた笑いを繰り返しながら、ワインをグイッ。
その笑い声が店内に空しく響く。――皇、目が笑ってない。完全に現実逃避の乾いた笑いだ。
※1…映画『ゴジラ』(1954年11月3日公開)に登場したゴジラを倒した兵器の名前。
※2…意味が分からない人は『ウルトラマン80最終回サブタイトル』で検索してみてください(笑)




