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ギャルバンで昭和特撮ヲタの私が、ひいおばあちゃんになった話  作者: ひらやまけんじ
第3曲目 ミラちゃん はじめての2025ねん! 〜死闘!?来夢VSオーヴァー〜
20/23

第20話 無謀な対バン決闘― それでも挑んだバカな私……

「「……………!!」」


 オーヴァーと私は、無言のまま睨み合いを続けていた。


 テーブル越しに火花が散る……なんて比喩じゃなく、本当に背後でパチパチと蛍光灯が点滅してるのが雰囲気を盛り上げていた。


 「春ちゃんフラレた……春ちゃんフラレた……ブツブツ……」


 静まり返ったホールに、ジェンダーレス生春巻の呟きだけが虚しく響く。


 ……ってアンタはRPGの町の入口にいるNPCか!?話しかけても「ここは〇〇の町です」しか言わないやつ!私にフラれたショックで、セリフループバグに突入したのかしら!?


「ちょっと、来夢ちゃん。騒がしいけど、何かあったのかい?」


 心配そうに顔を出したのは、厨房から現れた甘子さん。両手には洗い物の泡がまだ付いていて、まるで勇者が〝石鹸スライム〟と戦ってきた帰りみたいな出で立ちだ。


「何でもありませんのよ女将さん。中学時代の昔話で盛り上がっただけですのよ。ね?来夢さん!?お騒がせしてごめんなさいですの」


 さっきまで鬼の形相だったオーヴァーが、甘子さんを見た途端、瞬時に猫被りモードへ。頬をピクピクさせながら、作り笑顔で誤魔化す。


「そうなんですか?それなら良いんですけど……」


「さーて、食べ終わりましたので、ワタクシ達はこれで失礼しますわ。ご馳走様でした!女将さん、お会計をお願いしますですのよ」


「あ、は、はい。ありがとうございます。あのー来夢ちゃんのお友達さん、顔中が食べカスまみれですよ。‶飢えたアウストラロピテクスのように本能むき出しで食べたのか?〟ってくらい汚い顔ですよ。女の子なんですから、少しは恥を知った方が良いと思いますよ?」


 甘子さんの遠慮ゼロの直球に、私は思わず吹き出しそうになる。


「あ、アハハ!嫌ですわ!ワタクシったら!お恥ずかしいですのよ♪……っていうか女将さん、大人しそうな顔をしてるのに猛毒を吐きますのね?」


「あら?私、何か変な事を言いました?」


「い、いえいえ。何でもございませんですのよ。……無自覚な分、余計にタチが悪いですのよ」


 オーヴァーの頬が引き攣る。やっぱり甘子さん、天然で一番強いかもしれない。


「それじゃ、一郎さん、生春巻さん帰りますわよ」


「お、オーヴァーちゃん、あの、まだ話は終わってない……」


「春ちゃんフラレた……春ちゃんフラレた……ブツブツ……」


「生春巻さん!いい加減におし!とっとと〝こちら側〟に戻って来るんですのよ!」


 オーヴァーは呆れ顔で、生春巻の頭をゲンコツでゴンッ!と叩いた。


「はっ!?は、春ちゃん、今までどうしてたのかしら?」


「やっと戻りましたわね。さあ、もう帰るんですのよ」


「えー?もう?でも、春ちゃんご飯食べ終わってない……」


「よーくお皿を見なさい!炒飯も味噌ラーメンも完食してるんですのよ。〝あっち側〟に行ってる間に無意識に食べてたんでしょ?掃除機みたいな食欲ですわね」


「あら、嫌だ♡春ちゃんったら、はしたない」


「来夢さん♡〝投票の件〟はワタクシから運営委員に話しておきますから安心なさいな。それじゃまたお会いしましょう!楽しいミュージックフェスになりそうですわ!キャーホホホ!!」


 余計な含みを残しつつ、オーヴァー達は会計を済ませて店を出て行った。


「随分、個性的なお友達なのね。あら?来夢ちゃん、難しい顔しちゃって……どうかしたの?糞詰まり?トイレ行ってきたら?」


「さっきの私と同じこと言わないでくださいよー!糞詰まりじゃないけど、トイレには行きます!」


 私は赤面しつつトイレへ直行した。


 ドアを閉める音が妙に大きく響く。


 フー……やっと落ち着いた……って、やっちまったああああーーー!!!


 オーヴァーに昭和特撮を馬鹿にされて、ついカッとなって〝対バン決闘〟を受けちゃったじゃないの!ポイズン!


 しかも、負けたらバンド解散!?絵に描いたような……いや、文字だけど……〝お約束の暴走〟をやらかしてんだ私!


 ……トイレから出た私が見たのは、ミラが小さな手で雑巾を握りしめ、テーブルを一生懸命に拭いている姿だった。背伸びをしながら、届かない部分はぴょんぴょんと飛び跳ねて拭こうとしている。


 「ミラ、起きてたのか。どう?よく寝れた?」


 私が声をかけると、ミラは顔を輝かせて振り返った。


 「あ!ライ様!〝5話分〟くらい寝たから、頭スッキリなのじゃ!」


 にぱっと笑うミラ。両手で数字の「5」を作って得意げに掲げる。


 「5話分って、どういう意味よ?」


 眉をひそめる私に、ミラは照れたように舌をちょこんと出した。


 「てへ♪ ミラちゃん、子供だから難しいことは分からないのじゃ!」


 「……まあ、いいわ。どうして、ミラがテーブル拭いてるのよ?2階で大人しく待ってなさいって言ったじゃない」


 問い詰めると、ミラは雑巾をギュッと握りしめ、潤んだ瞳でこちらを見上げてきた。


「ミラ、ライ様たちのお手伝いがしたいのだ」


 真剣なその顔に、思わず言葉を詰まらせる。


「ごめんね来夢ちゃん。でも、ミラミラちゃん、2階から下りてきた途端『お手伝いしたい!』って繰り返すもんだから、ついお願いしちゃったのよ」


 甘子さんが両手を合わせて、困ったように微笑む。その顔には、どこか母性をにじませた温かさがあった。


 「あ、いや、甘子さんは悪くないです。……ミラ、手伝ってくれるのは嬉しいけどね。17時から夜の部が始まってお客さんが入ってくるから、それまでの間だけよ。私のバイト時間は19時30分までなの。だから17時になったら、少しだけ2階でテレビ観て待ってなさい」


「はーい!合点承知の助なのじゃ!」


 ミラはぴしっと敬礼してから、また楽しそうにテーブルを拭き始めた。その姿に、胸の奥が少しだけ温かくなる。


 やがて17時になり、夜の部が始まった。ミラは約束を守って2階へ上がり、私は夢中で働き続けた。皿を片付け、オーダーを運び、笑顔を絶やさずに……気がつけば19時30分、ラストオーダーの時間だった。


「大将、甘子さん、お疲れ様でした」


 私は厨房に声をかけ、着替えるために2階へ上がろうとした。


「来夢ちゃんお疲れ様!」


 階段を上りかけたところで、甘子さんに呼び止められる。振り返ると、彼女は優しくも真剣な眼差しをしていた。


「あ、甘子さん。お疲れ様です。あの、今日はミラの事でお騒がせして、ごめんなさい!もう次からはアパートで留守番させておきますから」


 慌てて頭を下げると、甘子さんは首を横に振り、柔らかく微笑んだ。


「私も、ミラミラちゃんの事で言おうと思ってね。これからバイト来るときは、ミラミラちゃんも一緒に連れてきなさいよ」


「え?い、いや、それはいくら何でも迷惑じゃ……」


 私が慌てて手を振ると、甘子さんは少し寂しそうに目を伏せ、そして穏やかに言葉を続けた。


「私達夫婦も子供が欲しかったんだけど、どうしても授からなくてね。だから、ミラミラちゃんが自分の娘みたいに思えて可愛かったし、また会いたいなって。今度は、ミラミラちゃんが退屈しないようにオモチャも買っておくわ」


 甘子さんの瞳が、ふっと優しい光を宿す。


「来夢ちゃんも急にお姉さんの子供を預かる事になって色々大変でしょ?私達、もう家族みたいなもんじゃない?それに……〝ずるい〟わよ」


「ずるい?甘子さん、それはどういう意味……」


 私は戸惑って問い返す。


「そうよ。来夢ちゃんだけ〝子育ての楽しさと辛さを独り占めしてる〟なんて。私達もずっと子育てしたかったんだから。‶私達にも、子育ての楽しさも辛さも分けて〟よ。あ、でも来夢ちゃんの場合、自分の子供じゃないから、正確に言うと〝子育て〟って言葉は間違ってるのかしら?まあ、細かいことはいいじゃない!ホホホ!」


「か、甘子さーん!え、えぐ……!う、うわぁぁーん!」


 胸の奥に溜まっていた感情が堰を切ったように溢れ、私は思わず甘子さんに抱きついた。涙が頬を伝い、作業着の胸元を濡らしていく。


「あらあら。急に泣いちゃって、どうしたのよ?まるで来夢ちゃんの方が小さな子供みたいね」


 甘子さんは驚きもせず、優しく笑いながら私の頭を撫でてくれた。その温もりは、ずっと欲しかった母の腕に抱かれているかのようで――胸の奥が締めつけられる。


 この涙は、ミラへの優しさに対する感動の気持ちだけじゃない。


 怒りに任せて「対バン決闘」を受けてしまった自分勝手さへの後悔。


 仲間に迷惑をかけるかもしれない情けなさ。


 全部ひっくるめて、私は泣いていた。


 今頃になって気づくなんて、私は本当にバカだ。


 でも――もう逃げない。2人ともきっと怒るだろうけど、菜々子と皇には、正直に話して謝ろう。


 だから甘子さん。あと30秒だけでいいんです。


 この胸の中で、どうしようもないバカな私を泣かせてください……。

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