第18話 味噌ラーメンより濃い愛と告白かーらーの!超鳴井界町祭りだよ!全員集合!!
「んも〜!来夢ちゃんのイケず♡」
ジェンダーレス春巻がテーブルに身を乗り出して、頬をぷくっと膨らませる。唇の端には、まだラーメンの汁がちょっと光ってる。
「だって、春巻さんには何も悪い事してないから、奢る理由が無いもん!」
私は思わず両手を広げてツッコむ。
ふと、ジェンダーレス生春巻のテーブルを見ると――鮭の塩焼きの骨までキレイにしゃぶり尽くし、餃子(私が1個食べたやつ以外)は皿から消滅。
特盛炒飯は半分以下、3玉入りの極盛り味噌ラーメンもすでに丼の底が見え始めていた。
「春巻さんって、大食いなんですね。あんなに頼んだのに全部食べれそうじゃないですか!」
私は呆れて言う。
「そうなのよ。もーお腹が空いちゃって!これ食べ終えて腹八分目って所かしら?」
ジェンダーレス生春巻は腹をさすりながら、カッと目を輝かせてこちらを見た。
「もしかして来夢ちゃん、春ちゃんの食べっぷりに惚れちゃった?グフフ♡良いのよ!惚れちゃっても♡」
「うわっ、近っ!ちょ、ちょっと距離感!しかも息がニンニク臭っ!」
思わず仰け反る私。ウチの餃子はニンニク多めだから、そりゃあ臭いも強烈よ。
それにジェンダーレス生春巻の目……さっきまでと違う。例えるなら――‶1週間断食させられた飢えたブタが餌を見つけた時〟みたいな、あのギラついた目。
「もう、春ちゃん我慢できない!ダメよ♡もーう純情乙女のこの想いとト・キ・メ・キ♡は止められないわー!!」
「いや、止めてぇぇぇ!!」
私が叫ぶ間もなく、ジェンダーレス生春巻は顔を真っ赤にしてモジモジし始めた。
……ハッキリ言ってキモい。
「どうしたんですか春巻さん!糞詰まりにでもなったんですか!?トイレはあっちですよ?」
私が指差すと、
「味蕾来夢!お食事中にお下品な事を言うなですのよ!」
オーヴァーが目を吊り上げて注意してきた。
「わ、悪かったわよ!気を付けるわ!」
こればっかりはオーヴァーが正論なので、素直に謝る私。
だがその直後――
「あのね……あのね!春ちゃんはね♡来夢ちゃんの事が大好きなのよー!!!」
〝ブーーッ!!〟
思わず口の中の生姜焼き&ご飯を盛大に吹き出してしまい、正面のオーヴァーの顔面に直撃!
「ウッ!ゲホッゲホッ!ゴホン!」
豚肉と米粒が髪にベッタリ張り付き、顔面が給食後の食器洗い場みたいになったオーヴァー。
「ギャー!何てことしやがるんですのよー!さっきは偉そうに注意しておいて、自分も同じ事やってるじゃないですの!?しかもニンニク臭いですのよー!!」
テーブルをバンバン叩きながら絶叫する。
「ご、ごめんてば!だって!春巻さんが急に変な事を言うからビックリしちゃったのよ!」
私は慌てて両手を合わせて謝罪。
「冗談でこんな事は言えないわ!春ちゃんはね本気なの!」
ジェンダーレス生春巻はハートマークを飛ばす勢いで両手でハートを作る。
「あ、あのー〝好き〟って、〝LIKE〟の方ですよね?」
恐る恐る聞くと――
「何言ってんのよ!〝LOVE♡〟ラブの方に決まってるじゃないのよ!LOVE♡LOVE♡L【来夢ちゃんの】G【グッドな】B【ビューティーさに】T【ト・キ・メ・キ止まらないわ】なのよ♡」
「LOVEですってぇぇ!?しかもLGBTの使い方おかしいからーー!!」
「春ちゃんの体は男の子だけど、心は乙女だもん♡」
そう言って投げキッスを飛ばしてくる春巻。
「なんで心は女の子なのに、女の子の私を好きになるの!?おかしいでしょ!」
「だって、春ちゃん〝心は乙女のレズビアン〟だもの♡」
「意味不明すぎるでしょ!!〝体は男・心は乙女・嗜好はレズビアン〟って、どんな三段変化よ!?重い!重すぎます!!NOです!ダメです!!お断りします!!〝L【来夢ちゃん】G【グレートな】B【爆弾発言に】T【トラウマ】〟なのだー!」
私も負けじと全力で間違ったLGBT発言で、お断りの返事を伝える。
「ウソ!?春ちゃんフラれちゃったの!?ショッーク!」
ジェンダーレス生春巻は、そう言って項垂れると真っ白になって燃え尽きてしまった……。
今の流れで、どうして私がOKすると思ったのかしら?その自信の根拠を聞きたいわよ!
「……そんな事よりも春巻さん、さっき『〝あの事〟を話したい』って言ってませんでした?何の事ですか?」
「……春ちゃん、失恋のダメージ大きすぎて何も話せない!」
うーん。こりゃ、今は話し相手にはならないな。それにしても初めて男の人から告白されたのに〝心は乙女のレズビアン〟が相手かよー!
世の中には色んな人がいるから、そういう人がいるのは分かるし全否定はしないわ!
でも!でも!私は初めてなら、本郷猛様やモロボシ・ダン様みたいな男の人に告白されたかったわ!グスン!
「味蕾さん、生春さんは一応本気だったみたいだよ。それじゃ、僕が代わりに教えてあげるよ。ほら、今日詳細がアップされた〝お祭りのイベント〟の事だよ。まだ知らなかったかな?」
そう言って加藤一郎君(話してみたら思ってたより良い人っぽいので、心の中でも〝君〟付けで呼んであげよっと!)は、スマホの画面を私に見せた。
恐る恐る画面を覗き込むと――
『今度の〝超鳴井界町祭り〟内のご当地ヒーローイベントは、穂戸怒区戦隊マスタードレンジャーの「ヒーローショー」と、特撮・アニメソング盛りだくさんの「ミュージックフェス」の豪華2部構成となります!』
……ここまでは普通だ。うん、町の祭りだし、ヒーローショーは毎度の恒例。
ところが、次の一文を読んだ瞬間、私の目が見開いた。
『演奏してくれるバンドは‶超鳴井界町で活躍中の「ダイヤモンドブレイカーズ」と「スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ」に決定しました!〟よい子のお友達のみんな!お楽しみにね!』
「えええええ!!?マジでーーーー!!?」
私は立ち上がり、思わず机をバァン!と叩いて叫んでしまった。
「ウソでしょ!?『スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ』って、ウチらじゃん!?なんで!?いつ!?誰が応募したの!?てか審査とか無かったの!?」
私は嬉しさのあまり頭を抱えて、その場でドタバタ床を転がった。
オーヴァーがハンバーグを噛みながら「ちょっと!店を壊すんじゃありませんのよ!」と怒鳴るが、そんなの耳に入らない。
「うおおおーー!!昨日ライブハウスを出禁になって『もうダメだ…』って落ち込んでたのに!?まさかの町祭りステージに大抜擢!?この急上昇、完全に特撮でいうと第3話で「仲間が一気に増える回」じゃん!!」
気付けば私は思わず、昭和特撮ヒーローばりの変身ポーズをキメていた。
「ライダー変身ッ!!……じゃなくて、バンド大逆転ッ!!」
オーヴァーが小声で「この子、本当にバイト中なのかしらですわ?」と呟く。
でもそんなの関係ねえ!でも、どうしてウチらが出演することになったんだろ?……次の瞬間、脳裏に、ある記憶がフラッシュバックする。
あっ!思い出した!
確か2ヶ月くらい前、菜々子が笑顔でこう言ってた。
『今度の超鳴井界町祭りはミュージックフェスもあるんだって!来夢ちゃん、応募しておくね!』
「な、菜々子おおおおーー!!!」
私は両手を天に掲げ、叫んでいた。
「菜々子のおかげだよ!ありがとう!ありがとーーー!!!」
思わず壁ドンを連発する。定食屋の壁がミシミシ鳴ってる。
「味蕾さん店が崩壊しちゃうよ……」と、こっそり加藤君がツッコんでくる。
「だって!だって!菜々子がいなかったら、このチャンスは掴めなかったんだよ!?もう大好き♡超LOVE♡バンドの女神だわ♡」
私は両手でハートを作って、菜々子に遠隔告白。
「ぷぷっ、何赤くなってんですのよ?告白なら本人に言えばいいですのに」
オーヴァーが鼻で笑った。
「う、うるさいわね!これは感謝の表現よ!感謝!!」
私は顔を真っ赤にしながら、机をバンバン叩いてごまかした。
こうして昨日までドン底だった私のテンションは、一気に科学戦隊ダイナマンの必殺技・スーパーダイナマイト級に爆上がりしたのであった。




