第16話 定食屋大戦争!来夢VSオバサンダー!宿命の昼下がりバトル!?
「ちょっと!ワタクシの話を聞いてるんですのよ!?味蕾来夢!!」
〝オーヴァー・ジュリエッタ〟こと〝尾羽定子〟は、発情期のペリカンみたい(見たことないけど)にクチバシ全開で大口を開け、手をバタバタさせながら喚き散らしている。
顔はスッピンで血色悪いのに、目だけギラギラしてるから余計に怖い。
半年間、派手なメイクと悪趣味ゴスロリ衣装の「ステージ上のオーヴァー」しか見てなかった私は、すっかり忘れていたけど……。
久々に見たこの「すっぴん+ジャージ」という庶民スタイルは、反射的に中学時代のアダ名〝オバサンダー〟を呼び起こしたのだ!
プッ!ククク!尾羽定子だからオバサンダー!当時は「おばさんのオバサンダー!」と男子たちに冷やかされる度に顔を真っ赤にして大暴れしてたっけ。机ひっくり返したり、上履き投げたり。あの時は(ちょっと可哀想かも)と思ったけど……今思えば、完全にザマァだわ!アハハ!
「ムキキャー!何をニヤニヤしてるんですの!?どうせ、ワタクシをバカにしてるんでしょー?」
オーヴァーは、近くのテーブルをバンバン叩き、ジャージの袖がずり落ちて二の腕がプルプル震えている。
「別に〜?お客様どうするんですか〜?お帰りですか?お帰りなんでしょ!?っていうか、もう帰れ♡またのご来店をお待ちしてまーす♪」
私は、わざと満面の作り笑顔でファミレス店員のマニュアル風お辞儀をして、オーヴァーを挑発する。
「キーッ!何で、ワタクシが店に入らない方向で話を進めようとしてやがるんですのよ!このスーパー無能店員がー!」
テーブルを叩くたび、置いてあった割り箸が飛び跳ねる。
「無能店員ってのは、聞き捨てならないわねー!しかも〝スーパー〟なんて付けて無駄にグレード上げないでよ!!」
「キャーホホホ!スーパーで足りないなら〝ハイパーデリシャスゴージャスうつけ者スーパー無能店員〟と呼び直してあげますのですのよ!」
オーヴァーはイスに片足立てポーズで高笑いする。
「ぐぬぬー!オバサンダーのくせに!」
私も負けじと、オーヴァーの目の前に仁王立ちして指差す。
「オバサンダーって言うなですのよー!!」
オーヴァーは顔を真っ赤にしながらテーブルに手をかけ――まるで昭和の親父みたいに〝ちゃぶ台返し〟を狙った!
「やめろバカ!それお店のテーブルだから!壊れたら、私のバイト代から弁償になるだろーが!」
私が慌てて止めようとするが遅かった。
「ワタクシの怒りの鉄拳ッ!テーブルごと天地返しですのよー!!」
と叫びながら持ち上げようとした――が。
「ぐ、ぐぬぬぬぬ!?お、重い!?動かないですのー!?」
全力で持ち上げようとしたテーブルはビクともしない。
オーヴァーの腕はプルプルと震え、顔はさっき以上に真っ赤っ赤。
そして次の瞬間――バランスを崩してテーブルの角が自分の膝に〝ガンッ!!〟ってなった。
「ぎゃあああああ!ワタクシの膝があぁぁーー!テーブルの角がクリティカルヒットぉぉーー!!」
オーヴァーは膝を押さえて床を転げ回る。
その様子を見た私は、思わず額に手を当てて深々とため息。
「アンタさ、見事に〝自爆〟してんじゃねーか!自分でダメージ受けてんじゃん!RPGなら仲間に回復魔法かけるより先に説教イベント発生するやつだわ!!」
「ち、違うんですのよ!これは作戦通りの……い、痛いぃぃぃーー!!」
〝ガラガラ〟
「ちょっと、オーヴァーちゃん!さっきから何やってんのよ!早く入りましょーよ!」
その時、入り口から乱入してきたのは、筋肉ムキムキにパリピ女子みたいな服を着こなした「心は乙女」のジェンダーレス生春巻だった。
「あーら♡来夢ちゃんじゃないの♡もしかして、ここで働いてたの?〝あの事〟も話したいから、ちょうどいいじゃない♡ね?三人大丈夫なんでしょ?」
ウィンクしながら手をひらひらと振る生春巻。その横で涙目のオーヴァーは「ちょっと待ちなさいよー!」と空回り。
続いて入ってきたのは、名探偵コ〇ン風の服装をしたガリガリ男。その顔は青白く、今にも倒れそうな病的な雰囲気を漂わせてる。誰よコイツ?
――だがそんな事を考えてる暇はない。
「ワタクシは目玉焼きハンバーグ定食ですのよ!」
「春ちゃんはねー!炒飯特盛と鮭の塩焼きに、味噌ラーメン極盛りと餃子お願い♡」
「生春さん、そんなに頼んで食べられるの?僕はライス小と納豆と味噌汁をお願いします」
矢継ぎ早に注文する3人。まるでショッカーの再生怪人軍団が一斉にポーズを決めるみたいだ。
私は必死でメモを取り、厨房に戻り大将にオーダーを伝える。
「ちょっとー!ハイパーデリシャス(中略)店員さーん!こっち来るんですのよー!」
ホールから、オーヴァーの奴の忌々しい声が響く。
マトモに相手すると喧嘩になりそうなので、仕方なく私はロボット接客モードで近づいた。
「オキャクサマ、オヨビデショーカ?」
「テーブルが汚れてますのよ!さっさと拭いてもらえますことですのよ?」
オーヴァーが顎で指し示す。上から目線にも程がある。
「カシコマリマシタ。オフキシマス」
私は笑顔を凍らせ、無心でテーブルを拭き始めた。
〝バシャ!〟
「ぎゃー!アチチチ!私の右手の皮下組織が真っ赤に燃えるぅー!物凄く熱いと轟き叫ぶー!」
突然、右手に熱いお茶をぶっかけられ、私は思わず某機動武闘伝の必殺技風な台詞を絶叫した。
「キャーホホホ!ごめんなさーいですのよ!手が滑っちゃいましたのですのよ!」
オーヴァーは両手をほっぺに当てて「てへぺろ」ポーズ。悪びれる気ゼロ。
「この女ァ!ギタリストの命の右手に何てことをぉぉ!」
「ちょっとオーヴァーちゃん!来夢ちゃんをイジメないで♡春ちゃんのオ・ネ・ガ・イ♡」
生春巻がウインクしながらオーヴァーに注意する。
「あ~ら、春巻さん。誤解ですの~♪ワザとじゃないですのよ♡」
とニヤニヤするオーヴァー。
私は堪えきれず――
「はい!私の不注意です!お客様、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたー!!」
〝ゴチン!〟
深々と頭を下げるフリをして、オーヴァーの額に必殺ヘッドバットをお見舞いしてやった。
「い、痛ーいですの!な、なんて石頭ですのよー!」
額を押さえてイスごとひっくり返るオーヴァー。
「ああ!?お客様ぁー!すいませんでしたぁー!でも〝最近少し有名になった程度で調子に乗ってる〟ダイヤモンドブレイカーズのオーヴァー・ジュリエッタ様なら、このくらいの痛みは華麗にスルーしてくれますよねぇー!?」
「キャーホホホ!そ、そうですわね!〝全然注目されないスーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ〟の味蕾来夢ごときに怒るわけありませんのよー!」
私たちは同時にニタァと笑顔を作り――
「「キャーーーホホホホホホーーー!!」」
怒気と火花が交差する笑い声が、定食屋〝おととい来やがれ!〟に轟き渡るのだった。




