第15話 定食屋より愛をこめて♡地味ジャージ姿のライバル参上!
「まあ、お店の名前はアレだけど、味は凄い美味しいし、メニューも和洋中とバリエーション豊富で、この〝超鳴井界町〟でも有名な人気店で、他の町からも食べに来る人もいるくらいなんだから!」
私は胸を張って、自分の職場を誇らしげに説明した。
「ライ様。超鳴井界町って何のことじゃ?」
キョトンと首を傾げるミラ。まん丸の瞳が、まるで「説明して♡」と言わんばかりに光っている。
「えっ?今、私達が住んでるこの町の名前じゃない?ここは東京都〝穂戸怒区〟の〝超鳴井界町〟よ!」
自信満々で言い切った私に、ミラの眉毛がハの字に下がる。
「穂戸怒区の超鳴井界町?東京都に、そんな中二病を拗らせたみたいな名前の区は無い……」
「ねえ♪ミラちゃん♡」
私はニッコリと営業スマイルを浮かべ、両肩をガッチリ掴んで顔をグイッと近づける。
「いーい?ミラちゃん?よーく聞いて!〝この時代の東京都には穂戸怒区の超鳴井界町は存在する〟んだよー!作者のご都合設定にツッコミ入れると、キリがないから!ミラちゃんもこの時代で暮らすなら、もっと柔軟に物事を捉えた方が楽しいわよ!ね♡」
「わ、分かったのだ!この時代の東京都には、穂戸怒区という区があるのだ!ここは超鳴井界町なのじゃ!」
うんうん!と大きく頷くミラ。どうやら刷り込みは成功したようだ。よかった!
――と、そこへ。
「おう!店先が五月蝿いと思ったら、来夢じゃねーか!そんな所に突っ立ってねーで、早く着替えて手伝ってくれ!」
ガラッと店の扉が開いて、店長の無糖画二郎――通称ガジローの大将が、額に汗をにじませた強面で顔を出した。
「ひっ……!」
ミラは反射的に、バッと私の背中に隠れる。
まあ、無理もない。初見では絶対にデストロン初代幹部のドクトルGみたいな強面オジサンにしか見えないからな。
……ガジローの大将と私の出会いは、スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズを結成したばかりの半年前になる。
私が公園で、ギターを弾きながら『ウルトラマン80』を歌っていたら、偶然通りかかった大将が声をかけてきたのだ。
最初は(ナンパ?)と警戒してしまったが、話をしてる内に、大将は現在五十歳で子供の頃から特撮ヲタクな事が分かって、私みたいな若い女の子が昭和特撮が好きでコピーバンドまで結成した事に、とても感動してくれたの。
それで、昭和特撮ネタで意気投合した私を自分のお店でバイトとして雇ってくれたんだ。
大将が私の活動を応援してくれる事もあって、バイト代も結構良い上に、賄い付きと悪くない条件である。
ここのバイトが無ければ、今頃はバンド活動なんて出来なかったかもしれないな。
「あ、おはようございます大将!」
私は慌てて頭を下げる。
「ん?何だい?そのおチビちゃんは?」
大将の眼光がギラリと光り、ミラは背後でプルプル震えていた。子犬みたいに私の服をぎゅっと掴んで、完全にビビりモード。
いやいや、大将は見た目アレだけど、中身は昭和特撮オタの優しいオジサンなんだってば!
……しかし当然、大将からしたら怪しい子連れで出勤してきた私が不審者にしか見えないのも無理はない。
「あ、あの大将。実は、この子はね。えーと、そうそう!お姉ちゃんの子供なんですけど、しばらく私が預かる事になっちゃったんです!」
私は背中のミラを片手で抱えながら、強引に笑顔を作って言い切った。
「姉貴の子供だって?何で、来夢が預かるんだよ?姉貴の旦那さんや、実家の親父さんは何やってんだ?」
大将の追及が鋭い。目の奥に「ショッカー最後の怪人ガラガランダみたいな圧」が宿っている。
やばっ!……でも大丈夫!一応、15分歩いてる間に考えた(超穴だらけの)言い訳がある!
「そ、そうなんですよね。実はお姉ちゃんは旦那さんの仕事の都合で外国へ行く事になっちゃったんだけど、その国は治安が悪いみたいで、泣く泣くこの子を置いていったんですよ!更に間が悪い事にパパも入院しちゃって、それで私が預かる事になったんですよ!アハハ!」
「来夢!おめえ!おめえなー!!俺を馬鹿にしてんのか!?」
肩をブルブルと震わせる大将。
(終わった!? 嘘バレた!? ここでクビ!?)
と思った瞬間――
「水臭いじゃねーか!そんな事、昨日今日で急に決まった話じゃねーだろ?何でもっと早く俺に相談しなかったんだ!」
まさかの感動モードに入って涙ぐむ大将。
「そ、それで大将、仕事の邪魔はさせないから、この子も一緒じゃダメですか?」
「良いに決まってんだろう!こんな小さい子を外に放り出しちゃ、俺の尊敬する仮面ライダーV3やアオレンジャーに悪の怪人として倒されちまうわな!何にも無い所だけどよ、来夢の仕事が終わるまで2階の応接間でも居間でも好きに使えよ!おめえも苦労してんだな!……グス!」
大将は涙ぐみながら、私に言った。強面だけど、やっぱり良い人だな。あと、今さり気なく名前が出たヒーローが偉大なる〝宮内洋〟様関連なのも素晴らしいわ!
「た、大将!ありがとうございます!本当に助かります!」
予想以上に優しい言葉をかけられて、大将に感謝して深々と頭を下げる。
「おチビちゃん、名前は何て言うんだ?」
わざと口角を上げて笑みを作る大将。……いや、その笑顔、ミステリー作品でトリックを見破られた時の犯人がニヤけ顔にしか見えないから!
「味蕾ミラなのじゃ」
震えながらも答えたミラ。勇気を振り絞った感ある。
「味蕾ミラか!いい名前じゃねーか!よっしゃ!おじさんは今日から〝ミラミラ〟ちゃんって呼ばせてもらうぜ!」
拳を握ってニカッと笑う大将。
「ミラミラちゃん!?かわいいのじゃ!ありがとう、〝ガジロー様〟!」
「が、ガジロー様ぁ!?」
大将の顔がみるみる真っ赤に染まる。耳まで真っ赤。
その場で鼻の下を人差し指でこすりながら、照れ隠しに「へっ、べ、別に嬉しかねーし……」とツンデレ発動。
「大将……照れてるんですね?」
私はジト目でニヤリ。
「て、照れてねぇっつってんだろうが!!」
声が裏返ってる。完ッ全に照れてるじゃん。
ちょうどその時――。
「ちょっとあんた!店先で何を大声出してんのさ!あら?その小さな女の子は誰?」
店の奥から、割烹着姿の女性が腕を組んで現れた。
彼女の名前は無糖甘子さん――この店の女将さんにして大将の奥さんだ。
にこやかな笑みを浮かべているが、目が笑ってない。
その圧に、大将の背筋が一瞬ビクッと伸びた。
「お、おう甘子!いや違ぇんだよ!その、このチビッ子は来夢の姪っ子で……かくかくしかじかってなわけなんだ。で、でもよ、俺は決して照れてたとか、そういうのじゃ……!」
必死にミラの事を説明する大将。耳がますます真っ赤だ。
「ふふふ♡なるほどねえ」
甘子さんはミラに視線を向けると、優しい笑顔を浮かべた。
「ミラミラちゃんだっけ?来夢ちゃんのお仕事が終わるまで、2階で待ってられるかい?」
「は、はい!大丈夫なのじゃ!ありがとう、甘子様!」
ミラは緊張気味にペコリと頭を下げる。
「まあ、礼儀正しい子ねえ。来夢ちゃんの姪っ子さんとは思えないわ」
「……って、それどういう意味ですか!?甘子さん!」
私はすかさず抗議のツッコミ。
「オホホ!冗談、冗談!」
「分かってますよー!あはははは」
甘子さんと私は笑い合った。
大将と甘子さんの厚意で、私のバイト中、ミラは大将たちの自宅である店の二階の居間を使わせてもらえることになった。
畳の部屋に案内されると、早速テレビをつけてリモコンをカチカチ。
「おおっ!?すごいのじゃ!このデカい薄べったい板は、ただの映像じゃなくて音まで出るのだ!まるで立体ホログラムの超初期型なのじゃー!」
目をキラッキラに輝かせ、テレビの前に正座して見入るミラ。
いや、どう見ても普通の地デジ放送なんですけど?未来人の子が見ると、そんな珍しい物に見えるのか?
チャンネルを変えるたびに、ミラは大騒ぎ。
「うおー!この動くネコちゃん、面白いのじゃ!」
→ただの動物バラエティ番組。
「おおお!戦士が火を吹いたのじゃ!ライ様!これも特撮ヒーロー番組なのか?」
→料理番組でシェフがフランベしてただけ。
「あれ?この二人、今から決闘でもするのか?拳と拳で愛を語るのか?」
→昼ドラの修羅場シーン……って、おい!
「ミラ、それ普通に不倫ドラマだから!未来っ子は変な知識仕入れないでいいからー!」
私は慌ててリモコンを取り上げた。
それでもミラは目を輝かせたまま、テレビ画面にかじりつく。
「ライ様!この時代のテレビ番組、どれも新鮮すぎるのじゃ!ミラ、ここから離れられそうにないぞ!」
ソファの背もたれに身を乗り出し、ポテチの袋でもあればそのまま休日のお父さんみたいにダラダラ見続けそうな勢いだ。
「あのね、ミラ。あんた未来人のわりに俗っぽくハマるの早すぎない?」
「えへへ!未来じゃこういうレトロ文化が逆に大人気なのじゃ!ミラは今、考古学的体験をしてるのだー!」
……どこが考古学だ。完全にただのテレビっ子じゃねーか。
さあ、私は気持ちを切り替えて仕事しなきゃ!
開店時間の11時30分となった。
私の主な仕事は、お客さんの注文を受けることや、レジ会計、出来た料理をテーブルまで運んだり、空いたお皿の後片付けなどである。
いつもの事ではあるが、開店と同時に沢山のお客さんが来て忙し過ぎて、あっという間に15時になった。最後のお客さんも店を出たので、昼の部はこれで終わり。16時までは休憩時間となる。
「お疲れ!来夢、今日の賄いは生姜焼き定食だ。ミラミラちゃんはカレーライスでいいか?」
「あ!はい!ミラの分まで用意してくれてありがとうございます!」
労働後の遅い昼食が最高に美味いのよね!厨房に入ると生姜焼きの美味しそうな匂いが漂ってくる。あー!お腹空いたわ!
「ミラミラちゃん、今寝ちゃってるよ。さっきまで楽しそうにテレビ観てたんだけど、疲れたのかねえ?」
二階から降りてきた甘子さんが、そう言った。
昨日の夜は色々あったからなぁ。まだ疲れが残ってるんだろう。
「そうか、じゃあ起きたら温めなおしてやるよ!来夢、先に食ってろ!」
「すいませーん!誰かいないんですのー?お食事がしたいんですけどー!」
賄いの生姜焼き定食を店のホールに運ぼうとした瞬間、店の入り口の方から女性の声が聞こえてきた。……あれ?どこかで聞いたことあるような声だな?
「ん?お客さんか?おい!来夢、店の暖簾はしまったのか?」
「いけない!忘れてた!どうしましょう?もう昼の部終わりなのに」
「暖簾をしまい忘れてたんだから、こっちが悪い!来夢、注文聞いてこいや!」
まあ、私のミスだから仕方ない。言われた通り注文を聞くためホールに戻る。
「いらっしゃいませー!……あ!」
「み、味蕾来夢!?どうして貴女が、こんな所にいるのですのよ!?」
「ゲッ!〝オバサンダー〟じゃん!?」
「ククムカキィィー!そのアダ名で呼ぶのは止めるんですのよー!!」
私にオバサンダーと呼ばれて、壊れたアホウドリのようにキレてる目の前の女の本名は、〝尾羽定子〟。
もうひとつの名は、オーヴァー・ジュリエッタ!!
……なんだけど。
今日の姿は、ステージで見せるあのゴスロリドレス&魔界の姫様みたいな厚化粧とは正反対。
顔は完全にスッピン、髪は寝癖でハネ放題、しかも上下ジャージで、胸には「2-B」ってゼッケンが貼りっぱなしだし、足元はサンダル。
どう見ても、朝イチでコンビニ行こうとして急にラーメン食べたくなった地味目女子である。
「そのジャージ姿、あまりにも庶民派すぎて〝魔界の歌姫〟ってより〝近所のパチ屋帰りのお姉ちゃん〟じゃん!?」
「し、仕方ないじゃありませんの!今日は休日ですの!肌を休ませる日くらいあるんですのよ!」
オーヴァーは頬を赤らめながら必死に抗弁するのだった。




