第13話 食卓に超長い名前のアイドル登場!?未来世界とベガ星はカオス過ぎ!!
「それじゃ、まずはこれを見て欲しいのだ!」
胸を張ったミラは、あの〝素敵空間〟を行き来する時に使っていたミニタブレットらしき機械を取り出した。
「トト様の〝推しアイドル〟のホログラフィ映像を出して欲しいのじゃ!」 ミラは、やけに得意げに機械へ声をかける。
すると、無機質な電子音声が室内に響いた。
「ラジャー! ベガセイニンキアイドルノ〝ジャンヌ・ベクトル・ウピウピ・カールトン・ラーイトノベル・ダート・ナーフ・クヒョヒョ・ウリャー・アリャー・コリャー・ポポー・トウキョウトッキョキョカキョク・ナマムギナマゴメナマタマゴ・イブチャーン〟デスネ?」
「え?今、何て言ったの?」
思わず私がツッコミを入れた直後、タブレットの画面から信じられないほど可愛らしい少女のホログラフィ映像が飛び出してきた。
「へー!本当に浮き出てる。まるで生身の人間みたい」
私は腕を組みながら、冷静に感想を述べた。昨日から色々見すぎて、もう驚くキャパシティが死んでいる。
「この子、何て名前なの?」
そう訊ねると、ミラは人差し指を口に当て、困ったように目を泳がせた。
「今、言ってたのだ!このアイドルは……えーと……名前なんだったかの?」
間髪入れず、電子音声が再び助け舟を出す。
「〝ジャンヌ・ベクトル・ウピウピ・カールトン・ラーイトノベル・ダート・ナーフ・クヒョヒョ・ウリャー・アリャー・コリャー・ポポー・トウキョウトッキョキョカキョク・ナマムギナマゴメナマタマゴ・イブチャーン〟デスヨ!」
「何よそれ?ファミコン時代のドラクエの〝復活の呪文〟か?」
私は、天井を仰ぎながら頭を抱える。
「あー!そうそう!ジャンヌ・なんとか・イブチャーンなのじゃ!」
ミラは、さも分かっていたかのように胸を張る。いや、絶対分かってなかったろ。
「これ、フルネーム言えるファンいるの?どさくさに紛れて早口言葉が混ざってたよね?」
私は半目でミラを見る。
「トト様は一度聞いただけで完璧に覚えたのだ!」
ミラが誇らしげに言う。
「マジかよ!?凄いなアイツ!」
私は思わず感心したが、同時に(いや褒める所そこか?)と自分でツッコミたくなる。
「それで、このアイドルと華印の〝大事な用事〟って、どんな関係?」
私は腰に手を当て、身を乗り出す。
ミラは、笑顔になって両手を広げると芝居がかった声で言った。
「ジャンヌ・なんとか・イブチャーンは、ベガ星の超人気アイドルで、今度1年間かけて天の川を巡るライブツアーを行うのだ!トト様は昔助けたベガ星人と一緒に、〝この子のライブツアーに全通する〟のが大事な用事なのじゃ!」
「…………………………………………………………………………え?」
フー!フー!……深呼吸、深呼吸!落ち着け味蕾来夢。
「ね、ねえ?華印はこのアイドルのライブ追っかけするために1年いなくなる……って聞こえた気がするんだけど?」
私が半笑いで確認すると、ミラは小首を傾げて――。
「いや、その通りなのじゃよ?」
次の瞬間、全身から力が抜けた。
「あんのドルヲタがあぁぁー!〝大事な用事〟って、それかよおぉぉー!?クソがあぁぁぁー!!」
私は頭を抱えて、部屋中をジタバタ転がった。 ゴロゴロ……ドタドタ……バンッ!(壁に激突)
「いってぇぇ!いや、そんな問題じゃねぇぇ!」
まるで地団駄を踏む幼児のように、私は両手両足をバタバタさせながら絶叫する。
「何だよ!てっきり特撮ヒーローみたいに、『地球の平和を守るために悪の組織に単身乗り込む』とか、『悪の宇宙人の基地へ爆弾を抱えて特攻』とか、そういう〝漢の任務〟かと思ったのに!アイドルのライブ!?天の川ライブツアー!?それってただの推し活じゃねえか!!」
私は、さらにフローリングの床へ顔をこすりつけてゴロンゴロン転がり、床に「無念」と文字を描く勢いで血の涙を流す。
「おいコラ華印!昨夜の私の涙を返せーーー!!公園でのあの感動のクライマックスの涙を返せーーー!!!」
その横で、ミラは腕を組んでウンウンと頷きながら――。
「ひいおばあ様、見事なまでの七転八倒なのじゃ♡」
と、完全に観客の顔をしていた。
「ぐぬあああ華印!推し活に行くなら、せめて養育費を置いてけやー!!」
怒りが治まらぬ私は、絶賛床を転げまわり中のまま叫んだ。
そんな私の背中を〝トントン〟と小さな指が触れた。
「落ち着くのだ。ひいおばあ様」
ミラが苦笑しながら、呆れ半分、心配半分の顔で見下ろしている。
「ミラは怒らないの?」
私はゴロ寝の体勢のまま、天井を見上げて問いかけた。
ミラは、一瞬だけ遠い目をした。けれどすぐに、子供らしからぬ優しい笑みを浮かべる。
「トト様は、カカ様が亡くなってからずっと1人でミラを育ててくれたのだ。だから大変だったし、たまには息抜きしても良いと思うのじゃ。それに、今はひいおばあ様がいてくれるから寂しくないぞ」
「……っ!!」
胸の奥がジーンとした。
一瞬だけ泣きそうになったけど、私は慌てて頬をポリポリとかいて誤魔化す。
や、やめろ、やめろ!そんな真っ直ぐなこと言われると……照れるだろーが!
私は子供に優しくされてドキッとするタイプじゃないんだよ!
「ま、まあ、そ、そういうのは、べ、別に嫌いじゃないけどさっ!」
思わず声が裏返る。
「で、でもな!だからってお前のトト様のアイドル追っかけが正当化されるわけじゃねーんだぞ!?泣かせてんじゃねーぞ!アイツーッ!」
私はバンッと床を叩いて立ち上がる。
だが赤くなった顔を見られたくなくて、わざと窓の外を向いた。
「ど、どうでもいいけどさ……」
私は強引に話題を逸らした。
「そのアイドルの歌ってベガ語なんでしょ?地球人に意味なんか分かるの?」
ミラは肩をすくめて、やれやれといった仕草をする。
「トト様いわく『言葉は分からなくても魂に響くんだ!』らしいのじゃ」
「バッカじゃねーの!ガチファンなら魂に響く前に、歌詞を日本語に翻訳してみせろっつーの!アイツ、完全に現場オタクだな!」
私はガックリと膝に手をついたが、怒りと照れによる顔の赤さはまだ消えてなかった。
〝ピコン〟
その時、スマホから受信音が鳴った。
バンドのグループLINEに書き込みがあったみたいだ。
「菜々子からか。えーと『おはよう来夢ちゃん!皇ちゃん!今日の夜打ち合わせしたいから、駅前のファミレスに来れるかな?』か。打ち合わせ?何かあったのかな?」
『おはよー!菜々子。私は、今日バイトあるから20時くらいならOKだよ』と書いて返信する。
〝ピコン〟
また通知音が鳴ったので、グループLINEを開くと皇から『アタシも、その時間なら大丈夫だよ。来夢!遅れたらアタシにビール奢りだよ!クククッ!』という書き込みだった。
昨日あんな喧嘩したけど、引きずらないのがアイツの良い所だな。
〝ピコン〟
菜々子から『2人とも、昨日みたいに飲みすぎちゃダメだよ!それじゃ20時にファミレスでね!』と返信が来たので、私は『後でね!』という内容のスタンプを送信する。
スマホの画面を何気なく見ると、時間は10時前だった。
「もうこんな時間?そろそろバイト行く用意しなきゃ」
「ひいおばあ様。出かけるのか?」
「そうよ。11時から定食屋のバイトがあるの」
「ミラも行きたいのだ!2025年の町を見てみたいのだー!」
「えー?子供なんか連れて行けないわよー!」
「やだー!行きたい!行きたいのだー!そうじゃ!〝大人の姿〟なら良いんじゃよね?」
ミラは、そう言って例のミニタブレットみたいな機械を取り出した……って、いい加減言いにくいな。
この機械の名前は何て言うのかしら?
「それじゃあ〝今日は思い着って!生ぐるみちゃん〟の発動なのじゃ!」
「ラジャー!〝キョウハオモイキッテ!キグルミチャン〟デスネ?ネンレイセッテイハ、イカガイタシマスカ?」
ミラの言葉に、機械の電子音声が答える。
「うむ!〝18歳のミラ〟で頼むのじゃ!」
「ラジャー!〝キョウハオモイキッテ!キグルミチャン〟ヲハツドウシマス!」
機械の電子音声が言い終えると同時に、ミラの全身が輝き始めた!
「キャッ!!こ、これは!?な、なんかプリキュアの変身バンク並みに眩しいんですけど!?しかも尺が長い!」
ミラの体を包む光はやたら演出過剰で、まるで深夜アニメのオープニング映像みたいにキラキラ星やハートが飛び散っている。
「こらー!部屋の蛍光灯が嫉妬してチカチカしてきたじゃないの!」
その輝きが収まると、私の目の前に立っていたのは……!?




