第1話 ウチらが天下無名の〝スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ〟だ!
「皆ーっ!今日もありがとうございまーすっ!スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズでしたーっ!」
都内某所、地下にある小さなライブハウス。狭いフロアには40〜50人ほどの観客が立ち見でギュッと詰め込まれている。今日はインディーズバンドの合同イベントだ。
そんな中、ステージの上で汗だくになって叫ぶ私こそが、ギターボーカル・味蕾来夢!
黒の革ジャンに赤いマフラー、スキニーデニムにゴツいブーツ。
昭和の特撮ヒーローを意識したステージ衣装でバッチリキメて、1970〜80年代の主題歌を熱唱したのに……!
客席は微妙に白けた空気。
一番前の青年が気まずそうに笑って拍手してくれるが、後ろのほうではスマホをいじる奴、友達同士でくっちゃべる奴、棒立ちの奴。
おいこら……!なぜだ!どうして私たちの熱唱が、心に響かない!?
「えーと、皆さーん?楽しんでいただけましたかーっ!?」
しーん。
私の声が虚しく響く。ヤバい、このままじゃ終われない!
「そ、そうだーっ!このマフラー、イカしてるでしょ!?この前、下北の古着屋で発掘したんですよー!」
せっかく今日のために選んだんだから、せめて衣装だけでもアピールして帰らないと——
「はいはい、ごめんねーっ!時間押してるから、次のバンドいくよーっ!」
ドカドカとMCの女性がステージに乱入、まるでテレビの強制終了のように私の話を遮る。
派手な金髪ボブにレオパード柄のワンピース。笑顔だが、目が笑ってない。
「ちょ、ちょっと今、話の途中——!」
「ダメーっ!次のバンドもうスタンバってるから!」
クイクイっと私の袖を引っ張るのは、ベースの七海菜々子。
ゆるふわ巻き髪にメガネ、白地にピンクの特攻服風ジャケットでバンギャとスケバンの間みたいなビジュアルだ。
「来夢ちゃん、行こ?ね?」
ドラムの昴皇も、無言で頷く。
長身で色白で、黒髪ロングをひとつ結びにして、白タンクトップに赤ネクタイを結んでる。
一見物静かだが、口を開けば酒乱で無法地帯。後、巨乳なんだわ!貧乳な私には羨ましいな!クソ!!
くっそー!次の奴らの顔、見たくねぇけど!!
私たちが舞台袖へ下がると同時に、MCが元気よく叫んだ。
「お待たせしましたーっ!次は今、SNSで超話題!〝ダイヤモンドブレイカーズ〟の登場でーすっ!」
歓声が爆発する。
私たちのときには動かなかった観客が、一斉にスマホを掲げ、手を振り、飛び跳ねる。
ステージに現れたのは、ド派手な衣装の3人組。
ギターボーカルの‶オーヴァー・ジュリエッタ〟。
銀髪ロングのウィッグに、片目隠しのバング、全身ラメの入ったピンクのゴスロリ衣装。
口調はインチキお嬢様系で、だが生粋の日本人。
ベースの‶加藤一郎〟。
腰まである金髪のロングヘアをふわりと揺らし、端正な顔立ちの中性的な美青年。白のブラウスと黒のスラ
ックスというシンプルな装いが、逆にその美しさを際立たせている。
ドラムの‶ジェンダーレス生春巻〟。
銀色の着物風衣装をアレンジしたジェンダーレスファッション。自分では(体は男だけど、心は乙女)と言い張るには無理がある筋肉質な体格で、広い肩と盛り上がった胸筋を誇らしげに晒しながら、「性別?それって食べられるの?」と書かれたワッペンを肩に貼っている。
「全く!貴女方の演奏、古臭すぎて見てられなかったですのよ?」
すれ違いざま、ジュリエッタが私の耳元でささやいた。
「な、なによ……私たちの音楽の熱さが、あんたに——」
言葉は、観客の大歓声に掻き消された。
「うおおおー!ジュリエッタちゃーん!可愛いー!!」
「加藤くん!尊い!」
「生春巻お姉様ぁぁぁぁ!!!いや、お兄様ぁぁぁ!あれ?どっちだっけー??」
……何だこの変貌ぶり?
「観客、全員イタコなのかな?」
舞台袖で呟く私に、皇が「は?」と眉をひそめる。
「いや、意味分からん。来夢、どんなツッコミ求めてんだ?」
「来夢ちゃん、イタコってなに?お尻から匂い玉出すやつ?」
ワザとなのか、天然なのか、判別し難いボケをかましてくる菜々子
「それイタチ!しかも雑なボケはやめて!イタコってのは、霊を憑依させる巫女的な——って説明させんな!」
「で、それが観客とどう繋がるんだ?」と、皇。
「アタシらのときは死んだ魚の目だったくせに、あいつら出てきた途端ゾンビみたいに蘇ったじゃん!つまり、全員イタコで霊に乗っ取られてんのよ!」
「だったら、『エメラルドゴキブリバチかよ!』って言った方が伝わるのに!」
ニコニコしながら、菜々子が訳分からん事を言う。
「何それ!?」
「ゴキブリさんをゾンビにするハチさんのことだよ♪」
「「そのほうが100万倍わかりにくいわ!!」」
私と皇のツッコミが、ユニゾンで菜々子に炸裂する。
「二人がかりでツッコまなくても……。ううっ、そもそも来夢ちゃんの例えが悪いんだもん!!」
「なあ来夢、もう戻ろうぜ?」
皇が私の肩をぽん、と叩いた。
——楽屋に戻った私は、鞄の中から缶チューハイを取り出す。
本当はイベント終わってから飲むつもりだったけど……我慢できるかっての!
‶プシュッ〟
プルトップを開ける音がした瞬間、楽屋内の出番待ちおよび、出番を終えた他のバンドメンバー達が、私の事を怪訝な目で見つめてきた。
「ら、来夢ちゃん、お酒はちょっと……まだ終演後の挨拶もあるんだし」
ヤケ酒をあおる私に対して、根が真面目な菜々子が注意してくる。
「うるさーい!飲まずにいられるかっての!」
私は一気に煽る。
「何でウチらがウケなくて、あんなチャラチャラした連中がチヤホヤされんのよーっ!」
「まあ、アイツらの方が今の流行りに合わせてるっぽいからな?」
皇が、私の開けてない缶チューハイを当たり前のように奪って飲む。
その酒、私が買ったやつなんだけど?あげるなんて、一言も言ってないんだけどー!?
「だからアタシ言ったじゃん?昭和だけじゃなくて、平成〜令和のライダーとか戦隊とか、あと最近のアニソンも入れよって!」
「皇ーっ!何度も言ってるでしょ!?私はね、今のチャラい歌じゃなくて『熱い生き様』や『正義、友情』を叫ぶ、昭和特撮ソングの熱い魂を伝えたいの!」
「おかわりいただきまーす!」
いつの間にか、二本目を開けてる皇。早い!早すぎる!
「来夢ちゃん、全方面の方々に喧嘩売るのやめよーよー」
菜々子が苦笑しながら呟いた。
1970~80年代の特撮番組主題歌のコピーバンドである私たちの‶スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ〟。
結成して半年、全然ウケない。
もういっそウケなさすぎて、逆に才能なんじゃないかってくらいに。
でも——
高校生の時、空っぽだった私の人生に情熱を与えてくれたのが、パパが聴いてた昭和特撮ソングだった。
昭和特撮ヒーローソングの熱さと魂を誰かに届けたくてバンドを始めたんだよ!
心の奥で、熱は消えていない。
たとえ観客がスマホの向こうを見ていても。
私は、ヒーローの歌を歌い続けたいんだ!




